そ、それはらめぇっ!
約束の時間の5分前、ヘルメスさんにコスプレ写真を撮られたり色々とやっていて時間がギリギリになってしまった。
オリジナル装備を無償でくれるから撮影も了承、と言うか私も意外とノリノリで撮影してもらってるけど……撮影の時のヘルメスさんの目、怖いんだよね……。
可愛いレイヤーさんって、きっとこんな気持ちなんだろうね……。
んで、急いでうららちゃん達との待ち合わせ場所に向かったんだけど———
「あんたカローナだろ? 配信者の。この後予定空いてる?」
「なぁ、俺らと一緒にクエスト行こうぜ?」
「というかカローナちゃんにクエスト連れてってもらった方が良くない? プライマルクエストとか」
「確かに! 俺らかなりやってるからさ、そんなんパパっとクリアしちまうぜ?」
「つーか連絡先とか教えてよ」
「だからしつこいって!」
握手を求められるぐらいならまだいい。でも流石にこのナンパ野郎どもはちょっとしつこい。かと言って私に危害が加えられてる訳じゃないから、救援を呼ぼうにも出来ないし……。
かくなる上は……【アン・ナヴァン】、【クイックスカッフル】、【パ・ドゥ・シュヴァル】起動!
んで逃走開始!
「えっ、ちょっ」
「速っ!?」
AGI特化の私のステータスにバフを盛ったら、流石にレベルの高いナンパ男も追いつけないはず。
案の定、私とナンパ男達との距離は開いて行くが……それでも追ってくるあたり、ガチなんだろうな……。
【魍魎跋扈の森】や【極彩色の大樹海】に隣接する【アーレス】の街は、多くのプレイヤーが集まる場所でもある。そんな人ごみを縫って、縫って……
……時々『カローナ』の名前を呼ぶ声が聞こえるけど、気のせいだな、きっと。
そのまま待ち合わせ場所に向かうと、すでに女性アバターのプレイヤーが3人集まっていた。
絶対あの3人だ。だって、3人ともお揃いの、学校の制服っぽい装備を纏ってるし……何よりアバターの見た目が本人達そっくり。リアルの自分に似せたアバター使ってるのね……。
私が近づくと向こうも私に気付いたのか、驚いたように目が見開かれる。
「えっ、あれって……」
「カローナちゃん? 配信者の?」
「えっ、マジじゃん。サイン貰っとく?」
「つーかさ、なんかこっちに向かって来てね?」
「ついて来て!」
「えっ、ちょっ、えぇぇぇぇっ!?」
取りあえず一刻も早くこの場を離れる!
うららちゃん(と思われるプレイヤー)の手を掴み、そのまま【アーレス】の街を駆け抜ける。
突然友達を連れ去られたまりッピとめぐめぐの困惑の声が響いたのはご愛敬。
♢♢♢♢
「ふぅ……ここまでこればもう大丈夫ね」
「えっと、カローナちゃん……さん、ですよね?」
「え、誘拐?」
「あ、突然ごめんね? えっと……」
彼女達の頭上に表示されているプレイヤーネームに目を移す。まりッピと、メグメグと……ユキウサギ?
まりッピとメグメグは分かる。
ユキウサギて……うららちゃんが、ユキウサギ……ぅっ頭が……。
「うららちゃん、まりあちゃん、めぐみちゃんだよね?」
「えっ!?」
「なんで私達の名前を……」
「え? あ、そっか。いっつも配信用に声変えてるから……。あ――、あ――……これで分かる?」
「「「カ、カナっち!?」」」
「ふふふ、配信者カローナの正体は加奈子ちゃんでした!」(ウィンク&ピース)
「「「 」」」
「え、あのっ」
ちょっとぉ! 何でもいいから反応してよぉ!!
三人が再起動するまで数分。ようやく目の前の『カローナ』と彼女らが知る『加奈子』が繋がったのか、いつも通りの口調に戻った挙句、色々と質問攻めにされていた。
「は~、マジでカナっちなんだね」
「身近な友達が配信者って何か不思議だよね~」
「つーかカナっち雰囲気違くない? 配信モード的な?」
「まぁそんなところかしら。声も変えないと、もしクラスメイトが見てたらバレちゃうし……」
「あーね」
「えー、でもそれはそれでめちゃめちゃ人気出ると思うよ?」
「学校でもカナっちめちゃくちゃ人気あるからねぇ」
「だって週一ぐらいで告白されてるでしょ? 最後に告白されたのいつよ」
「今朝。ランニングしてたらいきなりね」
「流石に笑うわ」
「辻斬りならぬ辻告白ってか」
「カナっちに新しい伝説が増えたねぇ」
「あはは……」
「あれ? そう言えば……配信者ってことは、今は配信中?」
「いや、流石にあなた達がいるし、配信はしてないわよ?」
「あ、そうなんだ」
「ふーん……」
「……?」
どことなく残念そうな表情をした三人が顔を突き合わせ、何やらこそこそと話し始める。
何を話しているのかしら……。分からないけど、三人そろってコクッと頷いた彼女達が、何かを企んでいるのは分かる。
「ねーぇカローナちゃん?」
「……何かしら?」
「私達、カローナちゃんが配信してるところ見たいなぁって……」
「ダメ、かな……?」
「かわヨ……じゃなくて、流石にそれはしないわよ?」
「えー!? 何で!?」
「だって流石に配信者でもない人を出す訳にもいかないし……あなた達リアルとそっくりのアバターにしてるでしょ? 身バレするわよ?」
「うちらはそんなの気にしないのに!」
「どうしてもダメ……?」
「っ……上目遣いでおねだりしても、ダメなものダメ」
「む~~……」
「じゃあせめてカメラ見せて!」
「雰囲気だけでも!」
う、そんな顔されると……。
うーん……カメラを見せるだけならいい、のかな?
インベントリを操作して『
こうしておけば、戦闘中でもいい感じに撮影してくれるという訳だ。
「へぇ~~……これが噂の……」
「こんなふうに撮影してるんだねぇ」
「戦闘中は流石にカメラ持ってなんて出来ないからね。本当はそうした方が狙った構図が取れるんだけど……あ、ちょ、あんまり触らないでよ?」
「あー……うん、大丈夫大丈夫」
うわの空で適当な返事をしたうらら……ユキウサちゃん達が、再び顔を見合わせてコクッと頷く。一体何を企んで……まさかっ!!
「えい」(スイッチポチー)
「ちょっ、待っ」
何やってるのぉぉぉぉっ!?
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