こんな物があるって、おかしくない?
ウィンドゥに表示されたその文字を見て、一度は何でもないように目を離し———二度見。
はっ?
プライマルクエストが進んだ?
なぜ?
「【霧隠れの霊廟】……あそこに居るやつは強かったじゃろう?」
「強いというか、まぁ……1m先も見えないような深い霧に紛れて攻撃されたんじゃあね……」
まぁそれを差し引いても、私はともかくガチ勢のはずの
というか、あれ?
右から来たのを避けた直後に右からもう一度来るのはおかしいし、私達を空中で捉えたあれは、あまりにも間隔が短い。
もしかして、私達が勘違いしてるだけで『霊廟の化け物』って複数いる?
「そうではないぞ。【霧隠れの霊廟】に潜む
「ナチュラルに心を読まないでください……というか、
「全てを話すには、お主の実力が足りておらん。そのためにも、早く梵天丸を連れ戻して参れ」
ん、なるほど。これ以上プライマルクエストを進めるには、『梵天丸』を連れ戻すという、カグラ様からのお遣いをクリアしないとダメなようだ。
けど、その
これはとりあえず一歩前進かな。
うんうんと唸りながら思考に耽る私を眺めるカグラ様は、柔らかな笑みを口元に浮かべ、
「時移りて 数多嘆きぞ 空覆う 我が見ぬる月の 偽りにけり」
———美しい。
鈴の鳴るようなその声が。
流れるように紡がれるその文字が。
思いをしたためるその所作が。
それなりに作法を修めてきた私でも、思わず見惚れてしまう程だ。考えてみればカグラ様はNPCだから、プログラムだと思えば当たり前と言えば当たり前。
けど、そんなことも忘れてしまう程、軽い衝撃だった。
「この
「あ、ありがとうございます……」
手ずから差し出されたその短冊を受け取り、したためられた歌を眺める。
う……草書かぁ……。古文は苦手って訳じゃないけど、昔の字体が読めるって訳じゃないんだよねぇ。
とりあえずしまっておいて……
『フレンドのMr.Qさんからメッセージが届きました!』
『時間ある? あるなら閑古鳥に集合して欲しい。霧隠れの霊廟の情報を共有したい』
おっと、
まぁ、話だけならすぐに終わるかな。流石に疲れたから寝たいし……。
「カグラ様、フレンドに呼ばれたので、そっちに行ってきますね。梵天丸さんはその後に……」
「うむ、行って参れ。まだ少し時間はあるのでな」
「失礼します」
そう一言断ってカグラ様の部屋を後にした私は、妖界の鍵代わりのカルラの『
一人残ったカグラは、窓から覗く月に目をやり、眉を潜めて嫌悪の表情を浮かべた。
「この月の光も嫌気が差すのう……あの子
♢♢♢♢
「お待たせ」
「お帰り、カローナちゃん。遅かったね?」
「この店の場所が分かりにくすぎるのよ。迷ってかなりの時間彷徨うことになったわ」
私はテーブルについてようやく休憩することができ、出された紅茶で一息ついた。
「カローナ、『ヴィクトリアン』シリーズの使い心地はどうだ?」
「かなり良いわよ、これ。火力も機動力も格段に良くなったってのもあるけど、バフの効果が強すぎてもう」
「それは何より。カローナの配信のお蔭で俺の方にも早速依頼が来てるからな。願ったり叶ったりだ」
「私もまたヘルメスさんに装備の制作お願いしていいかしら?」
「いい。と言うか、既に取り掛かっている。素材をくれればいくらでもつくるぞ」
「ありがとう! やっぱヘルメスさんしか勝たん」
「それより二人にこれを見て欲しい。カナちゃんと【霧隠れの霊廟】に行った特に撮ったスクショだ。化け物に叩き潰される直前だったから、そんなに数は無いんだけど……」
そう前置きをして、Mr.Qは10枚ほどの写真をウィンドゥに表示した。それらの写真を私とヘルメスは眺め、そこに移っている物の正体に徐々に気付き始め……あまりの
「あり得ないでしょ! なんでこの世界に
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