巨大クランのリーダーが、なんでここに?
土曜日、予定の時間よりも随分と早くログインした私は、いつも通り『閑古鳥』へと足を運んでいた。今回はメイド服じゃなくてフルールド・ジョーゼットで。
本当は
「カローナか、随分早いな?」
「ヘルメスさんこそ。いや、まぁ居ると思ったから来たんだけどね」
「俺はこれが仕事だからな」
「えっ……まさかヘルメスさんもプロゲーマーだったり?」
「Mr.Qから聞いてなかったのか?」
「彼、何も言ってないわよ。なんて言うか……Mr.Qはそれっぽいけど、ヘルメスさんって戦闘とは無縁な感じするし……。生産職だし」
「あいつとは畑が違うからな。Mr.Qは格ゲーがメインだが、俺はどっちかと言うとFPSがメインだ」
「あ――っ、っぽいわ~……」
「ところで、俺に何か用があるんだろ?」
「あ、そうそう」
インベントリをごそごそ。取り出したのは
「一応カリストまで行けるようになったけど、モラクス火山に挑む前にメンテナンスはしておきたくて」
「なるほど……よくもまぁこの短期間でここまで耐久値が減るもんだな。鎧も薙刀も並の装備とは比べ物にならない程の耐久力だと思うのだが」
「そんなに削れてる? ダイハード・メガランチュラと戦ったけどダメージは受けてないわよ?」
「いや、ダメージと言うよりは
「あー、なるほど。確かにずっと使い続けてたからなぁ」
「使い勝手はどうだった?」
「もう最高。ヴィクトリアン・サーヴァンツもフルールド・ジョーゼットもあるのに、もうこれだけでいいんじゃない? ってレベル」
「それは重畳。だが他二つも使ってくれよ? そういう約束だからな」
「分かってるわよ。状況に応じて使い分けるつもりよ。……もう少し換装が早くできるともっといいんだけど」
「お前は変身系ヒロインになるつもりか?」
「それ、視聴者さんにも言われたわ。状況に応じて鎧ごと変えて戦う……なんだかカッコよくない?」
「……検討しておく」
「マジ? できるの?」
「服をストックしておいて着替えることができるアクセサリがあったはず。それを改善・拡張して防具やなんかにも対応できるようにできれば可能かもな」
「やっぱヘルメスさんしか勝たん」
そう言いつつ、追加でインベントリから取り出したのは、メガランチュラの外部装甲と爪脚2本だ。
外部装甲は通常ドロップアイテムで、討伐報酬をユキウサちゃん達4人で分け合ったもの、爪脚は4人で話し合ったうえで私が受け取ったものだ。
「じゃ、これはお礼ね」
「メガランチュラの素材か」
「そ、これあなたにあげるわね。私が持ってても仕方がないし」
「ありがたく貰っておこう」
「メガランチュラの素材もなかなかに貴重だ。無償で渡していいものではないと思うがね」
不意に聞こえた声に反応し、私とヘルメスがそちらへと顔を向ける。そこには、皺ひとつない灰色の燕尾服とモノクルが特徴的な初老の男性が立っていた。
「……ここは今貸し切りになっているはずだが?」
「おっと、これは失礼。たまたまここの近くを通り掛かったのだが、不思議な気配を感じたものでね。いやはや、気になった事柄を明らかにしなければ気が済まない性格も考え物だ」
そんなことを言いつつ、その男性のモノクルの奥の瞳が私とヘルメスを見渡し、どこか納得のいったような表情を浮かべた。
「名乗り遅れたね。私はジョセフ。クラン『アーカイブ』のリーダーをしている」
「「!!」」
『アーカイブ』のリーダー? この人が?
アネファンには様々なクランが存在する。友人同士で組んだクランもあれば、アネファンの攻略を目指して邁進するガチ勢クランもあるのだ。
珍しいところでは、スクショ機能を使いアネファン内の撮影を行い、写真集なんかを出している『カメラマン』なんていうクランも存在する。
そんな無数に存在するクランの一つ、『アーカイブ』は、一言で表すなら
アネファンという世界そのものを解明することを目的とした巨大クランだ。『アーカイブ』には、アネファンの謎に魅せられたプレイヤー達が数十人規模で集まっており、現在のレベル上限であるレベル99のプレイヤーも多く存在している。アネファン内でも屈指のトップクランである。
「君達がカローナとヘルメスか。噂は聞いているよ」
「噂って……」
「私が言うのも何だが、アーカイブの情報網は非常に優秀なものでね」
私達の頭の上に表示されているプレイヤーネームにチラリと目をやったジョセフさんは、私とヘルメスさんのことを知っていたかのように話し始めた。この人、どれだけの情報が頭の中に入っているのだろうか。
「Mr.Qから話は聞いている。どうだろう、少し早いが私と一緒に『アーカイブ』に案内しようか」
「まぁクランリーダーが良いっていうならいいが……」
「それは重畳。私としても、一刻も早く君達から話を聞きたかったからね。……『ラウンドナイツ』の他二つのプライマルクエスト、君達が発生しているのだろう?」
「「なっ……」」
……この人、一筋縄ではいかないようだ。
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