VS ダイハード・メガランチュラ 5
『魔蜂之薙刀』を突き出す動作から放たれた【ペネトリースパーダ】は、一筋の閃光となってメガランチュラの関節部分に直撃する。
【ペネトリースパーダ】と拮抗しながらもはっきりと分かるほどに音を立てて崩れ始めたメガランチュラの爪脚はついに限界を迎え、関節から折れた爪脚が吹き飛んだ。
「「「おぉぉぉっ! ぶっ壊した!」」」
・いったぁぁぁぁぁ!!
・だんだん動きが人間離れしてきたな
・ワイだけが知ってたカローナ様のPSが世間に知られてしまう……
・これだけ強いくせにまだユピテルまで言ってないのが驚き
「関心するのは良いけど、まだ終わってないわよ!」
「ギュロロロロロロロロロロロッ!!」
私は声を上げつつ、ドロップアイテムとして落ちたメガランチュラの爪を『魔蜂之薙刀』で弾き、まりッピの方へと飛ばす。今は私にヘイトが集中しているから、他の子が回収してくれれば問題ない。
「私が引き付けてる間に回収お願い!」
「オッケー! 相手さん、めちゃめちゃ怒ってるねぇ……」
「まぁ部位破壊されたんだし仕方ないんじゃない?」
「確かにそうかも? 実際行動パターンが変わって———」
「「「「!!」」」」
まりッピが何気なく呟いたその言葉に、全員が気付いた。
メガランチュラがお尻を上げるような行動、これまでに見たか?
いや、今、目の前で行われているのが初見だ。つまり、HPの減少による行動パターンの変化———!
「ギュロォォォッ!!」
耳を劈く金切声と共に、メガランチュラのお尻の先から散弾銃のように何かが発射された。眼前を覆う程広範囲にまき散らされた
これは
「【シークエンスエッジ】!」
「【ファイヤーウォール】!」
正直、糸を使った攻撃を読んではいた私は、『魔蜂之薙刀』を手放して『ヴァリュアシオン』を取り出し、【魔纏・火】による火属性付与まで終えている。
魔蜂之薙刀をインベントリに仕舞わなかったのは、インベントリに仕舞うのと取り出すのを同時に行えないというアネファンのシステム上、一度武器をしまってから別の武器を取り出すより、武器をその辺に手放して別の武器を取り出した方が早いからだ。
朱色のエフェクトを纏うヴァリュアシオンがメガランチュラの糸を切り裂き、さらに炎で焼き尽くして網目を崩壊させる。巨体であるメガランチュラから放たれた糸の量は大したものだが、【シークエンスエッジ】も一撃や二撃で終わる連撃ではない!
バックステップを踏みつつ、目にも止まらぬ速さでヴァリュアシオンが宙を薙ぎ、その度に朱色の閃光が糸を消し去る。押し込まれはしたが、結局糸は私に届いていない。
しかし、安心している暇はない。
何せ、糸の散弾で距離が空いた隙をついて、メガランチュラが糸を使って巨木に登り始めたのだから。ダンサーは地面に足をついてなんぼのジョブだ。立体移動なんてされたら面倒くさいことこの上ない!
【シークエンスエッジ】によって減少したSPをポーションで補いつつ、ヴァリュアシオンをしまって魔蜂之薙刀を拾い上げる。
【ペネトリースパーダ】……はリキャスト待ち。
【ワイドスラッシュⅡ】……もリキャスト待ち。
くそっ、近接で殴るしかない!
お尻から出した糸でするすると巨木を登っていくメガランチュラに迫った私は、樹の幹を利用した壁ジャンプでその巨体に迫り———
「っ!? 【流葉】!」
———バチンッ! と激しい音を立て、糸を軸に回転したメガランチュラに弾かれた。咄嗟に【流葉】で受け流したものの、超重量を受け切れずに弾かれた形だ。
まともに受けたら洒落にならないだろうし、死ななかっただけマシか……。
メガランチュラはその場に籠城するつもりなのか、これまた巨大な蜘蛛の巣を作りだした。
・あー、これめんどくさいよなぁ
・優秀な魔法使いジョブ居るから遠くから狙い撃ちだろ
「……どうする?これ」
「一応
「でも、カローナちゃんが狙われなくなったってことは、ヘイトに関係なく向こうは攻めてこないってことでしょ?」
「ということは?」
「詠唱が必要な魔法を準備する時間がある」
そう言うまりッピがインベントリから取り出したのは、黒く、禍々しいオーラを纏う杖を取り出した。
「お、まりッピの本気?」
「ふふふ……初めての共闘だし、少しはアネファンの先輩らしいところ見せなきゃね」
「初めて見る杖ね……」
「良いでしょ、これ。『崩欲杖イシュタム』、エクストラクエストのクリア報酬だよ」
・イシュタム!?
・お友達結構ガチやんけ
・イシュタムあるなら後半一瞬やろ
「エクストラ報酬? すごいのね……」
「でしょー? 条件があるけど、イシュタムで魔法を撃てばかなりの威力が出るから、メガランチュラにもダメージを期待できるんじゃないかな?」
まりッピの説明によると、『崩欲杖イシュタム』には特殊な能力がある。
それは、様々なアイテムや武器を
「折角だし、一撃で決めるつもりで行ってみるね」
「え、ちょっ……」
そう言ってまりッピがインベントリから取り出したのは、100は超えそうな大量のドロップアイテムであった。
「まさか、これ全部……?」
「もちろん! 本当はドロップしただけのアイテムより、作成に手がかかってる武器の方が威力が上がるんだけどね……あ、でもこれも武器作成で余った物ばかりだから、無くなっても問題ないよ?」
「それもあるけど……私のクエストなのにこんなにアイテム消費して……」
「いーのいーの! カナっちのためだもんね! その代わり、今から使う魔法は詠唱に時間がかかる上ヘイトめっちゃ集めるから、カナっちも守ってね?」
まりッピがイシュタムでアイテムの山を軽く叩く。すると、ビキッ! と音を立ててアイテムがひび割れ、ポリゴンとなって砕け散る。飛び散る光が全てイシュタムに吸い込まれていき、イシュタムが纏う禍々しいオーラが一段と強くなっていった。
……可愛い顔と禍々しい杖のギャップが……。
そんなイシュタムを胸の前で構え、瞑目するまりッピの唇が、静かに、そして謳うように魔法の呪文を紡ぎ出す。
「“聖霊は吟う———」
「ギュロッ」
———まりッピの詠唱が始まった……と同時に、巣を構えているメガランチュラがまりッピに反応を示す。
一番ダメージを与えていた私に反応しないのに、詠唱が始まった途端に反応するとは、よほど強力なヘイト集中効果があるのだろう。
こういうデメリットのあるアビリティは、大抵強力なものだ。まりッピは詠唱に集中しているため、私とユキウサちゃんでまりッピを守るしかない。
ここがクライマックスだ。
派手に行きましょうか!
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