VS ダイハード・メガランチュラ 4
【アン・ナヴァン】と【クイックスカッフル】は、メグメグの【テヌート】で延長されているから未だ効果時間中……だけど、【パ・ドゥ・ポワソワ】と【パ・ドゥ・シャ】はリキャスト待ち。
どうやって機動力を確保するか……。
「【エンチャント・アクセル】、【エンチャント・ロップイヤー】。AGIとジャンプ力を強化するバフだよ」
そう言ったのはまりッピ。回復とバフを操り戦う白魔導士ならではのアビリティだ。まりッピから放たれた淡黄色のエフェクトが私を包み込み、ステータスをさらに引き上げる。
「まりッピ、ありがとう!」
これだけバフが乗っていれば行ける……!
「速っ!」
・速っww
・まだスピード上がるんかww
・これこのスピードを制御する本人の体幹と動体視力が一番化け物だろ
まりッピの驚きを置き去りにスタートを切る。その加速のまま【パ・ドゥ・シュヴァル】に繋げ、最高速に到達。そして振り下ろされた二本の爪を———
「【サイレントステップ】!」
真っ直ぐ迫っていたはずの私の身体が
【サイレントステップ】は、特殊なステップを刻みムーンウォークのように移動方向だけを変える回避アビリティである。さらに回避成功時、自分のヘイトを少し下げる効果を持つ。
まぁ少し下げたところで焼け石に水なんだけどね。
「おっと、させないよ」
「ギッ!?」
地面に突き立ったメガランチュラの2本の爪が、ユキウサちゃんのアビリティ【ホーリーチェイン】によってその場に縫い止められる。
光の鎖によって相手の行動を阻害するアビリティだが、メガランチュラのような高STRを持つモンスターを止められるのはほんの数秒。
だが、確かに生まれた数秒の隙だ。
「【ワイドスラッシュⅡ】!」
【サイレントステップ】で避けた直後に反転し、僅かなチャージを経て『魔蜂之薙刀』から放たれた【ワイドスラッシュⅡ】が、メガランチュラのヒビ割れた関節部分に直撃した。
ギシギシと軋みを上げ破片を散らすメガランチュラの装甲はそれでもなお壊れない。
「硬すぎっ……!」
しばらく拮抗していた【ワイドスラッシュⅡ】だが、メガランチュラが【ホーリーチェイン】を引きちぎると同時に掻き消され、黄色のエフェクトが霧散する。
「ギュロロロロロロロロロロッ!」
空気を震わせるようなメガランチュラの雄叫びに顔をしかめつつ、『魔蜂之薙刀』を棒高跳びの棒のように使ってジャンプ!
見上げるほどの高さでも、まりッピの【エンチャント・ロップイヤー】のジャンプ力強化で十分に届く。そして……背中に回り更なるダメージを狙う!
「近距離で高DPSと言ったらこれでしょ! 【シークエンスエッジ】!」
「キュロロロロッ!」
瞬時に『魔蜂之薙刀』をインベントリに放り込み、『ヴァリュアシオン』取り出す。と同時に短剣の連撃アビリティを起動し、目にも止まらぬ斬撃がメガランチュラを襲う!
『魔蜂之薙刀』を手放すことによって『
……火花が散るって、メガランチュラの表面って金属か何か?
『ヴァリュアシオン』のように持ち手が短い武器を使うと、メガランチュラの装甲の硬さがよく分かる。
これを素材に鎧とか作ったらかなり強くなりそうだ。
「キュロロロロロッ!」
「うおっ……!」
メガランチュラがガバッと上半身を振り上げ、その勢いで私は背中から振り落とされる。
「ユキウサちゃん! ごめん、チェンジ!」
「オッケー、まりッピ!」
「はいはーい、【ヘイト・エンチャント】!」
チームプレイもなかなか慣れたもので、最低限の言葉だけで全員が瞬時に動く。多くを語らなくても意図が通じるのはやっぱり便利だ。
私が振り落とされると同時にユキウサちゃんが前に出、まりッピの【ヘイト・エンチャント】がヘイトをユキウサちゃんに移動させる。
お陰で私は着地後、アビリティのリキャスト回復のため時間稼ぎに集中できる。
メガランチュラに気取られないように横に回り込みつつ、インベントリからMPポーションが取り出して飲み干す。
『魔蜂之薙刀』と『
『ヴァリュアシオン』を仕舞って『魔蜂之薙刀』を取り出しつつ、ユキウサちゃんの戦いを眺める。
危ない攻撃は回避し、甘い攻撃は盾で逸らして一撃を加える。実に堅実で、玄人向けな戦い方だ。DPSは私ほどではないにせよ、非常に安定感のある戦い方だと言える。
「視聴者さん達、見えてます? ユキウサちゃんって現実ではカーストトップの陽キャギャルなのに、アネファンではコツコツ勤勉タイプだなんて……ギャップすごすぎない?」
・久々に実況来た
・やっぱりギャルなんだ
・ワイらみたいなV豚おじさんには眩しすぎる青春やでぇ
・それな。混ざりたい……
・↑百合におっさんが挟まると界隈がブチ切れるぞ
「そうなのよ。ユキウサちゃんギャルなのに私みたいなオタクにも優しいし……オタクに優しいギャルって実在するんだよ? すごくない?」
コメ欄と雑談しながら、ユキウサちゃんとメガランチュラの戦いを眺める。
メガランチュラは、その分厚い装甲故か回避の動作を取らない。しかもフェイントやディレイを入れてくる訳でもないので、一定以上のステータスがあれば意外と楽な相手なのかも知れない……。
いや、そのステータスが無いから苦労してるんだけどね。
まぁそこは『
えっと……走って、避けて、ジャンプして、斬り上げて、空中ジャンプからの爪破壊。あとはだいたい避けて……よし、チャート構築完了。
「っ……!」
「ギュロッ!」
【アン・ナヴァン】起動!
ドンッ! と地面を踏み鳴らし、私が接近を開始する。アビリティによるAGIアップに『
しかし、そこはさすがモンスターと言うべきか。
私のスピードにも反応したメガランチュラは爪を振り下ろし———【サイレントステップ】によって軌道がズレた私を捉えられずに地面を穿った。
【パ・ドゥ・ポワソワ】と【大伐断】をほぼ同時に発動。捻りを加えて回転しながら地面から打ち出された私は、遠心力を乗せた【大伐断】をメガランチュラに叩き込む。
視界の景色が高速で流れていく中、【大伐断】がヒットしたメガランチュラの関節部分がヒビ割れていくのを確かに確認できた。
畳み掛けるチャンス……!
私の足が水色のエフェクトを纏い、何もないはずの空中を踏みしめる。【パ・ドゥ・シャ】による空中ジャンプだ。
斜め下へと起動を変えた私はすれ違いざま、【燈火・払】を一発入れてダメージを稼ぎ、着地直後に身体を反転、『魔蜂之薙刀』を脇腹辺りに引き寄せる。
【魔纒・火】による朱色のエフェクトに紅が混ざり、さらに『侵食毒』の黒紫色がそれらを塗り潰す。次第に全体が深紅と黒紫色の二色になった頃、その一撃は放たれる。
「【ペネトリースパーダ】!」
『魔蜂之薙刀』を突き出す動作から黒紅のエフェクトが放たれ、一筋の閃光となってメガランチュラの関節部分に直撃する。
「貫……けぇぇぇぇっ!」
「ギュロロロォッ!?」
【ペネトリースパーダ】と拮抗しながらもはっきりと分かるほどに音を立てて崩れ始めたメガランチュラの爪脚はついに限界を迎え、関節から折れた爪脚が吹き飛んだ。
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