その翼に誇りを、その瞳に覇天の輝きを 2

「さて、再び集まってくれた諸君に感謝する」



 スペリオルクエストが発生した後、私達3人はしっかりとデスポーンした。やっぱり、あの時HPが0になっても消えなかったのは、イベントシーンを見せるため仕様だったっぽい。


 一応終わった後に『アーカイブ』の拠点に集まることになってたから、こうして会議室に集まったわけだ。



「あれ? セレスさんは?」


「それも含めて我がクランの者からの報告だ。アリシア君」


「はい! スペリオルクエスト、『その翼に誇りを、その瞳に覇天の輝きを』。【霧隠れの霊廟】の上で留まっている堕龍おろちを本体として、4体の分身が放たれました。次、エイクさん」


「はい。アーカイブのダイモス支部からの報告です。【ターミナル・オロバス】にタイタン型と思われる堕龍おろちが出現。すでに多くのプレイヤーをキルしながら、溶岩の中も意に介さず進撃……というか、燃えたそばから再生しながら強行してユピテルへと向かっています。次、フューラちゃん」


「はいはーい! えっと、私はエウロパ支部からでっす! 【カルディネ湖】にウンディーネ型と思われる堕龍おろちが現れました♪ 水を操って湖のモンスターを全滅させて、しかも湖を広げてだんだんエウロパに近づいて来てます♪ 次ツヴァイさん!」


「はい、ツヴァイです。私はアーレス本部から。【極彩色の大樹海】にオルトロス型の堕龍おろちが出現しました。進行は遅いものの、手当たり次第に捕食を繰り返しながら樹海の深部に向かっています。通った後は雑草も生えない不毛の大地になっているみたいですよ。次はティオさんです」


「はい、ダイモス支部のティオお姉さんです♡ 【霧隠れの霊廟】の麓に現れたワイバーン型が、空を飛んでこちらに向かってきているみたいなんですよ~。困りますよねぇ」


「実際このワイバーン型が一番厄介でね。空を飛んできている分、他の堕龍おろちと比べて圧倒的に早いスピードで【アーレス】に迫ってきているようだ」


「え、それってやばいんじゃない?」


「そうだな。だから、ゴッドセレス君には無理を言って早速対応してもらったよ」


「あー……だからここに居なかったのね」



 セレスさんのフットワークが軽くて本当に助かる。これは後でしっかりお礼言っておかないとね。


 セレスさんには申し訳ないけど、たとえ分裂体だとしてもMr.Q1位が勝てない相手にゴッドセレス5位が勝てるとは思えない。



「とにかくゴッドセレス君が足止めをしてくれている間に、我々は対策を立てなければならない。そこで、君達プライマルクエスト発生者に意見が聞きたい」


「俺らが……というよりは、プライマル関係のNPCから話は聞けそうだぞ?」



 そんなことを言うヘルメスさんの手元には、両手で抱えるサイズの、蓋が閉じられたフラスコ。そしてその中には、黒い靄が集まったような物体に大きな一つの眼が浮かんだ『ホムンクルス』が何かを思い込むように目を細めていた。



堕龍おろちか……忘れるわけがない。忌々しい、私にとっても最悪の記憶だ」



 嫌悪感を隠そうともせず語気を強めて言うホムンクルスに、思わずその場にいた全員が怯む。その言葉があまりにも……あまりにも憎悪に満ちていたからだ。


 そんな周囲の雰囲気を知ってか知らずか、独り言のような語りが続く。



「数十? いや、数百年? 私が何とかしてやりたかったが、ついにそれは叶わなかったな……キャロルよ、君はこんな私を許してくれるか?」


「独り感慨に耽っているところ申し訳ないが、質問いいかね?」



 おぉ、皆が気圧されているっていうのにジョセフさんが話しかけた。さすがは好奇心モンスター、相手が人間ですらなさそうな謎の物体でも関係無しだ。



「……まずは名乗るのが礼儀だと思うのだがね?」


「それは失礼。私はジョセフ、クラン『アーカイブ』のリーダーをしており、この世界の全てを解き明かしたいと目標を掲げた者だ。君は『ホムンクルス』とやら、だったね?」


「いかにも」


「『ホムンクルス』とは、錬金術の歴史の中でも登場した架空の人造人間の俗称である。君がそうだとしたら、一体君は誰によって作られたのだ?」


「……少しは話ができそうだ。私は他でもない、私自身・・・の手によって作られたホムンクルスである」


「それは何故? 不老不死のため? 自身の技術を後世に残すため?」


「それら全てだ。この私、『フィリップス・ホーエンハイム』という傑物が人類にもたらした恩恵はあまりにも大きい。私を失うことが人類にとっての損害であるのだから」


「フィリップス・ホーエンハイムというのだな。そこまで言うのだ。さぞ高名な―――」


「だがしかし。そんな私の唯一の失敗、拭いきれぬ汚点。それがあの堕龍おろちなのだ」


「ホムンクルス……いや、ホーエンハイムよ。君は堕龍おろちに関して何か知っているようだね。できれば教えてくれないか?」


「……堕龍おろち、正しくは『侵略的悪性新生物』。あれは、我々人類・・の敗北の歴史にして、《アネックス計画》の失敗作だ」



『ホムンクルス』から語られたそれは―――











 ───かつて、地球の限界・・・・・を悟った我々人類は、全人類の希望を託した《アネックス計画》を開始した。


 それと同時に、地球を捨てた・・・・・・のだ───




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