VS ダイハード・メガランチュラ 2

まえがき


ダイハード・メガランチュラ戦はわりと長いので、最後までお付き合いくださると助かります。

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 インベントリ操作に伴い発生したポリゴンが私の身体を覆い、鎧を象る。


 金と黒を基調とした絢爛なこの鎧は、戦士と言うよりは聖騎士という表現の方が似合うだろう。


 ……背中側が大きく開いてるのが気になるけど。



 『甲虫姫装の鎧インゼクトレス・クロス』———ディアボロヴェスパの素材を大量に注ぎ込み、ヘルメスによって作成された装備だ。

 腕、胴、腰の3部位に跨がる大型の装備となるが、装備時効果によりVIT+500、STRにいたっては+700にも上る高性能をしている。


 素材は昆虫系モンスターのものを使用しているため軽量、かつ機動力を阻害しないデザインにより、今まで通りのAGIを発揮できる逸品となっている。



 ……ヘルメス曰く『くっころ姫騎士』をテーマにしているらしい。

 なんか癪だ。



 そしてもう一つの『魔蜂之薙刀』。

 こちらもディアボロヴェスパの針や爪、牙を存分に注ぎ込んだ武器だ。こちらも頑丈かつ軽量、薙刀ゆえに特化した逸品である。


 この2つが、ヘルメスに依頼した隠し玉である。ただ、まぁ、確かに装備時効果は高いがそれだけでは普通の装備と変わらない。


 ヘルメスの自信作と言われる所以は、それぞれに内蔵された特殊機構による。



「【変転コンバージョン】!」



 瞬間、魔蜂之薙刀の柄から切っ先にかけて黒紫色のヒビ割れのような模様が走り、そこから同色のもやが漏れ出す。


 もやの正体は『侵食毒』。体内に入れば最後、その者を死に追いやるディアボロヴェスパが持つ致死性の猛毒である。発生した液状の毒の表面が気化し、もやのように見えるのだ。


 これが『魔蜂之薙刀』に内蔵された特殊機構。MPを消費し、それに応じた量の『侵食毒』を生成する機能である。


 この毒は当然私にも効くわけで、普通なら毒ダメージであっという間にお陀仏である。が、それを防ぐのがもう片方の『甲虫姫装の鎧インゼクトレス・クロス』である。



 『魔蜂之薙刀』を握る手から腕へ、胸へ、そして全身へ……黒紫色のヒビ割れのようなエフェクトが広がっていく。これも『甲虫姫装の鎧インゼクトレス・クロス』に内蔵された【変転コンバージョン】の一種である。



 簡単にいうと、毒を吸収してバフに変換する機能。『魔蜂之薙刀』から発生した自身への毒を無効にし、ステータス強化に使える能力だ。


 つまりこの2つを同時に装備することで、MPが続く限りアビリティすら介さずにステータスを強化しまくって戦えるということになる。


 これらの機能がどれ程特殊なものかは、様子を見ていた3人組と視聴者の反応から押して知るべし。



「「「……ヤバ……」」」


 ・何その装備!?

 ・コンバージョンって何!?

 ・しれっと見たこと無い機能使うな

 ・騎士姿のカローナ様も麗しい……



 それだけではない。このステータスアップは、毒が強ければ強いほど高くなる———!



「キュロロロッ!」



 金切り声を上げたダイハード・メガランチュラが爪を振り上げ、真っ直ぐに私に向けて振り下ろす。爆発もかくやという威力で地面に突き刺さった爪は、そのまま地面を砕き、円形に陥没させる。


 しかし、すでにそこには私の姿はない。

 爪を振り上げるのを目視した時点で、私は【アン・ナヴァン】と【パ・ドゥ・ポワソン】を起動していたのだ。


 『甲虫姫装の鎧インゼクトレス・クロス』のバフと相まって一瞬でダイハード・メガランチュラを置き去りにした私は、爪が地面に刺さる時にはすでにメガランチュラの顔の横へと迫っていた。



「【大伐断】っ!」


「ギュロォッ!」



 身体ごと回転し、叩きつけるように【大伐断】をぶちかます。装甲の耐久値を大きく削る効果のある【大伐断】は、分厚い甲殻で覆われたメガランチュラには有効である。



 が、それでも。

尋常でない厚みで構成されたメガランチュラの甲殻は、表面が削れる程度で『魔蜂之薙刀』を弾き、空中にいる私へとその視線を向ける。



「こっちも忘れないでよね! 【マナ・ブラスト】!」


「キュロッ!?」



 黒魔導士のジョブを持つまりッピによる魔力弾がメガランチュラに突き刺さり、その巨体を僅かに仰け反らせ———その一瞬さえあれば十分。


 【パ・ドゥ・シャ】の空中ジャンプによって斜め下に加速、同時に【魔纒・火】を纏う【燈火・払】がすれ違いざまにメガランチュラの首を薙いだ。



「おっ……とぉっ!」



 そして着地。


 ・カローナ様AGIいくつよ

 ・速すぎてカメラが追いきれてないんよ

 ・この人アネファン始めたの結構最近だよな。どんなスピードで強くなってんの

 ・成長期だからね



「まりッピ、アシストありがとう!」


「いいよー! そのまま前衛張れる?」


「行けそうだけど、火力がちょっと足りないかも?」


「メグメグ、もっと盛り上げて!」


「オッケー、任せてっ!」



 メグメグのしなやかな指が、彼女の持つハープの上を滑り、綺麗な音を奏でる。それと同時、比喩ではなく実際に、淡い光がハープの音色と共に周囲に溢れだし、私たちの身体を包み込んだ。


 ———STR上昇、【フォルテシモ】。

 ———VIT上昇、【アクセント】。

 ———AGI上昇、【ピウ・モッソ】。

 ———バフの効果時間延長、【テヌート】。



 『ミンストレル』をはじめ、楽器を扱うジョブには、楽器を演奏することによって味方全体にバフを蒔くという共通の能力がある。


 それだけ言えば簡単に聞こえるが、アビリティの効果とその効果量は、音の高さや大きさはもちろんのこと、リズムやメロディによって数十、下手したら数百種類にも分岐する。



 つまり、バトルの状況を瞬時に判断し適切なバフをかけられるよう、その場、その瞬間に作曲できる・・・・・ほどのPSプレイヤースキルがなければ、ミンストレル系ジョブを使いこなすのは不可能なのである。


 ミンストレル系ジョブがアネックス・ファンタジア内で断トツに不人気なのは、あまりにも扱いが難しい職業ジョブだからである。



 しかし、その代わり扱いきった時のバフの効果量は非常に高く、演奏が続く限り、半永久的に強化し続ける。


 そして、そんなジョブを使いこなし、4種類のバフを同時に振り撒くメグメグの実力は察するべし。



 ・お友達もスペック高いな?

 ・ミンストレル扱える時点でなぁ

 ・JKちゃん達がキャッキャしながら攻略してるの見れてこっちもほっこり



「……メグメグの意外な特技発見」


「カローナちゃん、バカにしてる?」


「そんなことないわよ……?」


「まぁでも実際唯一の長所だしね?」


「これ無かったらただの柄の悪いギャルだかんね」


「うるせーし! ユキウサちゃんもまりッピも後で覚えとけよぉ!?」


「っ! 次、来るわよ!」



 振り下ろされる爪を回避。

 後衛組への衝撃は、ディフェンダーのユキウサちゃんが防いでくれた。



「実際、あの爪破壊できる算段ある!?」


「無いこと無い! けど、私へのヘイトがきつくて隙がない!」


「オッケー、じゃあ一旦ヘイト受け持つ! その間に準備して!」


「ありがとう! お願い!」


「任せてっ! まりッピ!」


「はいはーい! 【ヘイト・エンチャント】!」


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