ステータスの確認は重要よね!

 ふと意識を取り戻す。


 どうやらベッドの上で起きるところからのスタートらしく、周りを見渡せば、ベッドの他に何もない木造の寂しい部屋だ。窓の外から人々の賑やかな声が聴こえることから、おそらくは通りに面した宿屋のような建物の中の一室だろう。



 始まりの街【ティエラ】。

 『アネックス・ファンタジア』を初めてプレイしたプレイヤーは、必ずこの街のどこかからスタートすることになる。



「見た目も感触も、匂いも全部がゲームの中だとは思えないほどのクオリティね……。流行りの異世界転生と間違えるほどかも」



 あ、そうそう。『アネックス・ファンタジア』を始める際に購入した課金アイテムを早速使わせてもらおう。



 ウィンドゥを操作し、インベントリに入れられたアクセサリー、『次元超える天文鏡』を装着する。


 これはゲーム配信者用のアクセサリーで、これを装着した状態であれば『アネックス・ファンタジア』のオープンフィールド内でも、その様子を関連付けられた自身のチャンネルで配信することができ、そのチャンネルに寄せられたコメントをウィンドゥで確認することも出来る。



「ただこれアクセサリー枠を一つ潰すのが難点なのよねぇ……皆さん聞こえてますかー?」



 ・聞こえてます

 ・アネファン仕様カローナ様も可愛い!

 ・見慣れた姿のカローナ様がアネファンの世界にいるってのが新鮮よね



「あ、ちゃんと自配信出来てたみたいで良かったー……こちらも皆さんのコメント見えてますよ! 早いところ冒険に繰り出したいところだけど、まずは諸々の確認からね」



 頭の中で『ステータスの表示』に意識を傾ける。その瞬間、全くラグもなく自身のステータスが表示された。思考操作の感度も他ゲームとは一線を画しているようだ。


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Name:カローナ

Lv:1

Job:棒術士

Side job:ダンサー

HP(体力):30

MP(魔力):20

STM (スタミナ):20

STR(筋力):50

DEX(器用):10

AGI(敏捷):30

VIT(耐久力):5

INT(知力):10

MDF(魔法防御力):15

LUC(幸運):10

BP(バトルポイント):0

PP(ペナルティポイント):0


アビリティ

【棒術・(打、突、払)】

【アクション・ステップ】


装備

武器:檜の棒

頭:決意の髪飾り

胴:革の鎧レザーアーマー

腕:なし

腰:冒険者の腰鎧

足:冒険者の脚鎧

アクセサリー(1/5)

 ・次元超える天文鏡


所持金:10000G

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BPバトルポイントとPP《ペナルティポイント》? 何これ?」


 『BP《バトルポイント》』

 モンスターの討伐や決闘に勝利すると得られるポイント。今後実装予定のイベントに関わる。



「あー、なるほど。要するに、プレイヤーがどれだけ頑張ってプレイしてるかってことね。今後のイベントに関わるのなら、出来る限り集めておいた方がいいかな。でもこれ、モンスターの討伐だけじゃなくて、対人でもポイントもらえるんだ」



 『アネックス・ファンタジア』にはPvPシステムも整備されており、『決闘』、『フリー戦』、『野戦』に分類される。


 『決闘』は、双方の合意の下、一対一で行われるバトルだ。事前に装備されているアクセサリーや装備は使用許可されるが、回復薬やバフポーション、投げナイフなどのアイテムは一切使用禁止、さらに外部からの補助も全て無効にされる。つまり、正々堂々戦えということだ。


 また、致死ダメージを受けた時、HPを1だけ残して気絶スタンし、戦闘終了となる。その際、決闘終了時にHPや破損した装備なども全て決闘前の状態に戻るルールだ。勝利するとBPが増加し、敗北で減少する。



 『フリー戦』は、決闘のように致死ダメ気絶スタンで決着は変わらないが、アイテムやポーションの使用、一対複数など、ほとんどの制約が解除されたPvPを指す。勝っても負けてもBPの増減は無いため、専らダメージや挙動の確認ようだ。



 で、最後の『野戦』。これは、合意も無しに片方が他のプレイヤーやNPCを襲うことを指す。当然気絶スタンルールも無いため、HPが0になったらキルされ、装備品などを落とすことになる。キルした側はBPの代わりにPPが増加し、ゲームを続けるうえで不利になる。



 『PP《ペナルティポイント》』

 PK《プレイヤーキル》を含む犯罪的な行為を行ったときに増加するポイント。高いほどNPCからの冷遇などの様々なペナルティがある。最悪の場合、アカウント停止措置を行う。



「あーそっか、この辺り自由にしちゃうと快楽PKが増えるもんねぇ。おいこら、私が格ゲー好きだからって、見境なしに野戦を挑む訳ないじゃない。コメント見えてるんだって」



 気を取り直して、ステータスの確認。

 今回私は、メインジョブを『棒術士』、サブジョブを『ダンサー』に決めた。



 『棒術士』

 嘗て、天上の棒術士は言った。

 ただの棒と侮ること無かれ。其は剣であり、盾であり、槍である。

 変幻自在の戦神、未だ道中半。


 『ダンサー』

 緩やかに、時に激しく、律動を刻むステップは、鮮烈なる情熱を秘めて舞い踊る。美しき花に誘われるまま、心酔すること無かれ。その美しき花は棘を隠し持っているのだから。



 『棒術士』は、棒術の基本技である『打』『突』『払』の動きを駆使して、手数で勝負するジョブだ。一種類のアビリティでも、『打』、『突』、『払』のどれで放つかによって効果も変わってきて、さらに魔法によるバフも合わせると取り得る戦略は樹形図のように複雑になる。


 この取り扱いの難しさと、棒という地味な武器のせいで、全ジョブの中で一、ニを争う不人気さらしい。


 その代わり、ハマれば強い。



 そして『ダンサー』は、避けることに重きを置いた、所謂『避けタンク』だ。アビリティ【アクション・ステップ】は、一時的にAGIを上昇させ、回避性能を上げるアビリティである。


 さらにこのアビリティ効果中に相手の攻撃を避けるほどに、STRにバフをかける効果も持っているため、PSプレイヤースキルに自信がある者にはかなり人気のジョブである。


 私もこの2つのジョブを活かすため、初期値200のステータスポイントを、STRとAGI中心に振ってみた。単騎完結型軽戦士ビルドだ。



 実は、ボスモンスターは特に3~5人の複数人で戦うことが推奨されているため、単騎完結型は敬遠されがちなのだが、カナがそれを知るのはまた別の話。


 身の丈ほどの檜の棒をくるくると回しながら運動性能を確認。屈伸、ジャンプ、反復横飛び、宙返り……すごい、現実かと思えるほどの違和感の無さ。



 ……早く試してみたい。

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