VS ダイハード・メガランチュラ 8(決着)

「"精霊は吟う———」



 ゆったりと、それでいて流れるようにまりッピの口から魔法の呪文が紡がれる。詠唱を始めてしまった以上、途中で止めることは許されない。


 他の行動も出来ないが、カナっちとユキウサちゃんがいるから大丈夫だよね?



 呪文詠唱を始めた途端、脇目も振らずメガランチュラへと向かっていったカナっちとユキウサちゃんの後ろ姿を眺め、これなら大丈夫かと集中し直すまりッピ。



「———其は万物を灰塵に帰す純然たる焔、天より降りし大いなる神の化身"」



 一節を唱えた直後、メガランチュラの上空を覆うように光輝く魔法陣が姿を現す。【極魔の滅却エーテリアル・デストラクション】は、全属性を含む魔法である。


 例えメガランチュラが高い魔法耐性を持っているとしても、その耐性を貫いてダメージを与えることができる。



 それにしても……カローナちゃんもユキウサちゃんも、メガランチュラの蜘蛛糸によく反応できるよね。


 カローナちゃんのPSプレイヤースキルがえげつないのは今日で分かったけど、ユキウサちゃんも普通にすごいのよね。



「"精霊は吟う。海よ、大地よ、かきせめげ。その身を割らんばかりにいななく姿、それは終末の予兆"!」



 やっぱり、カローナちゃんのあの装備、強すぎ。あれも多分オーダーメイドだよね……。素材とか何使ってるんだろ?


 そんな腕のいい鍛冶師がいるなら、うちにも紹介してくれないかな?


 そんなことを考えつつも、呪文を唱える口は止まらない。



「“無情なる世界、無限なる世界———」



 あ、すごい。【ペネトリースパーダ】一発でヒビを入れるなんて、どんな威力なんだろ。その前の、空中で止まったのも……あれだけ引き付けてくれると、うちも安心して詠唱に集中できるね。



「———地平に穿つ極限にこそ、以て我はただただその美酒を啜るのみ”」



 集中したいけど、二人の戦いは見ちゃうよね!

 仕切り直して二人で向かっていって……?

 あー、その回転きついよねぇ。カナっちよくあれ空中でパリィできるよね。



「"精霊は吟う。我は吟遊詩人、明くる世の全てをここに紡ごう。ささめき絹の如く揺蕩う淡光に導かれ、集いし雫は生々の流転“」



 おっ、ユキウサちゃんがカウンター決めた? マジ?

 あんなスピードで回ってるメガランチュラの爪脚を狙ってカウンター決めるなんて上手すぎ。


 ちょっ、カローナちゃんの反応速すぎない?

 カウンターが決まったと思ったら、もう動き出してるんだけど?



「“満天に犇めく光に抱かれ———」



 おぉぉっ、爪脚ぶっ壊した!

 けど回収してる時間ある? 詠唱もう完了しそうなんだけど、どうしよ……このチャンスを逃すわけにもいかないし。


 うーん、よしっ!



「———消えゆく燈よ、永遠なれ———”【極魔の滅却エーテリアル・デストラクション】!」



 アビリティの発動と同時、天より降り注ぐ光が視界を満たし、世界を白に染め上げる。

 直後、大地を揺らすほどの轟音と衝撃波が周囲を蹂躙し、地面を捲り上げ、木々を薙ぎ倒し、中心にいたメガランチュラを消し飛ばした。



『エリアボス: ダイハード・メガランチュラ の討伐に成功!』


『プレイヤー名: カローナ に称号 《樹海を踏破せし者》 が送られます』


『ユピテルへの道が開かれた!』



        ♢♢♢♢



 ———はっ!

 生きてる!?

 ギリギリセーフ!



「あっぶなぁ……VIT捨ててまでAGIに振っておいて良かったよ本当……」


「カローナちゃんごめぇんっ!」


「結果オーライだったけどさぁ」


「まりッピ……よりにもよってカローナちゃんを巻き込もうとするなんて」


「まりッピは後で覚えとけよ?」


「うぅ、ごめんて! アイテム100個喰ったイシュタムがこんなに強いなんて思ってなかったもん!」


 ・まりッピちゃん容赦なくて草

 ・カローナ様が巻き込まれたかと思って肝が冷えた

 ・イシュタムで極魔の滅却使ったらそらそうなるわ

 ・極魔の滅却が発動されたの久々に見たわ

 ・カローナ様が無事でよかったですわ!



「「「…………」」」


「ま、まぁ取りあえずお疲れさま! お蔭でユピテルまで行けるようになったわ」


「どういたしまして!」


「と言うか、カローナちゃんってあれだけ強いのにまだユピテルも行ってないってのが驚きなんだけど」


「それな」


「色々と寄り道しててね……」


「あっ! そう言えば……」



 声を上げたユキウサちゃんに、三人の視線が集まる。ごそごそとインベントリを漁っていたユキウサちゃんが取り出したのは、メガランチュラの爪脚であった。


 ユキウサちゃんはそれを私にズイッと差し出す。



「はいこれ」


「はい、って……これ、私に?」


「カローナちゃんにっていうか、元々カローナちゃんのでしょ? 部位破壊したんだし」


「いいの?」


「もちろん! 一番活躍したのもカローナちゃんだしね。私達は討伐報酬さえあればいいから!」


「ありがとう」


「おっふ……カローナちゃんの微笑み……プライスレス……」


「まぁいいや。結構いい時間だしね、今日はこれぐらいにして明日また学校で」


「「「はーい」」」


「というわけで、ここらで配信を終わります。ありがとうございましたーっ!」


「ありがとーっ」

「また配信したときは見に来てね!」

「私達3人のこともよろしくね!」


 ・お疲れ様!

 ・いつもより賑やかで楽しかった!

 ・ユキウサちゃん達やたら慣れてたな

 ・またカローナ様と一緒に配信してくれ!











 ふぅ……イレギュラーな配信だったけど、何とか形になって良かった。

 と言うか、ユキウサちゃんもまりッピもメグメグも、配信なんてやったこと無いはずなのになんであんなに慣れてるの?


 これがコミュ力お化けギャルの実力か……。



 配信も終了したし、ログアウト……あれ? クウからメッセージ?



『Mr.Qよりメッセージが届いています』


『明後日の夜、アーカイブのジョセフさんとの約束を取り付けたよ。ヘルメスにも声かけとくからカナちゃんも来てくれると嬉しい。できれば、アーカイブが飛びつくような情報エサを持って来てね』

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