VS ダイハード・メガランチュラ 7

「まりッピが魔法を放つ前に、もう片方の爪脚も破壊するわよ」


「えっ」



 そう言って、ユキウサちゃんに部位破壊チャートを説明すると……



「失敗したら私死ぬじゃ――んっ!」



 私の注文を聞いたユキウサちゃんは、そんなことを叫びながらメガランチュラへと突撃していった。


 うふふ、元気いっぱいなようで何よりだ。

 それに、実は爪脚を破壊すること自体は、そう難しいことではない。



 今のメガランチュラは、私の侵食毒に侵され、ステータスが大きく低下している。現に、クリティカルではない【ペネトリースパーダ】一発で、関節部分に大きくヒビが広がるほどだ。


 おそらくもう一発か二発、何らかの強力な攻撃を与えるだけで、爪脚の破壊は成功するだろう。


 そこでユキウサちゃんにお願いしたのは、『メガランチュラが回転する際の爪脚に【ラディエルカウンター】を狙ってぶち当てる』というものだ。


 確かに、タイミングがズレればあの大質量が直撃することになって……ご愁傷さま。



 まぁ、きっとユキウサちゃんなら完璧にやってくれるでしょ。

 だから、私も準備しないとね。


 MPポーションを一気して『魔蜂之薙刀』で消費した分を補充し、改めて【変転コンバージョン】でバフをかけ直す。



 さて、行きますか!


 大きく一歩を踏み出し、スタートを切る。

 甲虫姫装の鎧インゼクトレス・クロスのバフに【アン・ナヴァン】と【エンチャント・アクセル】を乗せた私のAGIは、後追いでもユキウサちゃんにあっという間に追いつくほどだ。



「予兆、毒液!」


「スイッチ!」


「りょっ!」


 ・二人の息の良さよ

 ・カローナ様もそうだけどユキウサちゃんも判断早ぇ



 情報交換は短く、そして速く。

 たった一言二言のやり取りだけで意図を汲み取ったユキウサちゃんは、急ブレーキをかけて止まる。


 その横を抜けた私はユキウサちゃんの前に躍り出、メガランチュラの毒液をこの身で受ける。


 目に入らないように気を付ければ、最早毒など怖くない。

 もちろんそれを分かっているユキウサちゃんも、私を盾にすることに一切の躊躇いがない。


 ……私、この戦いが終わったらこれをネタにユキウサちゃんを弄ってやるんだ……。



 前進を包む鎧に赤紫のひび割れを追加した私は、魔蜂之薙刀を棒高跳びの棒のように使い、メガランチュラと同じ高さまで飛び上がる。


 ここまで接近を許したメガランチュラが取る行動は、もちろん回転だ。ゲームのシステムとして決められた行動しかできないというのは何とも悲しいものだ。……私達にとっては助かるけどね。



「ふっ!」



 ギャリンッ!


 メガランチュラの回転によって迫った脚を、激しい音を立てながら【流葉】でパリィする。そのまま近くの木に薙刀をぶっ刺して身体を固定し、しばらく様子見だ。


 回転は誘発したし、ユキウサちゃん、頼んだよ?



「ちょ、思ったより速いんだけど―っ!」



 盾を構えつつタイミングを計るユキウサちゃんの嘆きが聞こえる。嘆きつつもその表情は真剣そのものだ。なんというか、可愛いというよりイケメンだなぁ。



 そんなことを思ってたら、ついにそのときが来た。



「【跳躍】! からの【ラディエルカウンター】!」


「ギュロロロォッ!」


「っ……」


 ・上手い!

 ・タイミング完璧!

 ・うめぇww



 私は思わず耳を塞ぐ。金属を絞め殺すような激しい金切音と共に、稲妻のようなエフェクトが走り、メガランチュラの爪脚の先を正確に受け止めた【ラディエルカウンター】は、受けた攻撃の強さに応じてその効力を発揮する!



「ギッ!?」



 メガランチュラの巨体を以て放たれた回転攻撃と【ラディエルカウンター】がぶつかり、ドーム状の衝撃波が広がる爆心地で、メガランチュラの巨体とユキウサちゃんの小さなアバターが拮抗する。


 カウンター系アビリティは、使用者のステータスはもちろんのこと、跳ね返した相手の攻撃の威力が高ければ高いほど、カウンターの威力も大きくなる。


 メガランチュラ程の巨体が回転し、最も硬く、そして最も遠心力が乗った爪脚の先端部分を捉えたカウンターの威力は、尋常ではない。


 それを示すかのように、ユキウサちゃんの【ラディエルカウンター】はメガランチュラの回転すら相殺し、止めてみせたのだ。



 ビキビキと音を立てて破片を散らすメガランチュラの爪脚は、それでもなお折れることなく【ラディエルカウンター】と拮抗する。


 ——刹那、確かに晒された明らかな隙——



「【神……っ!」



 魔蜂之薙刀をインベントリに仕舞い、同時に木の幹を蹴ってメガランチュラの背後に接近した私は、再びのインベントリ操作で二本のヴィクトリアン・ナイフを取り出す。



「斬っ……」



 メガランチュラが反応するより速く、私の甲虫姫装の鎧インゼクトレス・クロスが黒紫色の輝きを失うよりもはやく———メガランチュラの背中を足場にさらに加速し、ひび割れた爪脚の関節部分へと迷いなくこの身を投じ———



「舞】……っ!」



 着弾。

 バトル中に使用したステップ系アビリティの種類が多ければ多いほど、ノックバック性能が上がる攻撃アビリティ……6種類のステップによって強化された【神斬舞】が、ユキウサちゃんの【ラディエルカウンター】と挟み込む形でメガランチュラの爪脚の関節部分へと突き刺さった。


 ただでさえひび割れて脆くなっている関節が、伸びきっている時に逆方向から思い切り叩かれたらどうなるか———その答えは、目の前の光景を見れば明らかだろう。



 バギンッ!

「ギィィィィッ!!」


 ・いったぁぁぁぁぁぁ!

 ・カローナ様もタイミング完璧すぎる



 凄まじい断末魔と共に、メガランチュラの爪脚が宙を舞う。ユキウサちゃんの【ラディエルカウンター】と私の【神斬舞】によって部位破壊に成功したのだ。



「っし!」



 内心、今すぐにでも踊り出したいほどの喜びを抑えつつ、宙を舞うメガランチュラの爪脚をインベントリに押し込む———私がそれ・・に気付いたのと、ユキウサちゃんの声が響いたのは、その直後であった。



「カローナちゃん! 上っ!」


「ちょっ、待っ———」



 あの馬鹿でかくて超複雑な魔法陣、まりッピの魔法だよね?

 離脱、間に合わなくね?

 私が離れるぐらい、待ってくれても———



 ・ちょっ、まっ

 ・巻き込まれる!?

 ・カローナ様ぁぁぁぁぁっ!?



「———“消えゆく燈よ、永遠なれ”———【極魔の滅却エーテリアル・デストラクション】!」

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