その翼に誇りを、その瞳に覇天の輝きを 1

まえがき


ようやく始まったスペリオルクエスト。

ここから長いので、皆さんも覚悟してください。


————————————————————


「Gyararararararararararara」


「おい、何だあれ。巨人?」



 【アーレス】に隣接するダンジョン、【ターミナル・オロバス】に降り立った堕龍タイタンは、10mを超える巨体を二本の足で支え、顔の真横についた巨大な二つの眼をギョロギョロと動かして周囲を見渡した。


 ―――ここにはエサ・・が少ない。早く移動しなければ。



「もしかして、さっきアナウンスで言ってたスペリオルクエストじゃね?」

「マジ? じゃああれを倒したら、俺らが初のスペリオルクエスト達成者に―――」


「Gya」



 バチンッ!



「えっ……?」



 あまりにもあっさりと、そして無慈悲に。

 堕龍タイタンが無造作に振り回した触手が一人のプレイヤーを襲い、無残にも破裂・・したプレイヤーは何も分からないままポリゴンとなって消えていった。


 何が起きたか分からないもう一人のプレイヤーは、消滅エフェクトを散らす相方をポカンと眺め―――



 バチンッ!


「Gyarararararara」



 異形の巨人は地面を揺らし、ゆっくりとその歩みを進める。

 二匹では足りない。もっと多く居る所へ―――



        ♢♢♢♢



 巨大なタマゴ状の物体は、【エウロパ】に近い【カルディネ湖】の中央に浮かぶ小島に落ちた。


 ズン―――と地面を揺らして着地したそのタマゴは静止して数秒後、ドロリと溶け出し、中から人間の女性を象った堕龍ウンディーネが現れた。ただし、手足の本数も眼の数も、人間というには多すぎるが。



「Kyurororororororororororororo」


 ―――腹が、減った。



 突如【カルディネ湖】の水が生き物のように動き出し、次の瞬間にはバシャッと音を立てて剣山のような刺々しい形に変わった。


 その水の棘の先には、【カルディネ湖】に潜んでいた全てのモンスター・・・・・・・・が串刺しにされており……



 湖の水が赤黒く染まるころ、ジュワッと音を立てて消化した全てのモンスターを吸収した堕龍ウンディーネは進撃を開始する。



「Kyurorororororo」



 地面を溶かし、木々を飲み込み、いつの間にか一回りも二回りも大きくなった赤黒い【カルディネ湖】は、【エウロパ】すら飲み込まんと魔の手を伸ばす―――



        ♢♢♢♢



「Gyorurururururururururu」



 堕龍オルトロスにとって、そこは楽園であった。

 見渡す限りの緑、そして、視界の中に無数に存在する昆虫達エサ

 堕龍オルトロスにとって、【極彩色の大樹海】はただのエサ場でしかなかった。


 飛んでいたオオオニコガネエサを捕らえ、一口で飲み込んだ。

 隠れていたホウオウカマキリエサを匂いで見つけ出し、腹から齧りついた。

 我が物顔で木の幹に居座るメガロヘラクレスエサを押さえ込み、頭から噛み砕いた。



 満たされぬ空腹に従い、手当たり次第に補食を続ける堕龍オルトロスには、いつしか羽が生え、鎌を備え、全身を装甲で覆い―――喰らったもの全てを奪い、その身に宿していた。



 堕龍オルトロスが通った後には何も残らず、『極彩色の大樹海』が徐々に虚無へと塗りつぶされていく。


 まさに、歩く厄災。



 ―――まだ足りない。もっと奥へ―――



 全てを喰い尽くし、進撃を続ける堕龍オルトロスは、いつの間にか自身の周りに昆虫達エサが居なくなっていることに気付いた。



 堕龍オルトロスにとっての不幸は、ただ一つ。知らなかった・・・・・・だけなのだ。


 ―――この『極彩色の大樹海』には、主がいることを。

 そして、いつの間にかその主の逆鱗に触れてしまったことを。



「Gyoru?」



『深緑が恐怖に怯え、主が怒りに身を震わせる―――』


『アナザーユニークモンスター: 女王魔蜂ディアボロヴェスパ・カラリエーヴァ・”女帝ジ・エンプレス” が出現!』



 ……我ガ深緑ヲ荒ラス者ヨ、死ヌガ良イ。



        ♢♢♢♢



「Karororororororo」



 堕龍おろちから産み落とされた堕龍ワイバーンは、身体の八割を占める巨大な翼を打ち、その身体を空へと投げ出す。


 立ち並ぶ木々の先端スレスレを掠めるように飛び、次第にその眼下にプレイヤーエサの姿を捉えた。



「おい、何だあれ?」

「ワイバーンか?それにしてはデカすぎ―――」


「Karorororororo!」


「えっ」

「はっ?」



 堕龍ワイバーンが吐き出した禍々しい紫の炎が、二人のプレイヤーを一瞬で飲み込む。夥しい量のダメージエフェクトを弾けさせ、二人のプレイヤーを消し去ってなお衰えぬ炎は、周囲の木々も消し去り、【霧隠れの霊廟】の麓に広がる樹海の一部に不毛の大地を作り出した。



「Karororororo」



 ザフッと音を立ててその場所に着地した堕龍ワイバーンは辺りを見渡す。

 逃げ遅れた多くのモンスター、ギリギリ耐えたものの気絶スタン状態で動けないプレイヤー―――


 ―――ちょうどいいエサが、居る。



「!」



 堕龍ワイバーンの口から、翼から、胴体から、かつてMr.Qやカローナを襲ったものの半分程度の太さではあるが、数えきれないほどの触手が伸び、モンスターやプレイヤーに襲い掛かる―――



 ―――数分後、すべてを平らげた堕龍ワイバーンは再び飛び立ち、目的地へと向かう。




 その途中であった。



 ―――【イモータル・ハンズ】―――


「Karorororo!?」



 突如として黒紫色の骨ばった巨大な腕が堕龍ワイバーンの上空から発生し、その巨体を叩き落す。


 さしもの堕龍ワイバーンも混乱した声を漏らし、地面を揺らしながら僅かなダメージエフェクトを散らした。



 そんな堕龍ワイバーンを見下ろし、蝙蝠のような翼をはためかせ、白銀の悪魔・・・・・の高笑いが木霊する。



「おーっほっほっほっほっほ!! わたくしの前でPKプレイヤーキルだなんて、これはお仕置きが必要ですわねぇ?」

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