霧隠れの霊廟
【霧隠れの霊廟】
いつからか、大いなる
何百という冒険者がこの霊廟に隠された何かを解明しようと挑み、原因不明の何かに阻まれてきた。いつしか【霧隠れの霊廟】は『呪いの山』とも呼ばれ、不吉の象徴として畏れられてきた歴史を持つ。
「霧隠れってどんなものかと思っていたけど……マジでなんにも見えないじゃない……」
「そうなんだよね……僕が手も足も出ないといった理由、分かるかい?」
ゴッドセレスさん達と別れて1時間程。
合流したMr.Qに連れられて、私はついに【霧隠れの霊廟】に来たのだけど……霧が深いとかそんなレベルじゃない。まるで牛乳の中を覗いているような、塗りつぶされた白だ。
ここに来ているのは、私とMr.Qの二人だけだ。ヘルメスも入れて『ヴィクトリアン』シリーズのカテゴリースキルでステータス爆上がりかと思っていたら、ヘルメス曰く『俺は戦闘能力は皆無だから二人だけで行ってくれ』とのことらしい。
なんかもう既に嫌になってきたなぁ。
ただでさえPKとの大立ち回り(見てただけ)をしてきたところなのに、そのまま連続で高難易度クエストに挑むなんて、途中で集中力が切れそうだ。
「と言うか、私救援出したのに何で来なかったの?」
「それはマジでごめん! リアルの方でちょっと大きな話が舞い込んできてね、ログインできてなかったんだよ」
「別に怒ってないけど、リアルの事情じゃ仕方ないしね」
「お詫びと言っては何だけど……WGPのチケット、要る?」
「WGPって、あの?」
「あぁ、大きな話ってのがWGPに関してのことでね。ありがたいことにアネファンのブースのあれこれをやってくれってオファーが来てね、そのせいでログインが遅れた訳だけど……」
WGP———
近年のVRゲームの進化に応じてWGPの人気は高まっており、今年に関してはVRゲーム界に彗星のように現れた『アネックス・ファンタジア』の快進撃によって、今までにないほどの関心を集めている一大フェスだ。
まだチケット抽選は始まっていないけど、とんでもない倍率になるのは明らかである。そんなWGPのチケットをくれるって?
「マジで? いいの?」
「まぁ貰っても他に誘う人もいないからね」
「あっ……」(察し)
「友達がいない訳じゃないからね?」
「くれるっていうなら本当にありがたいわ」
「今日の救援のお詫びと、これから【霧隠れの霊廟】の攻略に協力してもらうお礼ってことで」
「私に任せて! 完璧に攻略してみせるわ!」
「現金な奴め……やる気出してもらってるとこ悪いけど、これ攻略の目途立つかい?」
「ううん、全然見当もつかないわ」
「正直でよろしい。俺がソロで行ったときは、ある程度進むまでは何も無かったんだ」
「あら、そうなの?」
「【霧隠れの霊廟】は、霧に包まれた部分の目算で、大体1000m近い高さがある。手探りだったがおよそ半分までは、特に何も無かった。地面は砂利道って感じで、所々に木のような、柱のような何かが立っている程度だ」
「あんたすごいわね……なんで一寸先も見えない場所に一人で飛び込んで手探りで進めるのよ」
「ゲームの中だしね。ホラーゲームの一部みたいなものだと思えば……」
「いや、無理なんだけど?」
「……まぁ、今回は二人だしホラーゲームよりマイルドさ。問題は半分を超えた後だったんだけど……そこから急にモンスターの気配が現れ始めた。正体は不明だったけどね。で、残り4分の1の辺りに来たところでキルされた」
「キルされたって……そんなあっさり」
「僕でもあっさりだったんだよ。横から来た何かに弾き飛ばされてHPが全損した。受けた感じは……敵は50cmぐらいの太さの触手のような形で、表面はプラスチックのようなとげとげしい鱗に覆われていて……イメージ的にはでかいヘビかな? 霧が濃くて全貌は見えていないから何とも言えないけど」
「それを聞くと絶望しか無いんだけど……」
「とりあえず、出来る限りの調査はしたいんだ。カナちゃんなら目が使えなくても
「できないことはないけど……」
私はモップの先に取り付けた、カグラ様から貰った鈴を鳴らす。すると、鈴から発せられた澄んだ音は、【霧隠れの霊廟】を駆け抜けた。
私は目を閉じて、その澄んだ音に耳を傾ける———別に、何かの儀式という訳ではない。
『
音の反射を聞き分けて、その反射の仕方によって周囲の様子を把握する
……ゲーム内のスキルではなく、
「とりあえず鈴を鳴らしながら進むから、ちゃんとついてきてね」
「オッケー、頼りにしてるよ」
♢♢♢♢
「んん~~?」
「どうかした?」
「いや、何か変なものが……」
鈴の音を利用した反響定位で探索しながら進んでいくと、柱のような物が一定間隔で立ち並んでいるのが分かった。流石に材質が何かまでは分からないけど、触った感じは……
「石の柱かな、これは」
「柱か……多分僕が『霊廟の化け物』にやられたのもこの柱の近くだったかな」
「じゃあここを超えたら『霊廟の化け物』が襲ってくるわけね」
『霊廟の化け物』というのは、Mr.Qが襲われて負けたという謎の魔物のことだ。名前どころか見た目も正体も分からないからこう呼ぶことにしたのだ。
「とりあえずここを超えなければ襲われないのね?」
「経験上はね。まともに探索できてないから何とも言えないけど」
「まぁそこは何とかね」
一定間隔で並んだ石柱に沿って歩を進める。
間隔は10mぐらい? 四本ぐらいが左右に並んでいて……あれ? 屋根がある?
この石の柱は、屋根らしい何かを支える柱のようだ。
屋根らしいものは、下から見る限りは平面になっている……と思う。
そうMr.Qに伝える。
「調査したいけど、踏み入ったら襲ってくるのよねぇ……」
「……行くか」
「マジ?」
「足踏みしてても進まないからね。例えキルされたとしても、一つでも情報を得て次のアタックに備えればいいさ」
「……分かったわ」
ふぅっと一つ息を吐き、石の柱を超えて向こう側に一歩踏み出す。
「っ……!」
ゾワッと背中に悪寒が走る。遠くに何かが這いずり回るような音が聞こえ、それが徐々に近づいてくるようだ。
「
「OK、ここからは短期決戦でいこう!」
Mr.Qがいくつものバフアビリティを使うのを、放たれるエフェクトで把握しながら、私も【アクセルステップ】と【スカッフル】を併用。『ヴィクトリアン』シリーズのカテゴリースキルによって、AGIアップの効果量は凄まじいものだ。
お互いに強化を完了した直後、『霊廟の化け物』が寸前に迫った。
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