初戦闘! からの周回はゲーマーの性

「えー、という訳で、早速【始まりの草原】に来ております。……このネーミングってどうなの?」


 ・見てます

 ・この人躊躇なくガンガン行くなぁ



「ギャギャッ!」

『 ゴブリン に遭遇!』



 始まりの街【ティエラ】を出てしばらく、背の低い草花の中に岩肌が露出する草原の中で、アナウンスとともにゴブリンがエンカウントした。



「定番だけど……ありきたりと言えばありきたりね……」


 ・ゴブリンと戦闘だなんて、イケナイことになってしまいますわね

 ・↑何想像してるんですかねぇ



 ゴブリンの身長は大体1mぐらい。浅黒い肌に醜悪な見た目、腰に最低限の布を巻いただけの、エロ同人誌御用達のモンスターだ。とはいえ敵は1体、そもそもが低レベルでも戦える設定になっているため、さほど心配することはないだろう。



「視聴者さん達、エロ同人誌みたいなこと期待しても無駄だからね?」


「ギャウッ!」



 ゴブリンが棍棒を振り上げ、血気盛んに飛びかかる。

 が、当然私の方がリーチが長い。



「ふっ……!」



 棍棒を振り上げたゴブリンの開いた脇腹へ【棒術・打】を叩き込み、すぐさま檜の棒を引き寄せ、体勢を崩して勢いを失ったゴブリンの喉に【棒術・突】!



「グギャァァァアッ!」



 クリティカル判定とともに赤色のダメージエフェクトが飛び散る。私の2撃でHPが全損したのか、ゴブリンは断末魔を上げて消滅していった。



「あら、今ので終わり? 思ったより呆気な———」



『 ゴブリン の悲鳴に仲間が駆け付ける』

『 ゴブリン・コマンド に遭遇!』



「ゲッゲッゲッ!」


「うわぁ……」



 現れたのは、杖を持ちマントのような布を羽織った一回り大きいゴブリンと、それに追随する3体のゴブリン。


 3体いる方は、先ほど倒したゴブリンと見た目が同じだから、おそらく通常種だろう。マントを羽織ったゴブリンが、おそらくアナウンスのあった『ゴブリン・コマンド』だ。



「グギャギャッ!」


「「「グギャァッ!」」」



 ゴブリン・コマンドが杖を私に向けて叫ぶと、3体のゴブリンが一斉に飛びかかってくる。“コマンド”の名の通り、ゴブリンを指揮する訳か。


 レベルが1のまま、コマンドも含め4体のゴブリンに囲まれたこの状況。ヤバい。


 ヤバいのだが……



「……くふふっ」



 どうして、こんなにも高揚しているのだろう。

 スリルがあるから?

 経験値が稼げるから?


 ———違う。


 報われて・・・・いるんだ。

 実家の関係で修得してきた武道の数々。

 趣味で身を投じたゲームの数々。

 学校で習ってきた勉強の数々。



 ———私の十余年の人生を捧げて培ってきたそれら全てを、心置き無く発揮できることへの喜び———



「ふっ!」


「ギィッ!」



 檜の棒の中ほどを掴み、前に一歩大きく踏み込みながら地面ギリギリを横薙ぎに一閃。

 一番前に出ていたゴブリンの足首を抉りバランスを崩す。


 そのまま身体を回転させ、左側にいたゴブリンの脇腹に【棒術・払】を叩き込み、残りの一体のゴブリンも巻き込んで振り抜く。


 これで、ゴブリン・コマンドまでの射線が開いた。



「ギャギャッ!」



 盾となる配下ゴブリンがいなくなって焦ったのか、持っている杖に魔力を集めるゴブリン・コマンド。



「そこ、届かないと思った?」



 身体を半回転して檜の棒を引き寄せ、迷わず【棒術・突】を発動!

 【棒術・突】は、打・突・払の中で横方向・・・の攻撃範囲がもっとも小さく、前方・・への攻撃範囲がもっとも長い。


 更に、半ばで握っていた檜の棒を手のひらの上で滑らせ、一気にリーチを伸ばす。ついでに手首を捻って貫通力を増し、ゴブリン・コマンドが握る杖を奴の肩ごと吹き飛ばした。



「グギャッ!」


「「ギャギャゥッ!」」



 おっと、余裕こいてる場合じゃないな。

 背後から聞こえてきたゴブリンの声から位置と距離を確認し、即【アクション・ステップ】を発動。ガバッと前後に開脚して身体を沈め、二体のゴブリンの攻撃を避ける。


 【アクション・ステップ】の効果によってバフを盛り、起き上がりながら【棒術・払】を発動。一端をゴブリンの首へ、もう一端をもう片方のゴブリンの足首へ。バフの効果に加えてクリティカルも重なり、一体のゴブリンを撃破する。


 バランスを崩して倒れかかったゴブリンへ【棒術・打】を叩き込んで二体目を撃破。

 ついでに【棒術・突】で、最初に足首を抉り倒れていたゴブリンを貫いて三体目。


 さて、残りはゴブリン・コマンド一体だよ?



「ギッ……!」



 ゴブリン・コマンドは杖を拾い上げ、私に向けて魔法を放とうとするが……



「遅い」



 まだ【アクション・ステップ】の効果中のため、AIGが上昇しているのだ。この距離であれば、私の攻撃の方が早い……!



「はっ!」


「ギャァァッ!」



 檜の棒の最端ギリギリを握り、【棒術・突】を発動。クリティカル判定と共にゴブリン・コマンドの頭部から赤いエフェクトが飛び散り、そのHPを消し飛ばす。


 パキパキと小気味良い音と共にゴブリン達の身体がポリゴンとなり、ドロップアイテムを残して消え去った。



『レベルアップ! Lv1→3』

『アビリティ 【ワイドスラッシュ】 を習得!』

『アビリティ 【サイレント・ステップ】 を習得!』



「あら、一気に2もレベルアップ? レベルが低いからこんなものなのかな」



 そんなことを呟きながら、ドロップアイテムを拾い上げる。落ちていたのは、ビー玉サイズの小さな石が5個と、小汚いナイフが一つだ。すかさず人差し指と親指で輪っかを作り、その輪っかを覗いて石とナイフを見る。


 ……変人ではない。これはれっきとした『アネックス・ファンタジア』に搭載された機能の一つ、【鑑定】だ。


 レベルやジョブに関係なく、全てのプレイヤーは指の輪っかを通してものを見ることで、敵であれば名前とレベル、アイテムであれば名前と効果を確認することができる。


 『鑑定士』のような特殊なジョブであれば、それ以上の詳しい内容を知ることができるが、よほど未知のアイテムでもなければそこまでの必要は無いだろう。



 『魔石』

 魔力を僅かに内包する結晶。魔力の質と量に応じて透明度が上がる。

 武器の素材に使用することができる。


 『ゴブリン・ナイフ』

 ゴブリンが愛用するナイフ。不浄の血を多く吸ったその刃は切れ味を失い、武器としての価値は低い。



 ナイフの方は使えないな……一応サブ職業ジョブで『ダンサー』を持っているから装備できるけど、刃毀はこぼれと血のりで切れ味が悪そうだし、耐久値がすでに半分以下だ。


 どちらかというと、魔石の方が使えるかな。武器の強化に使えるらしいし、たくさん集める必要があるけど。



「でも、真っ黒なんだよなぁ」



 透かして見ても光を通さない程に濁った魔石は、こちらも価値は低そうだ。


 ま、こういう物は初期から集めておいても損は無いし、レベリングがてらしばらく周回してみますか。

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