気を取り直して……クエスト開始!

 およそ3分後、再起動したカメラの前にはユキウサちゃん、まりッピ、メグメグの三人が正座していた。


 何事かとコメントが流れていく中、三人は揃って頭を下げる。



「「「人のチャンネルで失言をしてすみませんでした」」」


「今後は?」


「「「カローナちゃんに迷惑をかけないようにプレイしていきます」」」


「よろしい」


 ・調教されてて草

 ・3分でなにがあったしww



「ハァ……もう無かったことにはできないし、諦めるというか……現実逃避するけどさぁ?」


「「「ぅ……」」」


「……もしこれ以上何か事を起こすというのなら、友達でも容赦なく通報するから。見てる皆もね?」


「ご、ごめんなさい……」

「こんなに怒ってるの初めて見た……」


 ・マジギレ……

 ・イ、イエスマム!

 ・気を付けろ、カローナ様はやると言ったらやるぞ


「ふぅ……よし、説教はここまででいいでしょ。改めてクエストの話をしましょう?」


「カナッ……ローナちゃんが配信者モードだ……」


「違和感がすごいよねぇ」


「いいからはよ。私は棒術士とダンサーの回避タンクって感じね。状況に応じて使い分けるけど……今回はダンサーメインで戦うことになるかな。あなた達のジョブは?」



 そう言いつつ、私は右手に握った『ヴァリュアシオン』を掲げて見せる。

 ハニーヴェスパを捉えるのに、機動力が必要になるだろうしね。



「棒術士って珍しくない? 私はメインが騎士ナイトでサブがディフェンダーだから、前衛になるかな」


「私は白魔導師と黒魔導師の両方使ってて、攻撃魔法も回復も使う万能型後衛って感じね」


「んで最後の私が、ミンストレルとウィザード使ってて、全体のバフ担当よ」



 ふむふむ、ウサギちゃんが騎士ナイトとディフェンダーの近接アタッカー、まりッピがヒーラー、メグメグがバッファーね。さすがに普段から3人でやってるだけあって、バランスもしっかり考えられているようだ。



「カナっ、ローナっちがダンサーってのはめちゃくちゃ似合うよね」


「……気を付けなよ?」


「りょ、了解ですカローナちゃん!」


「カローナちゃんのその装備きれいだよね~。普段制服姿しか見てないから、こんな綺麗なドレス着てるとなんかこう……」


「ドキッとしちゃうよねぇ」


「切り替えの早さよ……。これね、『フルールド・ジョーゼット』っていう、ダンサージョブ用の装備よ」


「へー、確かにカローナちゃんってリアルでもダンスやってるもんねぇ」


「それなりにね? あなた達の装備も制服っぽくていいと思うわよ?」


「これ? 『魔法学園の礼装マギスクール・ドレス』って装備。ユピテルまで行けば買えるよー」


「カローナちゃんのそれは? やっぱりもっと先の街?」


「あー……これね、オーダーメイドなのよ。知り合いの知り合いに生産職のプレイヤーがいて、運良く作ってもらったって感じ」


「え――っ!?」


「めっちゃ良くない? それ」


「マジ裏山」


「一応宣伝のため……ヘルメスさんっていう鍛冶師に作ってもらったから、あなた達もヘルメスさんに依頼するといいかもよ」


「「「はぇ~~」」」


 ・ちゃんと宣伝しててえらい

 ・忘れてなかったんやね

 ・もしかしてさ、生産職やってればJKが集まってくる……?

 ・俺鍛冶士に転職するわ

 ・おれも



「でもなんか、せっかく可愛いのに顔の傷が気になっちゃう」


「あ、せっかく言わないようにしてたのに……」


「別に気にしてないわよ? モンスターと戦った結果なんだけど、消えないのよねぇ」



 ただの傷じゃなくて刻印……女王蜂のマーキングみたいなものだからね。


 それにしても……3人の装備が統一されてるから、私だけ浮いてる気がするなぁ。



「これなら、私も『魔法学園の礼装マギスクール・ドレス』買おうかしら」


「いいね! 買お買おっ!」

「カローナちゃんもお揃いの着ようよ!」


「それなら……今から行くクエスト終わったら、私の方の攻略も手伝ってくれる? まだアーレスまでしか解放してなくてさ、カリストまで早く行かないとダメなんだけど……」


「いいよー、言ってくれたらいつでも手伝うって!」


「じゃあさっさと【極彩色の大樹海】行っちゃお? カローナちゃんがめちゃくちゃあっけなくクリアできるって言ってたし?」


「さすが、カッコいい……」


「あはは、まぁ頑張るわ」



 別に見栄を張ってそう言ってる訳じゃない。けど、もう一度女王蜂に会わない限りは楽勝だろう。何せ、私には女王蜂の刻印があるのだから。



        ♢♢♢♢



 4人で【極彩色の大樹海】に踏み入れ、探索を開始する。まずはハニーヴェスパの蜜袋の採取だ。まりッピの話では、10個は必要になるとのこと。



「ハニーヴェスパは樹液じゃなくて花に集まるから、樹海の中のお花畑を探すと結構見つかるんよ」


「へー、まりッピよく知ってんね」


「まぁこれでもこの中じゃ一番アネファン歴長いわけだし?」


「その割りにはうちらとあんましレベル変わんないよね」


「サボりすぎじゃない?」


「うるせーし! ねぇカローナちゃん! 二人が虐めてくるんだけど!」


「……プレイスタイルはその人の自由だからね?」


「それみろ、その人の自由だから何でもいいんですー!」


「……装備を見る限り、カローナちゃんも大概特殊なプレイしてるっぽいしねぇ」


「あ、ユキウサちゃんちょっと言い方嫌らしくな~い?」


「すぐそう言う方向に持ってくメグメグも一緒じゃね?」


「でもなんか、カローナちゃんもそういうのに興味あるってなったら……良くない?」


「「分かるわ~~」」


 ・何かガールズトークを盗み聞きしてるみたいで変な気持ちになる

 ・カローナ様とお友達が楽しそうで何よりでござる

 ・あぁぁ、私もトークに入りたいですわ……

 ・カローナ様がお友達に押されてたじたじなのも珍しい



「…………」



 女が3人集まれば姦しいとは言うけど、こんな風になるのね……なんと言うか、反応に困る会話だ。



「んっ……楽しそうに話してるところ悪いけど、ハニーヴェスパが2匹お出ましよ」


「オッケー! 行ける?」


「もちろん。私に任せてって言った手前……ねっ!」



 勝負は一瞬であった。

 【パ・ドゥ・シュヴァル】の前方移動で接近、ハニーヴェスパに気付かれるよりも早く、回転しながらの【パ・ドゥ・ポワソン】によるジャンプで、遠心力を乗せた一撃で一体のハニーヴェスパを撃破。


 一体が撃破されたことで、ようやく私の襲撃に気付いたもう片方のハニーヴェスパが逃走を始める――


 ———よりも早く、【パ・ドゥ・シャ】による空中機動で向きを変えた私の刃がハニーヴェスパを切り裂く。



 おっと。

 『ヴァリュアシオン』をインベントリに放り込み、落下する2つの蜜袋をキャッチ。そして身体を翻して着地完了。



「ふぅ、とりあえず2個回収できたわね」


「「「…………」」」


「えっ」

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