大樹海で荒ぶるミニスカメイド 2

 キラキラと輝くポリゴンエフェクトに包まれながら、着地した私は即座にバックステップを踏み、混乱する頭を無理矢理抑え込む。



「は? ちょっと待って。あれだけ硬かったメガロヘラクレスが一撃?」


 ・あれだよあれ!

 ・絶対レアモンスターだろこれ



 レアモンスター?

 あの『ゴブリン・コマンド』みたいな?

 初速があったとはいえ、【ピアースレイド】のクリティカルでヒビが入る程度の外殻を貫くなんて、STRが高すぎる。


 【鑑定】したいところだが、そんな暇はない……!



 ボッ! っと空気を切り裂く音を立てて、巻き上がる砂煙の向こうからディアボロヴェスパが針をこちらに向けて迫って来た。


 やっぱりねっ!



 ディアボロヴェスパの毒針に、【魔纒・土】で強化した【棒術・突】を合わせる。が、まるで岩に突きを入れたかのようなモップから伝わる衝撃に武器の破損を察し、瞬時にテコの原理を利用して上へ逸らす。


 空中でクルリと身体を翻し、頭上から襲いかかるディアボロヴェスパを、【アクションステップ】と【スカッフル】の併用で避け、横から【棒術・打】を叩き込んだ。



 硬っ……くはないか。いや、それにしては手応えがない。

 こいつ、私が棒を振り抜く方向と同じ方向に転換して威力を殺したんだ……!


 物理演算を理解しているとしか思えない動き。

 カグラ様もそうだけど、アネファンの敵とかNPCって頭良すぎよね。


 ただありがたいことに、ディアボロヴェスパはスピードアタッカータイプ。メガロヘラクレスのような高耐久タイプよりよっぽど私の得意分野だ。



「せっかくのレアエンカウント、初見クリアしてやろうじゃないの!」


 ・やる気満々だぁ

 ・初見であの連撃対応できるのなんでなの



 少し間合いが離れた状態から、【ワイドスラッシュ】の溜めモーションを見せる。【ワイドスラッシュ】は溜めて放つ技なので、ディアボロヴェスパのようなAGIの高い敵にいきなり放っても当たるわけがない。


 だからこれは囮。

 【ワイドスラッシュ】を溜めている隙に迫るディアボロヴェスパを、【ワイドスラッシュ】をキャンセルして回避。同時にモップをナイフに持ち換え、背後の木に深々と突き刺さった毒針の付け根を斬りつける。


 さすがに硬い。

 が、僅かなダメージエフェクトが散っているところを見る限り、部位破壊は狙えそうだ。



 ギュルンッと身体を捻って針を抜き、私に迫ろうとするディアボロヴェスパを、【魔纒・火】を纏わせた棒術、【燈火・払】で迎撃。


 モップの効果で若干攻撃範囲が広がるため、ディアボロヴェスパは余分に避ける必要が出てくる。



 そして、ディアボロヴェスパが体勢を整える前に【空風・突】の連打!

 さながら固定砲台のように。空気を切り裂く音と共に、鋭い槍のような突きが何度も放たれる。


 けど当たらない!

 装備の効果と【魔纒・風】で攻撃速度は上がっているはずなのに、空中で細かく方向を変えるディアボロヴェスパには掠りもしない。


 そうこうしている間に、ディアボロヴェスパの体勢が整ってしまう。



「正直一発ぐらい入れてダメージ稼ぎたかったけど、仕方ない!」



 からへのモーションチェンジ、そしてキャンセル。

 隙の大きい技を見せ、ディアボロヴェスパの攻撃を誘ったのだ。その誘い通り、ディアボロヴェスパは隙を突いて私に迫った。


 このタイミングで来るのは分かってるのよ!


 ギィンッ!

 金属質の音を立てて、ディアボロヴェスパの毒針が【流葉】によってパリィされる。

 ディアボロヴェスパを横から狙えるこの一瞬、逃す訳もなく。



「【ワイドスラッシュ】!」



 横薙ぎに振り切ったモップから放たれた衝撃波が、ディアボロヴェスパを飲み込んで吹き飛ばした。



「ふっ……!」



 【ワイドスラッシュ】を受けたディアボロヴェスパへ、【アクセルステップ】を発動して一気に間合いを詰める。



「おっと、逃がさないわよ!」


 ・なんでこの人初見で対応できてるの

 ・いきなりのエンカなのにいつの間にか攻める側に回ってるの流石すぎる

 ・未来予知かよ



 『ヴィクトリアン・ナイフ』……は勿体無いから、いつか拾った『ゴブリン・ナイフ』を投げて翅を木に縫い付ける。


 コンッと音を立てて樹に突き刺さったゴブリン・ナイフはディアボロヴェスパの翅を貫いており、動き出しを遅らせて私の攻撃の隙を生み出す。


 ここがチャンス!



「【ピアースレイド】!」



 ナイフに怯んだディアボロヴェスパのお尻の先に、赤黒いエフェクトを纏ったアビリティが突き刺さった。【ピアースレイド】は貫通攻撃であるため、VITが高い相手や硬い外殻を持つモンスターにもダメージが通る。



「貫……けぇぇっ!」


 バキンッ!


「ギィィッ!?」



 破壊音とともに、ディアボロヴェスパの毒針が宙を舞う。

 一瞬喜びの声を上げかけた自分を押さえ、ディアボロヴェスパへの追撃を狙う……が、さすがにそれは許せなかったのか、ナイフを振り払ったディアボロヴェスパに逃げられた。


 ようやくここでディアボロヴェスパの毒針を回収する。


 よし、素材チェックは後でするとして、今はディアボロヴェスパの討伐を……



「ギチギチギチギチギチッ」



 な、何この音……威嚇音?

 バッとディアボロヴェスパに視線を向けた私の目に映ったのは、複眼を真っ赤にして激オコ状態のディアボロヴェスパと、その周りにいくつも浮かぶ緑色の魔法陣。



 え、まさかの魔法攻撃っすか……?

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