ふぅ……ギリ致命傷で済んだぜ……
悲報、夏休み終了のお知らせ。
今日から学校の再開である。
夏休みは色々と大変だったなぁ。部活に勉強に……プライマルクエスト一つとユニーククエスト二つ、PKerとの戦闘に
……あれ? JKらしいことしてなくね?
海とかキャンプとか色々誘われてたけど、結局断ってゲーム配信の日々……。
よし、考えないようにしよう!
女子高生の無駄遣いとか、私は知らないからね。
そんなことより……昨日の梵天丸さんとの試合の、あの最後の攻撃……あれは何だったんだろう。
首を掴まれたと理解した時には、すでに叩きつけられてHPが0になっていた。
あまりにも速く、あまりにも高威力。私が
妖気解放……これもまたなかなかの曲者だ。
自身に強力なステータスアップをもたらす
例えるなら、バイクにジェットエンジンを積んだようなものだ。そんなものをちょっとでもふかしたら、当然制御できるわけもなく……初めて使ったときは気付いたら壁に激突してHPが0になっていた。
100回以上の挑戦を経た今でこそ慣れたものだけど……そのままほとんどが壁か地面に激突して自爆したものだ。
そんな状態で、梵天丸さんの
「ア゜―――――――――――――――ッ」
遠い、遠いなぁ……。
「んっふ……カナっちどっから声出したの今」
「あ、うららちゃん……」
この子いつの間に私の後ろに……
「カナっち、なんか今日調子悪い? 授業中も心ここにあらずって感じだったし、突然変な声出すし……」
「ううん、そういう訳じゃなくて……あ、いや、悪いと言えば悪いかな……」
「えっマジ? 頭痛い? 熱とかある? そういうのは早く言わないとダメだよ? 保健室連れてったげるから……」
「えっ、あっ、違うの! 体調は大丈夫だから!」
「ホントに? 無理してない?」
「うん、全然大丈夫。……調子悪いってのは、ほら……ゲームの話だから」
「なーんだ、そういうことなのね。良かったぁ」
調子悪いって言っただけでこんなに心配してくれるなんて……ギャルに偏見持っててごめん、うららちゃんめっちゃ良い子や……。
「てかゲームの話だったのね、やっぱアネファン? どんな感じ?」
「何て言うか……NPCに稽古つけてもらうクエストなんだけど、全く勝てる気がしなくて……」
「あーね。相手が強くて行き詰まってる感じかぁ。手伝えたら良いんだけど……」
「ソロのクエストだから難しいんだよねぇ」
「まぁそれだったら根詰めすぎてもアレだし、ちょっと間を置いてからチャレンジしたら?」
「ん、確かにそれが良いかしらね……」
「そんなわけで、カナっちに一つ提案なのです」
「急にどうしたの? 提案?」
「えーっと、今日の夜さ、うちらのクエスト手伝って欲しいなって。ダメ……かな?」
「かわヨ……じゃなくて、そんなことだったらいつでも手伝って……あ―――――っと」
「ホント!? ありがとう!」
「ちょ、ちょっと待って」
何も考えずにOKって言ったけど、下手したら私が配信者ってバレるじゃん!
うららちゃん達も結構アネファンやり込んでるっぽいし、流石に『カローナ』がプライマルクエストを発生させたことは知っているだろう。
つまり、彼女らが『カローナ』の見た目や、配信者であることを知っている可能性が高い。
「あの、うららちゃん……悪いけどちょっと事情が」
「えっ…………」(涙ポロリ)
「ごめん何でもない私に任せて!」
「わぁい、ありがとう!」
ちくしょう手遅れだ!
仕方ない、覚悟を決めるか。
まだ気兼ねなく話せる相手だからどうとでもなるだろう。
ギリギリ致命傷で済んだかな!
「カナっちがいれば百人力だよぉ。えっと、【極彩色の大樹海】でハニーヴェスパの蜜袋と樹液の採取だって。街のケーキ屋さんで発生したクエストだよ」
「そんなのもあるのね。【極彩色の大樹海】かぁ……」
「あ、カナっちレベルとか大丈夫?」
「そっちは大丈夫よ。私も結構レベル上がってるから。ただ……」
「ただ?」
「それならめちゃくちゃあっけなく終わるかなって」
「……さすカナ」
「え、何?」
「何でもなーい。じゃあ夜二人も誘っとくからさ、8時ぐらいに【アーレス】の入り口の辺りに集合ね!」
「えぇ、分かったわ」
「ありがとー! よろしくねー!」
別れ際、周りの目も気にせずにすごい笑顔でブンブンと大きく手を振るうららちゃんに、私の悩みも吹っ飛んでしまったようだ。
……狙ってやってるんだろうか……。それだったらコミュ力お化けどころかコミュ力魔人ね。
♢♢♢♢
約束の8時……より30分ほど早い7時半、いつもの『閑古鳥』でヘルメスさんと会っていた。
「ヴィクトリアン・サーヴァンツもヴィクトリアン・ナイフも修理は終わっているぞ」
「毎度迷惑かけるわね、ホント……」
「本当だよ。一体何と戦ったら破損するんだ? 並の耐久性ではないと思うんだが」
「魔蜂の女王とか……かな」
「あー……まぁなんだ、御愁傷様。魔蜂の素材を大量に持ち込んだときは何事かと思ったがそういうことか」
「そういうことよ。それで、
「あぁ、ヴィクトリアン・サーヴァンツを超える自信作と言ってもいい」
そう言ってヘルメスが取り出した装備一式を受け取る。
「ふふ、ありがとう。今からクエスト行くから、性能チェックはその時に……ね」
「すぐに壊すなよ?」
「大丈夫よ。……多分」
「不安だ……」
「ところでさ、いい加減クランの拠点とか構えないの? 毎回ここって、絞まらないんだけど……」
「用意してもいいんだが、残念な話今はクランに金がないからな」
「世知辛いわねぇ」
「それに、俺らがここを頻繁に使ってるから、この店もやっていけてるみたいだぞ」
「……それって私たちが使わなかったら潰れるってことじゃ……」
「そうとも言う」
あの、剣と魔法のファンタジーゲームよね?
繁盛してない喫茶店の営業の危機とか、そんな設定要る?
変なところに力に入れすぎぃ……。
その後、他愛もない会話をしてヘルメスに別れを告げたカローナは、途中、各種ポーションの補充をして約束の場所———『アーレス』へと向かった。
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