梵天丸さんの実力
限界まで息を吐きだし、ゆっくりと空気を吸い込む。
頭の血がスゥッと降りていき、周りがスローに見えるほどの集中力を発揮する。
対峙するのは梵天丸さん。
梵字が刻まれた杖を握る手をだらりと下げて自然体のように見えるが、既に臨戦態勢なのか隙はどこにもない。
梵天丸さんはそのまま動く気配はないようだ。
……なるほど、先手は譲るってことかな。
なら、その手に乗ってやろうじゃない。
コンディションは悪くない。距離も十分。チャートもインストール済み。
今この試合に、積み上げた経験を。
いざ———
「っ!」
初手、【ワイドスラッシュⅡ】。
淡い黄色のエフェクトがモップに纏わり付き———アビリティ起動から攻撃が放たれるまでの僅かな時間の隙に、梵天丸さんがえげつない加速で間合いを詰める。
【ワイドスラッシュⅡ】をキャンセル、【アン・ナヴァン】と【クイックスカッフル】を同時に起動!
赤と黄緑のエフェクトが私の足から弾け、二重のAGIバフが景色を置き去りにする!
互いに高速でぶつかり合うその途中、梵天丸さんが握る杖から黒い羽根が舞うようなエフェクトが湧き出る。
経験から言うと、あれはヤバい。
【アン・ナヴァン】の高速移動の途中に【クイックスカッフル】でステップを刻み、その軌道をグニャリと曲げる。
けど、微妙に足りな———
「【パ・ドゥ・ポワソン】っ!」
迫る梵天丸さんの杖の軌道を読みつつ【パ・ドゥ・ポワソン】によるトリプルアクセルを決めて回避、脇腹をかすめた黒羽根にHPをごっそりと持っていかれる感覚を受けながら横に抜け、空中で回転しつつ一瞬だけ【大伐断】でフェイント、即【ピアースレイドⅡ】に切り替えて放つ!
最初の【大伐断】のフェイントに引っかかってガードしてくれていれば、そこにガード貫通の【ピアースレイド】を叩き込めるんだけど……身体ごと回転してる途中に突然放たれる【ピアースレイド】の突きに、同じく貫通効果持ちの突きを合わせるって化け物かな?
黒の閃光と赤黒い稲妻がぶつかり合い、互いに効果を消失させる。同程度の威力、同程度の効果がぶつかり合うことによって起こる
互いにアビリティを放った直後の硬直中、その僅かな間に、チャートを組み直す……!
「ふっ……!」
着地直後、まだ効果が残っている【アン・ナヴァン】でスタートを切る。と同時に、直前まで私がいた場所を黒羽根が突き抜けて言った。
あ、危ねぇ……とか考えてる暇もない!
突きを放った直後だというのに、既に横薙ぎのモーションに入っている梵天丸さんに顔を引き攣らせつつ、バク宙でその上を飛び越える。
と同時、【パ・ドゥ・シャ】による水色のエフェクトを纏う私の足が、
ここで決める!
迎え撃つ仕草を見せる梵天丸さんを正面に、右手で握ったモップを振り上げて【大伐断】を発動。そして……左手ではノールックインベントリ操作によって取り出した檜の棒で【空風・払】を同時に発動する!
正直、棒の二刀流には無理があるけど、大剣や戦斧のような武器と違って棒が片手で扱える武器である以上、両手に握って別々に動かすことは可能なのよね。
わざわざノールックでインベントリを操作する必要は無いんだけど……。
そんな曲芸をここで見せたのはもちろん理由がある。
発生が早い【空風・払】が一瞬遅れて発動した【大伐断】を後押しするようにぶつかり、そのスピードを加速する!
さぁ、加速させることでタイミングを外し、さらに威力も上げた一撃だ。
如何に梵天丸さんと言えど簡単には……
あれ?
なんで手に何も握ってな———
「“妖仙流柔術”———【小夜嵐】」
はっ?
【大伐断】が曲がっ、首掴まれ———
渾身の【大伐断】が逸らされて地面を穿つと同時、首を凄まじい圧力が襲う。
それが梵天丸さんに捕まれたことによる圧力だと、気付くよりも早く———
轟音。
そして暗転。
鬼幻城の一室にリスポーンした私は、ここで
「ア―――――――――ッ! 割といい線言ってたんだけど! なんでそこで新しい技出してくるかなぁ!? ……ハァ、今日はもう寝よ……」
プライマルクエスト後編、『万の鬼が行く逢魔ヶ時』———
———挑戦回数 186回。
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