こんな物があるって、おかしくない?

 ウィンドゥに表示されたその文字を見て、一度は何でもないように目を離し———二度見。


 はっ?

 プライマルクエストが進んだ?

 なぜ?



「【霧隠れの霊廟】……あそこに居るやつは強かったじゃろう?」


「強いというか、まぁ……1m先も見えないような深い霧に紛れて攻撃されたんじゃあね……」



 まぁそれを差し引いても、私はともかくガチ勢のはずのMr.Qクウも一撃で瀕死に持っていく火力は異常だけど。


 というか、あれ?

 右から来たのを避けた直後に右からもう一度来るのはおかしいし、私達を空中で捉えたあれは、あまりにも間隔が短い。


 もしかして、私達が勘違いしてるだけで『霊廟の化け物』って複数いる?



「そうではないぞ。【霧隠れの霊廟】に潜む、あ奴は……堕龍おろちは一匹だけじゃ。鳥籠・・の中ではな」


「ナチュラルに心を読まないでください……というか、堕龍おろち? 鳥籠?」


「全てを話すには、お主の実力が足りておらん。そのためにも、早く梵天丸を連れ戻して参れ」



 ん、なるほど。これ以上プライマルクエストを進めるには、『梵天丸』を連れ戻すという、カグラ様からのお遣いをクリアしないとダメなようだ。


 けど、その堕龍おろちとやらの戦闘で、何らかのフラグが立ったようで後編までは進められている。


 これはとりあえず一歩前進かな。



 うんうんと唸りながら思考に耽る私を眺めるカグラ様は、柔らかな笑みを口元に浮かべ、おもむろにインベントリから筆と短冊を取り出した。



「時移りて 数多嘆きぞ 空覆う 我が見ぬる月の 偽りにけり」



 ———美しい。

 鈴の鳴るようなその声が。

 流れるように紡がれるその文字が。

 思いをしたためるその所作が。


 それなりに作法を修めてきた私でも、思わず見惚れてしまう程だ。考えてみればカグラ様はNPCだから、プログラムだと思えば当たり前と言えば当たり前。


 けど、そんなことも忘れてしまう程、軽い衝撃だった。



「このうたをお主にやろう。まぁ、お守りみたいなものだと思ってくれればよい」


「あ、ありがとうございます……」



 手ずから差し出されたその短冊を受け取り、したためられた歌を眺める。


 う……草書かぁ……。古文は苦手って訳じゃないけど、昔の字体が読めるって訳じゃないんだよねぇ。


 とりあえずしまっておいて……



『フレンドのMr.Qさんからメッセージが届きました!』

『時間ある? あるなら閑古鳥に集合して欲しい。霧隠れの霊廟の情報を共有したい』



 おっと、Mr.Qクウからメッセージが来た。情報共有ねぇ……私、あの戦いで別に何の情報も無いんだけど。


 まぁ、話だけならすぐに終わるかな。流石に疲れたから寝たいし……。



「カグラ様、フレンドに呼ばれたので、そっちに行ってきますね。梵天丸さんはその後に……」


「うむ、行って参れ。まだ少し時間はあるのでな」


「失礼します」



 そう一言断ってカグラ様の部屋を後にした私は、妖界の鍵代わりのカルラの『座標転移テレポート』によって、一気に【アーレス】へと戻る。


 一人残ったカグラは、窓から覗く月に目をやり、眉を潜めて嫌悪の表情を浮かべた。



「この月の光も嫌気が差すのう……あの子は我らを照らす光となり得るのか……のう、アーサー・ペンドラゴンよ」



        ♢♢♢♢



「お待たせ」


「お帰り、カローナちゃん。遅かったね?」


「この店の場所が分かりにくすぎるのよ。迷ってかなりの時間彷徨うことになったわ」



 私はテーブルについてようやく休憩することができ、出された紅茶で一息ついた。



「カローナ、『ヴィクトリアン』シリーズの使い心地はどうだ?」


「かなり良いわよ、これ。火力も機動力も格段に良くなったってのもあるけど、バフの効果が強すぎてもう」


「それは何より。カローナの配信のお蔭で俺の方にも早速依頼が来てるからな。願ったり叶ったりだ」


「私もまたヘルメスさんに装備の制作お願いしていいかしら?」


「いい。と言うか、既に取り掛かっている。素材をくれればいくらでもつくるぞ」


「ありがとう! やっぱヘルメスさんしか勝たん」


「それより二人にこれを見て欲しい。カナちゃんと【霧隠れの霊廟】に行った特に撮ったスクショだ。化け物に叩き潰される直前だったから、そんなに数は無いんだけど……」



 そう前置きをして、Mr.Qは10枚ほどの写真をウィンドゥに表示した。それらの写真を私とヘルメスは眺め、そこに移っている物の正体に徐々に気付き始め……あまりの場違い・・さに絶句した。



「あり得ないでしょ! なんでこの世界にヘリコプター・・・・・・がある訳!?」

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