クラン結成!
「あり得ないでしょ! なんでこの世界に
「同感だ。どう考えてもオーパーツだろ」
Mr.Qが表示した写真はどれも霧が濃いため、白くぼやけて見辛い。しかし、10枚ある写真を頭の中でつなぎ合わせると、そのシルエットは現実にあるヘリコプターとしか思えない。
それも軍隊で見るような、物資輸送用の大型のものだ。
『アネックス・ファンタジア』は、所謂『剣と魔法のファンタジー世界』だ。モンスターが出現し、様々なアビリティや武器を駆使してそれらと戦う、まさに王道のファンタジーゲームである。
そんな世界観の中に突如として現れた、現実にもある文明的な機械。
誰がどう見ても違和感しかないだろう。
しかもヘリコプターをよく見れば、その外壁には日本やアメリカ、その他多くの国の国旗が描かれており、その光景がより現実的な側面を醸し出している。
「やっぱりそういう反応になるよなぁ。正直な話、どう思う?」
「……かなりボロボロなところを見ると昔のものではあるんだけど……塗装が完全に剥げてる訳じゃないから、せいぜい数十年前のものってところかしら」
「こんな形のヘリは現実には存在していないはず。この大きさを飛ばすには相当なエネルギーが必要だと思うが……」
「そこはほら、ゲームの中だから」
「でもさ、神ゲーと名高い『アネックス・ファンタジア』が、そんなご都合主義みたいなことするかしら?」
「ご都合主義じゃなくて、プレイヤーみたいにMPか何かを使って飛ばしてるんじゃないかってことだろ」
「あぁ、未知のエネルギー源があるってことだね」
「でもそれだと……今私達がいる『アネックス・ファンタジア』には、以前にかなり高度な文明があったってことになるわよ?」
「それが正しいんじゃないか? それより、ヘリに描かれている国旗が問題だろ。日本、アメリカ、ロシア、中国、ドイツ……どれも
「ということは……?」
「『アネックス・ファンタジア』の舞台は、現実世界の未来を描いたもの……じゃないか?」
「惜しいね、いい線行ってるよ」
「「「っ!?」」」
突如として聞こえた声に、私達三人……いや、私とMr.Qはキョロキョロと辺りを見渡す。周囲には誰も居らず、まさしく閑古鳥……。
その中でヘルメスだけが落ち着いていて……彼が
ヘルメスが両手のひらを上に向けると、その手の中にフラスコのようなガラス器具が現れる。
そしてフラスコの中に真っ黒の霧のようなものが現れたと思ったら、それは球体を形作り一つの眼球になった。
「うわっ、気持ち悪っ」
「こいつは『ホムンクルス』……さっきいきなり喋りだしたのもこいつだ」
ホムンクルス……造られた人間、ねぇ。
「おいホムンクルス、お前何か知っているな?」
「もちろん。私は創始の賢者。世界の真理に最も近い者でもある」
「ほう、ならそんな傑物のホムンクルスに、写真のヘリの正体を聞きたいものだ」
「それを話せるほどに、私は君達を信頼していない」
「こいつ……フラスコ叩き割るぞ?」
「良いのかね? 君のクエストはそこで終了となるが」
「くっ……」
「しかし、世界の行く末を左右するプライマルクエストの進行者がこうして集まると壮観だな……『百鬼夜行』———八百万の
「なんだ? 随分詩的だな、ホムンクルス」
「古くからある言い伝えさ。もちろん、君やMr.Qのも伝わっている。『ラウンドナイツ』———円卓に集いし運命の
「『ミクロコスモス』———真理を望む創始の賢者は、この大いなる世界の扉を開く」
「ミクロコスモス、ラウンドナイツ、百鬼夜行……なるほど、三つとも今発見されているプライマルクエストって訳だ」
「いや、今動き出しているプライマルクエストはもう一つある」
「「「っ!?」」」
「『
「おいホムンクルス、俺ら以外にプライマルクエストを発見したやつがいるってことか?」
「あぁそうだ。どこの誰かは知らないがね」
「
「どうするったって、別にどうもしないよ?」
「えっ、プライマルクエストを確保してるアドが無くなるから怒り狂ってるのかと思ったけど」
「僕を何だと思ってるのかな? 別の人が『ラウンドナイツ』を開始したってなったら焦るけど、『クローザーフォレスト』は全く別物だからね。それぞれで楽しんでくれればいいと思うよ」
「私はちょっと気にするけどなぁ……」
「気にするべきはそこじゃないだろ。……ホムンクルス、この世界は一体何なんだ?」
「……さぁ。知っていても教えてやれないな」
「おい……」
「だが、ヒントは教えてやろう。【霧隠れの霊廟】、あそこに眠る奴らを起こさない限りは何も進まないさ」
「眠る奴らを起こす、か……」
「……なぁ、お前は何でそんなことを知っているんだ?」
「それはそのうちに分かることだ」
全てを知っているかのように語るホムンクルス。そんな彼の言葉に、Mr.Qとカローナは思考を巡らせる。
眠る奴らを起こす……?
【霧隠れの霊廟】には勇者ですら一撃で殺す化け物が居るけど、そいつを倒すのが目的ではない?
となると考えられるのは……
「プレイヤーが霊廟に眠る何かと接触しないように、その化け物が守っている、か……」
「そう考えるのが妥当よね。問題は、『眠る奴ら』が敵か味方か……」
「霊廟の化け物が敵であり、『眠る奴ら』を起こすことで化け物に対抗できる……というストーリーが一つ」
「もう一つは、『眠る奴ら』が敵であり、起こしてしまうと人々が危ないからは霊廟の化け物が人払いをしているパターン、かな」
「それにしては霊廟の化け物の一撃に容赦が無さすぎたから、霊廟の化け物が敵のパターンを推すけどね」
「どちらにせよ、霊廟を捜索して『眠る奴ら』を見つけるのが、このクエストの目的なのね。それが分かっただけでかなりの進歩よ」
「だね……はぁ、抱えている情報が多すぎて何が何だか分からなくなってきたよ」
「いっそのこと、考察は別のクランに、例えば『アーカイブ』かどこかにやってもらってもいいんじゃないか?」
突然のヘルメスさんの発言に、私達の注目が集まる。
「というと?」
「プライマルクエストは、
『アネックス・ファンタジア』にも、クランという概念は存在する。目的を同じにする複数のプレイヤーの集まりだ。クランを結成することで、モンスターの討伐やイベントなどで色々と利点があるらしい。
「なるほど、悪くないね。俺らでクランを結成すればお互いに協力もしやすいだろうし、情報漏洩も防ぎやすい。何より、『アーカイブ』には美味しい情報を、僕達には『アーカイブ』の考察による攻略を。まさにWin―Winの関係だ」
「そういうことなら……私も異論はないわよ」
「決定だな。じゃ、クランリーダーはMr.Qに任せる」
「はぁっ!? 何で!?」
「だってあんたプロゲーマーでしょ? しかも日本一の。そんなのが『どこの誰とも分からないプレイヤーのクランに入った』ってより、『新しくクランを建てた』の方が受け入れ安いでしょ」
「ついでにトップクランの連中にも顔が効くから、交渉がやりやすくなるだろ」
「う、確かに……わーかったよ! やればいいんだろ! やればっ!」
「流石は日本を代表するプロゲーマー。自ら矢面に立とうとするその心意気に感激するわ」
「棒読みすぎて心にも無いってことが良く分かるな」
Mr.Qは呆れた表情をしながら、何やらウィンドゥを操作する。すると、10秒としないうちに、私に通知が届いた。
『フレンドのMr.Qがあなたをクラン【未設定】に招待しています。承認しますか? Yes/No』
「準備が良いのね。もしかして予め用意してた?」
「まぁそんなところだね。元からカローナちゃんを誘おうと思ってたから」
まったくこの男は……。
まぁ私もクラン結成には賛成だから、今更断ることは無いんだけど。Yesっと……。
『クラン【未設定】に加入しました!』
『クラン【未設定】に ヘルメス が加入しました!』
「とりあえずクラン結成完了だね。じゃあ早速、クランとしての最初の仕事があるんだけど……クラン名どうする?」
「え? あー、確かに。【未設定】のままじゃダメだもんね」
「【あああああ】とか適当でいいだろ」
「ヘルメスお前……本当にこういうの興味無いのな。折角三人ともプライマルクエストを発生できてるんだから、それにちなんだ名前を……」
「じゃあ……チーム【サティスファk」
「それはやめようか!?」
「文句ばっかりねぇ……」
「君らがちゃんと考えないからだろ!?」
んー、じゃあ……
「ローマ神話から取って、『調停の神々』を意味する【ディー・コンセンテス】で」
「『調停の神々』……良いんじゃないか?」
「ローマ神話とかしっかり調べてるあたり、カローナちゃんって意外と……」
うるせぇ。
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あとがき
百鬼夜行のカグラ、ラウンドナイツのアーサーに当たるのが、ミクロコスモスのホムンクルスです。
ただし、この二人よりもかなり重要な人物になります。
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