霊廟に潜む、歪なる獣

「ふっ……!」



 タイミングを合わせて身体を捻り、『霊廟の化け物』を衝突を回避する。はっきり言ってギリギリだが、回避に成功したことで【アクセル・ステップ】と【スカッフル】の効果によってAGIとSTRにバフをかける。



「カローナちゃん生きてる!?」


「回避したっ! けど何度もできるものじゃないわ!」


「危なそうなら僕にヘイト擦り付けてくれれば対応する!」


「オッケー! 進む方向は?」


「化け物が来た方!」


「分かった! 私についてきて!」



 鈴の音を鳴らしてMr.Qへ位置を教え、『化け物』が来たと思われる方向にダッシュを開始する。


 正直言うと『化け物』から離れたいところだけど……『化け物』が人を寄せ付けないようにしているところから察すると、『化け物』が来た方向こそ探すべき何かがある方向のはずだ。


 お互いにそう考えていたから、もめることも無く方向が決まったわけで……



「っ! 横薙ぎの攻撃!」


「えっ……っ!」



 私が叫んでジャンプをした直後、その真下をさっき回避した『化け物』が通過した。


 いかん、ギリギリすぎる。Mr.Qクウは避けられたかな……っ!?



「ちょっ!? もう一発3時の方向!」


「はぁ!? 待っ、まだ空中なんだが!?」


 アビリティ【アヴィス・アラーネア】、【スイープスライド】!



「ぅおっ」



 急に後ろから引っ張られバランスを崩すが、Mr.Qクウに抱き止められた。直後、剣によるパリィの音と共に私の頭の真上を『化け物』が通過する。


 あっ、【操糸術】で守ろうとしてくれたのね。……男みたいな声出しちゃって恥ずかしい……。


 というか、今さっき回避したばかりなのに、同じ方向から攻撃できるわけがない!



「次! 上!」


「わっ!」



 今度は私がMr.Qクウを引っ張り、真上から迫った『化け物』を回避する。


 攻撃が激しくなって……ヤバっ、バフが切れ———



「「っ!!」」



 左から迫った『化け物』の攻撃に、私とMr.Qクウは為すすべなく弾き飛ばされる。軽く数mの距離を飛ばされ、岩のような硬いものに激突する。


 Mr.Qクウが盾になってくれたことと、威力が二人に分散したことで、紙装甲の私もHPをミリ残しで耐えている。けど、ダメージがでかくてまともに動けない状態だ。


 やばいけど、とりあえず反響定位を……


 咄嗟に鳴らした鈴の音が周囲の拡がり……反射して私の耳に最悪の状況を伝えた。



「全方向を囲まれてる……」



 上下左右、そして前後……10以上の『化け物』が私達を囲んでおり、どの方向に進んでも避けることは叶わないだろう。


 あー、これは死んだかな。



「これは諦めかしら……」


「…………」


Mr.Qクウ?」


「カローナちゃん、後ろをスクショ……」


「え、スクショ?」



 ——その直後、四方八方から『化け物』に叩き潰され、私とMr.Qクウの意識は暗転した。



        ♢♢♢♢



「あー、くそっ!」



 『アネックス・ファンタジア』内の秘匿された場所に、一人の男の声が響いた。


 声の主はMr.Qである。


 『霊廟の化け物』にキルされたMr.Qは、プライマルクエスト『ラウンドナイツ』において、円卓を統べるNPCから与えられた一室にリスポーンしたのだ。



「君が死に戻り・・・・をするなんて珍しいね」



 不意に聞こえた声に視線を向けると、鎧に身を包んだ一人の男の姿があった。



「強さには自信あるけど、あれには流石に手が出せなかったよ」


「【霧隠れの霊廟】か……確かにあれは化け物だね」


アーサー・・・・でも化け物と言う程なのか……」


「あれは僕らでも相手にするのは難しいからね。その代わり君達プレイヤーには、奴を超えられる可能性がある」


「プレイヤーには、か……」


「もちろんそれだけじゃ足りないよ。……君は、僕達英霊・・の力を手に入れる気はあるかい?」


「英霊の力? 何を言って———」



『プライマルクエスト: ラウンドナイツ、彼岸の際にて再臨を願う のストーリーが更新!』


『後編: 引き抜かれし刃は大いなる叙事詩 が開始されます』



        ♢♢♢♢



 ふと目を覚ますと、見慣れた和室の天井であった。ここは『アネックス・ファンタジア』内において、妖怪達が住む鬼幻城の一室である。


 私はここをリスポーン地点として活動しているため、ログインする度に見ることになるこの天井は見慣れたものであった。


 でも……



「あー、初めての死に戻りかぁ。四方八方から叩き潰される感覚……現実ではないけど嫌なものね……」



 全年齢対象のゲームであるため無駄にリアルな痛みなどはないが、ダメージによって意思通りに身体が動かなくなると言うのは言葉にし難い恐怖があるものだ。


 しかも、濃い霧で周囲が全く見えない状況だと尚更だ。



 それに収穫無しだしなぁ……とりあえずカグラ様に話してみるか……。












「あっはっはっはっ、お主随分可愛くなったのう!」


「っ~~~~!」



 報告を、と思ってカグラの元に顔を出した私は、今まさに『ヴィクトリアン』シリーズに身を包んだ姿をからかわれているところだ。


 確かに周りの妖怪達はみんな和服だから浮くんじゃないかと思ったけど!



「いやいや、誉めておるのじゃ……ブフッ」


「絶対バカにしてるでしょそれ!」


「ふぅ、なかなか良いものを見せてもらったわ」


「これはあくまでヘルメスさんのオリジナル装備の性能確認な訳でぇ」


「何でも良い良い。ところで、【霧隠れの霊廟】に行ったそうじゃな?」


「良くないんだけど……まぁそうね。すぐ殺されたけど」


「じゃろうなぁ……あそこに潜むは、ここらのあやかしよりよっぽど化け物じゃ」


「カグラ様、何か知っています?」


「もう二度と、空を拝めぬものと思うておったが……今一度、空を駆ける星となるやも知れぬな」


「カグラ様……?」


「お主、妾の弟子になる気はないか?」


「弟子? それってどういう……」



『プライマルクエスト: 百鬼夜行、彼岸の際にて再臨を願う のストーリーが更新!』


『後編: 万の鬼が行く逢魔ヶ時 が開始されます』



─────────────────────

あとがき


アーサーとカグラの台詞、何か違和感を持ちませんか?

良く読んでみてください。

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