え、このイケメンが生産職だって?(新キャラ登場)
「つっよ……流石は1位ってところかしら……」
・強すぎぃ
・3人倒すのに1分かかってないんだが?
・んんんんんっ! Mr.Q様ぁ!
『アネックス・ファンタジア』にはランキング機能がある。モンスターとの戦闘やPvPを行うことでBPが加算され、そのポイントの高さを競うランキングだ。
ランキングは1ヶ月ごとにリセットされるため、後続プレイヤーが上位を狙うこともできる。
ランキング情報は誰でも見ることができ、逆に言えばランキングに乗ると全てのプレイヤーに名が知られる事となる。
当然ランキング上位の者は、対モンスターでも対人でもコンスタントに勝利できる猛者であり、生半可な実力では勝負にもならないプレイヤーばかりだ。
さっきから『1位』とか、自意識過剰な自己紹介をしている彼が、現在ランキング1位を走る、プロゲーマー『Mr.Q』こと高峰・
ハーフで、雑誌の表紙を飾るぐらいにはイケメンだが、ゲーマーの道に進んだ悲しい人。
いや、まぁでもゲーマーの道でも成功して、今や世界でもトップレベルのプロゲーマーなんだけどね。
「これぐらいじゃなきゃ1位は目指せないからね。そのお陰でBPが増えて1位を維持できてるって言ってもいいんだけど……」
「まぁ何でもいいけど……とにかく助かったわ。何かお返しが必要かしら?」
「ん? 今何でもって……」
「言ってない。ふざけたこと抜かすならこの話はおしまいよ」
「……ごめん。それで、お礼だったね。一応これでもプロやってるから手助けは必要ない……って言いたいところだけど、今ちょっと詰まっててね」
「詰まってるって、あんたが? 珍しいこともあるのね」
「まぁ色々あってね……カローナちゃんの実力を見込んで、手伝ってもらおうと思って……って!」
突如、Mr.Qのアバターが淡い光を発し、爪先から消え始める。救援機能の制限時間のようだ。
「あぁ、もう! まだあんまり話せてないのに!」
「とりあえず待ち合わせ場所決めましょ?」
「それだ! えっと、今配信中だよね? 聞かれるわけにもいかないし……仕方ない、ちょっとお耳を拝借……場所は【アーレス】の喫茶店『閑古鳥』で」
「ひゃっ!?」
ちょっ、いきなり耳元で囁かないでくれるかしら!? くすぐったくて変な声出ちゃったじゃない!
文句を言おうとしたけど、その前に時間制限でMr.Qのアバターは完全に消えてしまった。 元々居た場所に戻っていったのだろう。
消える直前、ケラケラとからかうような笑顔を残して……うぜぇ。
・悲鳴可愛い……
・めちゃくちゃ強いのに突然乙女なのいいよね……
・ひゃっ
・悲鳴珍しいな
・Mr.Qナイス
・お二人とも仲が良いですのね……
……恥ずかしいから蒸し返さないで……と言うか忘れて……。
♢♢♢♢
配信終了後、消える直前のMr.Qに耳打ちされた待ち合わせ場所、喫茶店『閑古鳥』へと向かった。
というか閑古鳥て。
喫茶店がそんな名前で大丈夫なの? 全然見つからないし……。
表通りに無かったから裏路地だと思うんだけど、迷路みたいで完全に迷ってる。まぁ、重要な話をするなら人に見つからない場所の方がいいのは確かなんだけど……。
そんなこんなで彷徨うこと一時間ほど。『閑古鳥』は見つからなかったけど、Mr.Qに出会うことはできた。
「店が見つからないんだけど……」
「『閑古鳥』は隠れた名店だからねぇ。隠れすぎて誰もたどり着かないのが難点だけどね」
「えぇ……なんでわざわざそんなところを待ち合わせ場所にしたのよ」
「そのあたりに俺の知り合いがいてね。そいつに頼んで装備を揃えようと思って」
「装備を揃えるって……その人は商人か何か?」
「あぁ、装備を揃えるといっても、買い揃える訳じゃないよ。市販のものでまともなものを揃えようとすると、それこそもう五つ六つ先の街まで行かなきゃ揃わないからね。カローナちゃんはまだそこまで行けないだろう?」
「う……まぁそうね」
「俺の知り合いに一人、優秀な鍛冶師がいるんだ。そいつに装備を作ってもらおう。可能な限りの素材は俺が持つよ」
「前々からあんたは良いやつだと思ってたのよ」
「手首にモーターでも入ってんの?」
「手のひら返しが早いってか? いいのよ、別に。期待していいのね?」
「もちろん。まぁ、あってからのお楽しみさ」
Mr.Qの案内で歩くこと数分、一際
「お待たせ。ヘルメス、例の子を連れてきたぞ」
「本当に遅かったな、Mr.Q。で、お前がそこまで言うプレイヤーって……」
お、何かイケメンなプレイヤーが出てきたな。
黒いスーツのような装備で全身を統一しており、黒縁眼鏡が特徴的だ。Mr.Qのアバターが西洋系のイケメンだとしたら、ヘルメスと呼ばれたそのプレイヤーは東洋系イケメンと言うべきか。
あれだ、少女漫画とかで出てくる
中の人もこんなイケメンだったりしないかなぁ。
「……まさか配信者のカローナ?」
「あ、知ってくれてるのね」
「お前……何か別の目的を感じるんだが?」
ヘルメスさんが眼鏡をクイッと上げ、軽蔑の目をMr.Qへと向ける。
「いやいやいや、人気配信者とワンチャンとか考えてないからな!? マジで!」
「……まぁ何でもいい。で、彼女はともかく俺まで呼んだ理由は?」
「カローナちゃんにも手伝ってほしいことがあってね」
「手伝ってほしいこと?」
「……
「!!」
『アネックス・ファンタジア』には様々なクエストが存在し、その希少性によっていくつかの種類に分けられる。
一番普遍的な『ノーマルクエスト』は単純に『クエスト』とも呼ばれ、斡旋ギルドで受けられる討伐や採取などの依頼全般を指す。
『レアクエスト』は、ノーマルのさらに発展形だ。特殊な状況下でのクエストが主となり、NPCに「そなたの実力を見込んで頼みが……」という話があったら大体レアクエストである。
さらに上位である『エクストラクエスト』は、例えばモンスターの大量発生によるスタンピードや自然災害など、めったに起こらない大規模な変動によって発生するクエストだ。このあたりから報酬もかなり良いものとなる。
そして『ユニーククエスト』。
同じクエストは一人につき一度までしか発生できない、難関クエストである。発見されているユニーククエストの種類は未だ20にすら届かず、多くが謎に包まれている。
『一般のプレイヤーが狙える』と言われるのがここまでである。しかし、『アネックス・ファンタジア』にはさらなる上位クエストが存在する。
それが、『プライマルクエスト』と『スペリオルクエスト』だ。
———『プライマルクエスト』———
『ユニーククエスト』の、さらに上位に位置する激レアクエストである『プライマルクエスト』は、未だ1件———Mr.Qが発生した『ラウンド・ナイツ』しか明らかにされておらず、その詳細は何も分かっていない。
そのさらに上位の『スペリオルクエスト』に至っては、運営により存在が明らかされているだけで、数千万のプレイヤーが半年以上探し回っても未だに発見されていない未知のクエストである。
「あれ? 俺がプライマルクエストを進めてるって知らなかった? 雑誌のインタビューとかで名前だけ公開してたけど」
「それは知ってるけど……まさかあんたから手伝ってくれなんて言われると思ってなかったわ」
プライマルクエストはその希少性から、発生できているだけで全プレイヤーにマウントを取れるほどの脅威がある。それを共有しようというのは、自らそのアドバンテージを失うと言っているようなものだ。
ゲーマーの矜持として、それは苦肉の策だろう。
ついでに言うなら、ランキング1位のプロゲーマーが助けを求めるほど難易度が高いクエストというのも驚きだ。
「それ、私が手伝っていいの?」
「俺だって本当は独占したいんだけど……カローナちゃんのお礼って言うなら仕方ないしね」
「本音は?」
「ここで貸しを作っておけば、これを理由にカローナちゃんとのあれこれが……」
「じゃ、この話は無かったということで。さよなら」
「待ってごめん! 今のは冗談だから!」
あんまりバカみたいなことばかり言うから、さっさと切り上げて帰ろうと踵を返したら、かなり慌てた表情で引き留められた。
何? まだなんか言い訳があんの?
「いや、確かにカローナちゃんとお近づきになりたいのはあるけど、それはあくまでゲームの中で、であって……それより君の
「ふーん?」
「場所は【雲隠れの霊廟】……こっちのクエスト関連のNPCの話で、そこにある何かを探すってことは分かってるんだけど」
「だったら一人で行けばいいんじゃないの?」
「行ったさ。で、何の成果もなく死んだ」
「ぇっ、あんたが?」
「そうなんだよね。これでも1位だから強いと自負してたんだけど……1メートル先も見えないほどの濃霧に紛れた何かにタコ殴りにされてあっという間にKOさ。どんな敵かも分かってない」
彼はこう見えてランキング1位なのに、それでもフルボッコとか。端から聞くとクソゲーにしか聞こえないんだけど。
「カローナちゃんも
なるほど、一理ある。クリアできたら私も彼の『プライマルクエスト』にあやかれるわけだし、私には損はないか。
「はぁ……まあいいわ。私も一枚噛ませてもらうわ」
「そう来なくちゃね! これで『ラウンド・ナイツ』が進む可能性が出てきたし、ヘルメスの『ミクロコスモス』も進むかもしれないだろ?」
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