VS ダイハード・メガランチュラ 1

「さ、これでクエストは達成ね……って、大丈夫? なんか固まってるけど」



「……はっ!? いや、なんか訳分かんない光景が見えた気が……」



 私が必要量の樹液を採取して戻ってくると、3人ともポカンと口を開けて固まっていた。


 ……いや、気持ちは分かるよ、うん……私もあそこまでの効力があるとは思ってなかったもん……。



「あれ何やったの? なんかの魔法?」


「いや、違くって……私の顔にあるこの刻印が、昆虫にとってかなり威嚇になるらしくて」


 ・えぇ……(ドン引き)

 ・そうはならんやろ

 ・つーかカローナ様のお顔に傷がぁぁぁぁ



「はぇ~~……初めて聞いたわ……」


「じゃあさ、もしかして警戒しなくてもモンスターに襲われなかったりする?」


「それめちゃくちゃ便利じゃね?」


「……それ私にもくれない? 私は虫とかあんまり得意じゃないから欲しいんだけど」


「あー、難しいかも……」



 刻印これ付けられたのは本当に偶然だし、多分女王蜂に善戦したからだよね。


 今から女王蜂と戦うとなったら、善戦なんかできる気がしない。……私がかなり強化しちゃったからね。


 ついでにレベル40を越えた辺りで『レベルアップに必要な経験値が2倍』なんてされたら、レベリングがとてつもなく大変だ。


 本当なら一桁レベルのうちにこの刻印を付けてレベリングしたかった。



「いやー、それにしてもカローナちゃんの『退きなさい』って……」


「なんかもう……女王様かな? って感じだったね」


「はうぅ……カッコ良すぎるよぉ……」



 このゲームの中においてのみ言えば、女王蜂の力を使ってるから女王様は強ち嘘ではない……かもしれない。


 誰かさんの最後の発言は、友情のために聞かなかったことにして……。



 それから数十分後、『アーレス』の街に佇む人気スイーツ店に採取したハニーヴェスパの蜜袋と樹液を納品し、何事も無くユキウサちゃんのクエストは終了した。



「カローナちゃん、ありがとー!」


「ホントにあっけなく終わっちゃったね~」


 ・お疲れ様!

 ・カローナ様の無双を見てるだけだったな

 ・見てて気持ち良かったけど



「カローナちゃん、今度お家行っていい? 同じ部屋でアネファンやりたいなって……」


「……やるなら四人で集まりたいけど……」



 ちょっと乗り気にはなれないなぁ。なんだか身の危険を感じるからなぁ……。



「いいじゃんいいじゃん! 予定合わせてやろーよ!」


「じゃあ明日学校で話すとして……めっちゃ時間余ってるし、次はカローナちゃんのクエスト手伝お?」


「え、いいの?」


「もちろん! 何やるのかは知らないけど……」


「んー……それなら、『ユピテル』に行く途中のボス戦手伝ってくれる?」


「オッケー! じゃあ早速行こっ!」



        ♢♢♢♢



 【極彩色の大樹海】の最奥、ここを攻略してきたプレイヤー達は断崖絶壁に囲まれた谷を目にすることになる。『ユピテル』に至るには、この谷を通り抜けるしかない……のだが、ここには多くのプレイヤー達を阻んできたモンスターが存在する。



 エリアボス『ダイハード・メガランチュラ』———高さにして5mはあろうかという巨躯と、全身を覆う鎧のような装甲が特徴的な蜘蛛型のモンスターである。


 そのフィジカルの強さと攻撃的な気性から多くのプレイヤーを苦しめてきた、全エリアボスの中でもトップクラスの実力を持つ。



『エリアボス: ダイハード・メガランチュラ に遭遇!』


「キュロロロロロロロロロロッ!」


 ・きたぁぁぁぁぁっ!

 ・あぁ、こいつめんどくさいよなぁ

 ・まぁお友達も結構強いし、普通にイケるんじゃね?

 ・バランス良いパーティだしな



 突如ゲームアナウンスが流れると同時に、金属音のような鳴き声と共に地響きがこちらに迫って来た。姿を見なくても分かる。絶対に強い奴だこれ。



「戦うの超久しぶりなんだけど、こんなヤバかったっけ?」


「あー……私のクエストを簡単に終わらせ過ぎたツケが来たのね……」


「カローナちゃんがフラグ立てるから……」


「なっ、私のせいじゃないわよ!?」


「冗談言ってないで警戒! 来るよっ!」



 木々を薙ぎ倒し、現れたのは見上げるほどに巨大な蜘蛛のモンスター。全身を鎧のような甲殻に包んだそのモンスターは、杭……どころか岩砕機のように鋭く硬質な爪を振り下ろした。



「【流葉】っ!」



 迷いなく私に向けられたその爪を、身体を反らしつつ横から叩いて軌道を逸らす。が……



 重っ……!


 岩の塊でも叩いたのかと思えるほどの硬さと手の痺れを感じつつ、身体ごと押し出すようにして何とかパリィを成功させる。



「私とユキウサちゃんで前衛、まりッピは魔法で援護を! メグメグはバフを———っ!」


「カローナちゃん!」



 即時【クイックスカッフル】起動。

 続けざまに横向きに振られた爪を上体反らしで避け、返しの袈裟懸けも掻い潜る。


 足に纏う黄色のエフェクトは、攻撃を避ける度にその輝きを増し、AGIを強化しているのが分かる。



 ———明らかに私を狙ってきてるねぇ。


 十中八九、刻印のせいだろう。女王の威光は並の昆虫には効いても、『ダイハード・メガランチュラ』のような、女王蜂にまで喧嘩を売る・・・・・モンスターにとっては、自身の縄張りを我が物顔で闊歩する邪魔物だということなのだろう。


 そりゃ、殴りたくなる気持ちも分かる。



————————————————————

Name:ダイハード・メガランチュラ

Level:68

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 鑑定によると、レベルは70近い。単体ではディアボロヴェスパよりしんどそうだ。



「爪の攻撃は受けちゃダメ! 死ぬから! ヘイトは私が稼ぐからみんなそれぞれ戦って! 特に前足2本の部位破壊は急務!」


「「「りょーかい!」」」



 3人の息のあった返事と、ミンストレルメグメグ楽器演奏・・・・の音を聞きつつ、ウィンドゥを操作する。



 叩いたのが一番硬い部分である爪だったとはいえ、尋常でない硬さであった。あれを壊すには生半可な装備ではダメだ。


 だから、ここが使い時だろう。『ヴィクトリアン』シリーズに次ぐ……いや、『ヴィクトリアン』シリーズも越えるガチ装備・・・・———



 ウィンドゥの操作に伴い『フルールド・ジョーゼット』の装備が解除され、代わりに金と黒を基調とした鎧を身に纏う。


 と同時に、身の丈よりも長い柄を持つ薙刀を取り出し、その切っ先をダイハード・メガランチュラへと向けた。



「見せて上げるわ。私の新兵器、『甲虫姫装の鎧インゼクトレス・クロス』と『魔蜂之薙刀』の強さを」

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