見た目と性能を兼ね備えたメイド服こそ至高の装備

 私、可愛すぎ……?


 いやごめん、自分で自分のことを可愛いなんて言うなって話だよね。

 でもこれってゲームの中な訳で、自分だけど自分じゃないというか……アバターだから別人な訳よ。


 めっちゃ可愛いわけよ。


 クラスの子が『メイド喫茶でバイトしたい』って言うのも、今なら分かる気がする。



 まぁ、この姿で街中歩くのはさすがに気が引けるけど……この装備を使いたくなる理由がもう一つ。装備の詳細を見れば分かるだろう。



 『ヴィクトリアン・サーヴァンツDEX5』(胴)

 装備時効果:VIT+200、DEX+150

 【カテゴリースキル『ヴィクトリアン』】

 『ヴィクトリアン』シリーズの装備が3部位以上装備されおり、パーティメンバーに自分よりレベルが高いプレイヤーが存在する場合、自分及びそのプレイヤーへの強化効果バフに補正(5%×装備している『ヴィクトリアン』シリーズの数×該当プレイヤー数、重複不可)


 【エンチャントスキル『ハートブランク・クイーン』】

 自分が強化アビリティを使用する度にパーティ全体のHPを徐々に回復。



 『ヴィクトリアン・ホワイトプリムDEX5』(頭)

 装備時効果:VIT+30、DEX+150

 【エンチャントスキル『スペードブランク・10テン』】

 魔法系攻撃の威力を上昇。



 『ヴィクトリアン・オペラグローブSTR5』(腕)

 装備時効果:MDF+30、STR+150

 【エンチャントスキル『クラブブランク・エース』】

 武器攻撃を含む物理系攻撃の威力を大きく上昇。



 『ヴィクトリアン・ガーターベルトAGI5』(腰)

 装備時効果:STR+30、AGI+150

 【エンチャントスキル『ダイヤブランク・ジャック』】

 自分が強化アビリティを使用する度に、パーティ全体のAGIとLUK上昇。



 『ヴィクトリアン・ハイソックスAGI5』(脚)

 装備時効果:STR+30、AGI+150

 【エンチャントスキル『ダイヤブランク・キング』】

 自分が強化アビリティを使用する度に、パーティ全体のAGIとLUKを大きく上昇。


 【シークレットエンチャント『ストレート』】

 10《テン》、ジャック、クイーン、キング、エースが揃っている場合に発動。自分及びパーティ全体のアビリティリキャストを少し短縮。



 このメイド服、強すぎん?

 五段階強化と言うだけあって装備時効果の量がとんでもなく、装備しただけで私のステータスが倍増どころじゃない。


 しかもSTRとAGIは言わずもがな、DEX上昇は、副業『ダンサー』のステップ系アビリティを使ったときのハンドリング・・・・・・に影響するため、高ければ高いほど助かる。



 その上エンチャントスキルで基礎火力にバフがかかり、極めつけはカテゴリースキル『ヴィクトリアン』だ。



 メイドらしく他のプレイヤーに強化アビリティで奉仕するというコンセプトのようだが……ヘルメスさんもパーティに加わるとしたら、基礎5%×5部位×ヘルメスさんとMr.Qの2人で……バフの効果量が50%アップ。



 ヤッベぇぞこれ。


 とりあえずこの装備を暫定のガチ装備・・・・としておいて、あとは武器なんだけど……。その武器を巡って現在揉めに揉めている。



「俺が持っている素材と俺の『名匠』ジョブがあれば、おそらく『ヴィクトリアン・スイーパー』が作れる。扱いだからメインで装備できるし、何よりカテゴリーのシナジーが強い」


「いや、それなら『ダンサー』に焦点を当てて、短剣を装備するべきだろ。ヴィクトリアン装備に異論はないが、基本的にバフを扱うのは『ダンサー』だからな」


「分かっていないな……」


「何?」


「メイドと言えばモップ! ご主人様にぶつかってバケツをひっくり返しちゃうようなドジっ子メイドこそ最強だ!」


「そんなことだろうと思ったぜ、考えが古いんだよ! 今の流行りは『いざというときにスカートの裾からナイフを取り出して敵をサクッと片付ける蕭洒な従者』だろ!」



 モップを持って懸命に働くメイド……可愛い……。

 スッとナイフを取り出して敵を片付けるメイド……カッコいい……。

 どっちも捨てがたいなぁ。


 けどなんか……オタク二人の理想の押し付け合い、見苦しいなぁ。



 結局、私の希望によりモップ……じゃなくては『ヴィクトリアン・スイーパー』を作ってもらうことにした。



「【魔纏】があるから属性系の素材は使わざるを得ないな。『猛る大地の魂』と『吹き荒ぶ暴風の魂』と……」


「ちょっ……名前からしてヤバそうな素材なんだけど……?」


「別に良い。100%趣味みたいなもんだからな。そして、俺は理想のためには妥協を許さない性格だ」


「私オタクをカッコいいと思ったのは初めてだわ」



 そんなわけで武器作成を始めて一時間ほど、完成した武器がこれだ。



 『ヴィクトリアン・スイーパー』(棒)

 説明:一流のメイドたる者、掃除道具さえ一流であるべきだ。その考えのもと作成された至高の逸品。蕭洒なメイドはいつ如何なる時も矜持を忘れず、箒を振るって埃も敵も一掃する。

装備時効果:STR+100

 【武器スキル『ヘヴィ・ウィッチブルーム』】

 この武器を用いて魔法系攻撃を行う場合、重量が上昇する代わりに攻撃範囲が少し広くなる。



 金属みたいな感触の真っ直ぐな棒の先に、もふもふした白い毛の塊が……まんまモップです、はい。


 ヘルメス曰く『急拵えだから付与効果が無いけど許してくれ』だそうだが、一時間足らずで作った武器でSTR+100なら十分でしょ。


 武器スキルは、『魔纏』と組み合わせることで攻撃範囲を広げることができるし、重くはなるけど『ヴィクトリアン・オペラグローブ』のSTR上昇であまりに気にならない範囲だ。


 そしてメイド服とモップの調和マリアージュよ……確かに、これ以外に無いと言えるほどの組み合わせだ。



「一応これで装備はOKかな? とりあえず数日は装備に慣れるとして、三日後ぐらいに【霧隠れの霊廟】に挑もうか」


「その前に一つ、忘れてもらっては困ることがある」



 Mr.Qとヘルメスが、メイド服を着てモップを持った私を一頻ひとしきり褒めちぎった後、一旦お開きにしようとしたMr.Qを制止して、ヘルメスがそう切り出した。


 ヘルメスから発せられる何とも言えないプレッシャーに、若干私も気圧される。



「な、何?」


「装備の宣伝だ。取りあえず最初・・はその『ヴィクトリアン』シリーズを紹介してくれればいい。カローナの影響力なら、俺の名前も売れるだろう?」


「ぇうっ……忘れてた訳じゃないけど……この格好で配信に出るのよね?」


「むしろ人気が出そうだが」


「そうだけどぉ……」



 まぁそういう条件だし、やるからにはしっかり宣伝させてもらうわよ。


 ……時間を空けると逆に恥ずかしくなりそうだから、思い立ったが吉日。

 今夜あたりでやるかぁ。

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