大樹海で荒ぶるミニスカメイド 3

 複眼を真っ赤にして激おこ状態のディアボロヴェスパと、その周りにいくつも浮かぶ緑色の魔法陣。


 え、まさかの魔法攻撃っすか……?


 直後、ディアボロヴェスパの周りに浮かぶ魔法陣から無数の【風刃ウィンドエッジ】が飛び出した。



 ・ひぇっ

 ・あー、こいつHP減ると魔法使ってくるからな

 ・これは流石にノーダメはきつくね?



 ちょっ、弾幕エグいって。

 【スカッフル】……はリキャスト待ち! つまり、頼れるのは己のPSプレイヤースキルのみ!


 無数に迫る風の刃の隙間を縫うようにルートを判断し、どういう動きで突破するのかを瞬時に組み立てる。


 あ、無理これ。無傷で突破は不可能。

 掠るダメージぐらいは許容するとして、なら最小限のダメージで済むルートは……


 あー、ヤバい。これ以上は間に合わない。

 とりあえず、動く……!


 一発目を【燈火・払】で相殺。二発目を、首を横に倒しやり過ごす。風の刃が頬に食い込む感覚と共に、少なくないダメージが発生する。


 が、肉を抉らせて稼いだ数cmのお蔭で、致命傷になり得る胴体への【風刃】を完全に回避できる。



 で、次。

 そのまま地面に這いつくばるほどに体勢を低くし回避、その反動でジャンプして回避、【空風・払】を地面にぶつけて着地のタイミングをずらして回避、着地の直後、脇腹を数cm斬らせながらアビリティ発動の時間を捻出し、致命傷になり得る【風刃】を3つまとめて【ピアースレイド】で貫く。


 位置を細かく調整したため、【ピアースレイド】後の硬直中でも一発掠る程度に留まり、残るは回避、回避……



「『肉を切らせて骨を断つ』ってね!」


「ギッ!?」



 『ヴィクトリアン・ナイフ』を投擲!

 おっと、そっちに避けていいの? そっちは……



「【ワイドスラッシュ】!」


「ギィィッ!」



 投げナイフより痛い攻撃が待ってるわよ!

 モップの効果によって範囲が伸びた【ワイドスラッシュ】が、ナイフを避けたディアボロヴェスパに直撃する。


 弱点でもある火属性のアビリティにより、ディアボロヴェスパから大量のダメージエフェクトが弾ける。


 ラッキー!

 クリティカルでひるみモーションが入った!



 ここで削りきる……!

 怯みモーションが入ったとはいえ、その時間は僅か数秒。その間に最も高いDPSを出せるのは……接近しての素殴り連打だ。


 これに関してはプレイヤーのレベルでかなり作用されるが、私のような軽戦士ビルドであればアビリティ一発打つ間に素殴り3発は入れられるし、クリティカルの発生率次第ではアビリティの威力を越えられる可能性がある。


 ついでに言うなら、毒針は破壊したから、接近に対応される怖さが激減中だ。



 リキャストが復活した【アクセルステップ】を即時発動し、【燈火・突】を叩き込んで木の幹に縛り付ける。からの【棒術】連打!


 一発叩き込む度に、クリティカルの判定と共にダメージエフェクトが弾ける。怯みの時間は約3秒。


 たった3秒、されど3秒。

 目まぐるしく戦況が変わるこの戦いにおいて、3秒は趨勢を決するのに十分すぎる時間だ。


 ダメージから逃げようとするディアボロヴェスパの鼻先へ、【棒術・打】のモーションからのモップ投げ。


 【魔纒】による火属性付きのモップが、炎を撒き散らしながら回転してディアボロヴェスパに襲いかかる。とっさに急停止したディアボロヴェスパだったが……



「止まっていいの?」



 今は【アクセルステップ】の効果中、少しでも止まってしまえば……私自身が追い付く!


 【風刃】を避けたときに投げていた『ヴィクトリアン・ナイフ』を拾い上げ、そのまま———



「【シークエンスエッジ】!」


「ギィィィィッ!?」



 正直、【アクセルステップ】を全力で使っていたため、SPスタミナポイントはそれほど残っていない。


 反撃を恐れてスタミナを温存したところで、すぐに足りなくなってやられるのがオチだ。



 だからここで、全てのスタミナをつぎ込んでディアボロヴェスパのHPを削りきる———!


 両手に握ったナイフが空を裂き、同時にダメージエフェクトが弾ける。


 それは一回、二回……エフェクトが重なって何度目かも分からない斬撃が飛び交う中、それでもなお沈まないディアボロヴェスパは動き出す。



 ヤバッ、まだ討伐できない?

 そのモーションは鉤爪による切り裂き。一発は避けられる。けどたぶん、そこでスタミナが切れて二発目は当たる。


 やられる前にやれ!

 一撃でも多く叩き込めっ!



「おぉぉぉっ!」


「ギギキィッ!」



 防御も回避もかなぐり捨てた斬撃の嵐の中、ディアボロヴェスパの鉤爪が空を切り裂き、私の首へ。


 っ……限界、間に合わっ———


 パリンッ!


「えっ?」



 私の首にヒットしたと思われた鉤爪が、ガラスの割れるような音を立てて砕けた。間抜けな声を漏らす私の目の前で、ディアボロヴェスパはポリゴンとなって空気に溶けていく。


 ———つまり、ギリギリ間に合ったのだ。私の首から僅かなダメージエフェクトが出ているところから察するに、本当にギリギリ、コンマ何秒以下の世界で私の方が早かったらしい。


『レアモンスター: ディアボロヴェスパ を討伐しました!』


「っ———」



 ふっと足の力が抜け、その場に尻餅を付く。消えていくディアボロヴェスパの姿とそこに残るいくつものドロップを眺め、ようやく追い付いた頭が歓喜を爆発させた。



「———っしゃあ! レアモンスター初見討伐成功! やってやったわよ!」


 ・おめ!

 ・カローナ様にダメージを与えるとは……

 ・つまりディアボロヴェスパはハクヤガミより強かった?

 ・流石にそれはない



 他のプレイヤーが居るかもしれないのに、高らかにそう宣言する。そんな私の嬉しそうな声を聞いたのだろう。私を祝福してくれるお客さんが……



「ギギッ」

「ギチギチギチッ」


『 オーガヴェスパ に遭遇!』



 おっとやべぇ。

 スタミナポーションがぶ飲み。ディアボロヴェスパの素材回収。そしてとんずら!


 家に帰るまでが遠足って、それいつも言われてるからね!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る