霊廟に潜む、歪なる獣
「ふっ……!」
タイミングを合わせて身体を捻り、『霊廟の化け物』を衝突を回避する。はっきり言ってギリギリだが、回避に成功したことで【アクセル・ステップ】と【スカッフル】の効果によってAGIとSTRにバフをかける。
「カローナちゃん生きてる!?」
「回避したっ! けど何度もできるものじゃないわ!」
「危なそうなら僕にヘイト擦り付けてくれれば対応する!」
「オッケー! 進む方向は?」
「化け物が来た方!」
「分かった! 私についてきて!」
鈴の音を鳴らしてMr.Qへ位置を教え、『化け物』が来たと思われる方向にダッシュを開始する。
正直言うと『化け物』から離れたいところだけど……『化け物』が人を寄せ付けないようにしているところから察すると、『化け物』が来た方向こそ探すべき何かがある方向のはずだ。
お互いにそう考えていたから、もめることも無く方向が決まったわけで……
「っ! 横薙ぎの攻撃!」
「えっ……っ!」
私が叫んでジャンプをした直後、その真下をさっき回避した『化け物』が通過した。
いかん、ギリギリすぎる。
「ちょっ!? もう一発3時の方向!」
「はぁ!? 待っ、まだ空中なんだが!?」
アビリティ【アヴィス・アラーネア】、【スイープスライド】!
「ぅおっ」
急に後ろから引っ張られバランスを崩すが、
あっ、【操糸術】で守ろうとしてくれたのね。……男みたいな声出しちゃって恥ずかしい……。
というか、今さっき回避したばかりなのに、同じ方向から攻撃できるわけがない!
「次! 上!」
「わっ!」
今度は私が
攻撃が激しくなって……ヤバっ、バフが切れ———
「「っ!!」」
左から迫った『化け物』の攻撃に、私と
やばいけど、とりあえず反響定位を……
咄嗟に鳴らした鈴の音が周囲の拡がり……反射して私の耳に最悪の状況を伝えた。
「全方向を囲まれてる……」
上下左右、そして前後……10以上の『化け物』が私達を囲んでおり、どの方向に進んでも避けることは叶わないだろう。
あー、これは死んだかな。
「これは諦めかしら……」
「…………」
「
「カローナちゃん、後ろをスクショ……」
「え、スクショ?」
——その直後、四方八方から『化け物』に叩き潰され、私と
♢♢♢♢
「あー、くそっ!」
『アネックス・ファンタジア』内の秘匿された場所に、一人の男の声が響いた。
声の主はMr.Qである。
『霊廟の化け物』にキルされたMr.Qは、プライマルクエスト『ラウンドナイツ』において、円卓を統べるNPCから与えられた一室にリスポーンしたのだ。
「君が
不意に聞こえた声に視線を向けると、鎧に身を包んだ一人の男の姿があった。
「強さには自信あるけど、あれには流石に手が出せなかったよ」
「【霧隠れの霊廟】か……確かにあれは化け物だね」
「
「あれは僕らでも相手にするのは難しいからね。その代わり君達プレイヤーには、奴を超えられる可能性がある」
「プレイヤーには、か……」
「もちろんそれだけじゃ足りないよ。……君は、僕達
「英霊の力? 何を言って———」
『プライマルクエスト: ラウンドナイツ、彼岸の際にて再臨を願う のストーリーが更新!』
『後編: 引き抜かれし刃は大いなる叙事詩 が開始されます』
♢♢♢♢
ふと目を覚ますと、見慣れた和室の天井であった。ここは『アネックス・ファンタジア』内において、妖怪達が住む鬼幻城の一室である。
私はここをリスポーン地点として活動しているため、ログインする度に見ることになるこの天井は見慣れたものであった。
でも……
「あー、初めての死に戻りかぁ。四方八方から叩き潰される感覚……現実ではないけど嫌なものね……」
全年齢対象のゲームであるため無駄にリアルな痛みなどはないが、ダメージによって意思通りに身体が動かなくなると言うのは言葉にし難い恐怖があるものだ。
しかも、濃い霧で周囲が全く見えない状況だと尚更だ。
それに収穫無しだしなぁ……とりあえずカグラ様に話してみるか……。
「あっはっはっはっ、お主随分可愛くなったのう!」
「っ~~~~!」
報告を、と思ってカグラの元に顔を出した私は、今まさに『ヴィクトリアン』シリーズに身を包んだ姿をからかわれているところだ。
確かに周りの妖怪達はみんな和服だから浮くんじゃないかと思ったけど!
「いやいや、誉めておるのじゃ……ブフッ」
「絶対バカにしてるでしょそれ!」
「ふぅ、なかなか良いものを見せてもらったわ」
「これはあくまでヘルメスさんのオリジナル装備の性能確認な訳でぇ」
「何でも良い良い。ところで、【霧隠れの霊廟】に行ったそうじゃな?」
「良くないんだけど……まぁそうね。すぐ殺されたけど」
「じゃろうなぁ……あそこに潜む
「カグラ様、何か知っています?」
「もう二度と、空を拝めぬものと思うておったが……今一度、空を駆ける星となるやも知れぬな」
「カグラ様……?」
「お主、妾の弟子になる気はないか?」
「弟子? それってどういう……」
『プライマルクエスト: 百鬼夜行、彼岸の際にて再臨を願う のストーリーが更新!』
『後編: 万の鬼が行く逢魔ヶ時 が開始されます』
─────────────────────
あとがき
アーサーとカグラの台詞、何か違和感を持ちませんか?
良く読んでみてください。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます