まさかゲーム内でコスプレとは……
「ヘルメスの『ミクロコスモス』も進むかもしれないだろ?」
「バッ! おまっ、言ったらダメだろ!?」
突然のヘルメスさんの大声に、ビクッと肩を跳ねさせる。
しっかり聞いちゃったんだけど、そんなにダメなことだったの?
「残念、もう言っちゃった。まぁでも、カローナちゃんはこっち側に引っ込むつもりだったからいいだろ?」
「……ハァ。本当にお前ってやつは……」
「えっと……その『ミクロコスモス』って?」
「あぁ、ヘルメスが発生しているプライマルクエストだよ」
「えっ、ヘルメスさんも?」
「あぁ、鍛冶系のね。だからヘルメスはプレイヤー内でトップの鍛冶師と言ってもいい」
「へぇ……すごい人なのね……」
「そこで、だ。ヘルメスの力を借りて、『ラウンドナイツ』クリアに向けてカローナちゃん用の装備を揃えようと思ってね」
「っ! それは素直にありがたい」
「せめてもの礼さ、この後が一番大変だからねぇ」
「おい。俺を置いて勝手に話を進めるな」
ヘルメスは黒縁メガネをクイッと上げ、その奥の眼を鋭くしてMr.Qへと視線を向ける。
「頼むよヘルメス。『ラウンドナイツ』を進めるために、最高の装備を……」
「条件がある」
再びメガネをクイッとしたヘルメスは、強い意思を宿した瞳で食い気味に口を開いた。
「まず一つ。『ミクロコスモス』の存在を知った以上、野放しにするわけにはいかない。俺らの陣営に加わって、プライマルクエストの攻略を手伝ってもらう。裏切り行為はMr.Qのツテを総動員して晒し首だ」
「ひぇっ……しないわよそんなこと」
ネットで晒しはダメ、ゼッタイ。
「そして二つ目、カローナは配信者なんだろ? なら、俺が作った装備の宣伝を頼みたい」
「宣伝?」
「あぁ、カローナチャンネルと言えば、登録者は50万を超えている大手だ。しかも、この前のハクヤガミの動画で今もなお伸びている。将来性はかなり期待できるだろう」
「く、詳しいのね……」
「アネファン関係は情報を集めているからな。そんな配信者に宣伝をしてもらえば、俺の製品も売れるという訳だ。ただし、もう一度言うがプライマルクエストについては他言無用だ」
「まぁ、それぐらいなら任せて欲しいわ」
条件と言うか、ある意味案件みたいなものかしら。
まぁトップレベルの鍛冶師のヘルメスさんが装備一式をくれるっていうのなら、それぐらいは頑張らせてもらいますわ。
「そして三つ目、これが最重要となる」
「っ……」
ヘルメスの深刻そうな表情に、思わず息を飲む。一体どんな条件を……。
身構えた私の目の前に、ヘルメスさんは唐突にインベントリから取り出した何かを突きつけた。
よく見るとそれは———白と黒を基調としたメイド服。
「君には俺の努力の結晶……この、ハートブランク・クイーン付与DEX特化五段階強化クラシカル風ミニスカメイド服『ヴィクトリアン・サーヴァンツ』の試着第一号になってもらおう」(早口)
「マジかお前」
「ちょっ、情報の洪水かよ」
情報量多すぎぃ!
「何でメイド服? ハートブランク・クイーン付与って何? DEX特化って何? クラシカル風の癖にヴィクトリアンって? しかも結局どちらでもなくミニスカだし。てか何で、あーもうっ」
ツッコミが追い付かない!
「フッ、愚問だな」
無意味にメガネクイッ!
「メイド服は最強の装備であり、ロマン。以上だ」
「オタク眼鏡だったか。最初に『あ、なんか
「ごめんね、カローナちゃん。俺が彼をアキバに連れ回したばっかりに……」
「お前のせいかぁっ!」
ハァ……ハァ……疲れた……。
ヘルメスの口から溢れ出す9割のロマン語りの中から、たった1割の必要な情報を見極めて纏めると。
『ハートブランク・クイーン』……付与術によって装備に付与された特殊効果のうち、回復に特化したもの。効果量はエース、キングに次ぎ3番目に高い。
『DEX特化』……文字通り、装備するとDEXに補正。五段階強化のためかなりの効果量。
『クラシカル風』……雰囲気。
『ヴィクトリアン』……雰囲気。
『ミニスカメイド服』……ロマン。
まぁつまり、着るだけで様々な効果を発揮してくれる防具? というわけだ。
「もちろんそれだけではない。『ヴィクトリアン・サーヴァンツ』を含め、防具を装備できる頭、腕、胴、腰、脚の五部位全てで『ヴィクトリアン』シリーズが出来上がっている。これを君に提供しよう」
♢♢♢♢
いや、メイド服に興味を示して、ハッキリ断らなかった私も悪いよ?
けどさ、これはあまりにも……
鏡に映ったのは、黒を基調とし白のフリルがついたメイド服を身に纏い、髪をツインテールに結んだ美少女。
肘まで覆い隠す白のオペラグローブと、同じく白のニーハイソックスが清純さを示し、ミニスカートとの調和が織り成す眩しい絶対領域を、ガーターベルトがチラリと覗くことで大人の妖艶さを押し上げる。
……あまりにも、可愛すぎるっ!
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