VS ダイハード・メガランチュラ 6
「“聖霊は吟う———」
まりッピの詠唱が始まった。
発動する魔法は【
しかし、もちろん簡単に使えるものではない。発動までに相応のデメリットがあるのだ。
例えば、詠唱省略不可。
多くの魔法使いジョブでは【
しかし、【
また、詠唱中の強力なヘイト集中。
例え前衛を担う他プレイヤーがいたとしても、問答無用で詠唱者が狙われるのだ。さらには中断不可もあり、一度詠唱を始めれば途中でキャンセルすることも叶わない。
詠唱で無防備な姿を晒しつつ、集中するモンスターの攻撃に耐え、長い詠唱を経てようやくアビリティを発動できるのだ。
私の仕事は、そんなアビリティを発動せんと準備するまりッピを、メガランチュラから守ること。
「情報共有! 糸攻撃は予備動作あるから、お尻をよく見て!」
「オッケー!」
「私のじゃない、前見ろ」
・ユキウサちゃん裏山
・俺もお尻見たい!
「それセクハラだからね、分かってる?」
「冗談だって! ところで、予備動作って……あんな感じの?」
「えっ? そうそう、あんな感じの……」
「「っ!」」
なんてやり取りをしていたら、メガランチュラのお尻の先がピクッと動くのが見えた。
「【シークエンスエッジ】!」
「【エンチャント・フレイム】!」
ドパッ! と散弾銃のように放たれる蜘蛛糸を、私は逆手に握った『ヴァリュアシオン』で、ユキウサちゃんは火を纏った剣で、それぞれ切り裂き叩き落とす。避けるのは簡単だけど、今回は後ろに通せないから余計に大変だ。
迫る蜘蛛糸を斬り裂き、燃やし、全て叩き落とした直後———
「ギュロロロッ!」
鋭い牙を剥きだして吼えるメガランチュラの姿が……。
初めて見るモーション、新技?
口、いや、牙。毒腺、狙いは正面、飛ばしてくる……!
一瞬で判断した私がユキウサちゃんを庇うように身体を投げ出した直後、メガランチュラの牙の穴から、赤紫色の、見るからに毒々しい液体が飛び出した。
「カローナちゃん!?」
「大丈夫!」
蜘蛛が出したというにはあまりにも多すぎる毒が、私の全身を襲う。毒とか関係なく、ぶつかった衝撃でHPが少し削れるぐらいの威力だ。
しかもこの色、麻痺毒か?
なるほど、いやらしい戦法だ。
最初とは打って変わり、遠距離攻撃と状態異常で嵌め殺す戦法に切り替わっている。確かにこの毒を受けてしまったら蜘蛛糸が避けられなくなり、じわじわと嬲り殺されるだろう。
私でなければ、ね。
「【
全身を濡らした麻痺毒が『
『
「バフ補充ありがと!」
「ギュロッ!」
・効かないと分かってても自分から受けに行くのは怖い
・カローナ様って意外と恐怖感覚バグってるよね
・高所から下に向かって加速するしね
メガランチュラの次の攻撃の準備が整わないうちに、【パ・ドゥ・シュヴァル】によって接近、続いて【パ・ドゥ・ポワソン】によって一気にメガランチュラと同じ高さにまで飛び上がる。
さて、私に接近を許したメガランチュラの次の行動は……回転だろう?
メガランチュラの足に力が籠ったのを確認しつつ、【パ・ドゥ・シャ】起動。膝のクッションを使ってふわりと空中を踏み締めた私は、まるで時間が止まったかのように空中でピタリと制止した。いや、まぁ重力には逆らえないから落ちるんだけど……
【パ・ドゥ・シャ】を空中でも使えるブレーキとして使用してメガランチュラの回転をやり過ごし、その間に『魔蜂之薙刀』に換装して【ペネトリースパーダ】を発動……なんて計画していたのに。
「ギュロッ?」
「えっ」
まるで脚を踏み外したかのようにメガランチュラの身体がガクッと沈み、来るはずだった回転が不発に終わる。
ちょっ、回転が来ると思ってたから狙いが……ええいっ、撃っちゃえ!
「【ペネトリースパーダ】!」
「ギィィィィッ!」
黒紫のオーラを纏った真紅のエフェクトが、片方だけ残ったメガランチュラの爪脚に突き刺さり、ダメージエフェクトを散らす。
……咄嗟にエイム修正したけど、クリティカルは外したか……。
だけど、かなりの収穫はあったようだ。
「カローナちゃん、相手今ディレイ入れてきた?」
「ううん、違うわ。私が仕込んだ
『魔蜂之薙刀』の【
例え少量であっても、巨体であるメガランチュラの身体を蝕むことができる。
……最初に爪脚を破壊した時、【ペネトリースパーダ】に乗っていた侵食毒が破壊部分から入り込んでいたのよね。メガランチュラの身体が大きい分、毒が回るのが遅かったけど、ようやく今効果が出てきたようだ。
侵食毒の効果は、ステータスの低下とスリップダメージ。特にステータス低下が顕著なのか、さっきの【ペネトリースパーダ】はクリティカルヒットしていないにも関わらず、メガランチュラの装甲に大きくヒビを入れたようだ。
「あー、あの時の。カローナちゃんが言ってた
「思ったより効果が出るのが遅かったけどね……初めて使ったにしては上手く行ったでしょ」
「さすが、『あっけなく終わっちゃうから(キリッ)』なんて言うだけあるわ」
「恥ずかしいから止めて……それより、ユキウサちゃんにちょっと無茶ぶりお願いしていいかしら?」
「いいよー、何でも言って!」
「んっ? 今何でもって……」
「いい、よ……?」
「かわよ……じゃなくて、まりッピが魔法を撃つよりも早く、もう片方の爪脚も部位破壊狙うわよ」
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