ゲーム開始!……の前に。

「ハヤト」


「ん? 何、お姉ちゃん?」



 今日の配信を終えた後、暇そうにしていた弟のハヤト——四条しじょう 隼翔はやとを呼び止める。年齢的には2つ下だけど、誕生日の関係で学年は1つ違うだけの弟だ。


 男なのに私より身長が低いのはアレだけど、私の目から見ても可愛い系の男の子だと思う。私のクラスの女子からも、密かに人気があるんだよねぇ。本人は気付いていないけど。



「『アネックス・ファンタジア』って?」


「ああ!」


「……そういうギャグは良いから」


「今最も有名なVRゲームだよ。名前ぐらいは知ってるんじゃない? お姉ちゃんもやるの?」


「まぁ、たまには格ゲー以外もやってみようかなって」


「珍しいね」


「でも私、基本格ゲー専門だからオープンフィールドのゲームってあんまりやったこと無いのよね。これはどんなゲーム?」


「簡単に言うと、狩猟系アクションゲームかな? プレイヤーは冒険者として世界中を旅しながら、登場するモンスターを討伐して素材を集めて武器を強化するんだ。もちろん、プレイヤーは様々な職業ジョブを設定し、それに合った武器を使う必要はあるけどね。でもやっぱり注目するべきは、その操作性だよ。フルダイブ型だから本人の運動性能がそのまま反映されるんだけど、それが『革命か?』ってくらいの超性能でね! 自分の意識とアバターの挙動のラグが全く無くて、『アネックス・ファンタジア』がでた瞬間、それまでのゲームが全て過去のものになったというか……しかも話によると、ゲーム内で登場するNPCにも高性能のAIが積まれていて、実際の人と会話してるんじゃないかと思えるほどなんだ! 『ゲームの歴史を50年進めた』って言われてるぐらいで、既に多くのプロゲーマーが『アネックス・ファンタジア』に移ってるよ。もう一つ注目なのが、ストーリーかな? と言っても、その全貌は全然分かってないんだけどね。何らかの壮大なストーリーが隠されてることは分かるんだけど、発売から半年、数千万人のプレイヤーがこぞってプレイして、未だに終わりが見えないらしいよ。まさに可能性の塊ってかんじ! もうできることなら『アネックス・ファンタジア』の世界で暮らしたいぐらいの……って、お姉ちゃん聞いてる?」


「聞いてる聞いてる。狩猟系ゲームでしょ?」


「聞いてないよね……まぁ、説明聞くより実際にプレイした方がいいよ。僕も早く始めたいしね」


「そうね。ま、困ったらハヤトに教えてもらうわ」


「何だったら僕の友達の方が詳しいけど……」


「うーん、それはちょっと……」



 バーチャル配信やってるってバレたくないしなぁ。



        ♢♢♢♢



 それから数日、リアフレの伝手を使って『アネックス・ファンタジア』の入手に成功した。いや、まぁこれだけVRゲーム文化が発展した昨今で、品薄になって全然手に入らないってことは少ないんだけどね。それでもこのゲーム、人気すぎて供給がギリギリなんだよ……。


 代わりといってはなんだけど、入手に協力してくれたリアフレに、『アネックス・ファンタジア』内でのフレンド登録を要求された。


 それぐらい別にいいんだけどね。



 えっと、とりあえず『カローナチャンネル』と関連付けて……これでいいかな?


 早速VRヘッドギアを装着して『アネックス・ファンタジア』にログインする。一瞬の意識の暗転の後、真っ白の光に包まれる自分の姿と、日本語を表示するウインドウが現れた。



「皆さんこんにちはー! 予告通り、今日は『アネックス・ファンタジア』の配信やっていきます! ただ、たった今初めてログインしたところなので、拙いところは目を瞑ってもらって」



 あっ、これまだチュートリアル終わってないからか視聴者のコメント見れないや。配信ちゃんとできてるかな……。取りあえずちゃっちゃとやっていきますか。



『初めまして、名も無き我が子・・・よ。これから生まれるあなたに、私からささやかながら贈り物を差し上げましょう』



 どこからか、思わず美しい女性を想像してしまうような声が響く。

 直後、マネキンのような真っ白な人形と、髪型や色などが一覧表となったウィンドウが現れる。


 これでアバター作成をしろということなのだろう。



「とりあえず名前は『カローナ』っと……すごっ、性別とか髪の色とかなら良くあるけど、体格とか目の大きさや鼻の位置とか……腕や脚の長さまで弄れるのね」



 キャラメイクは、さながらイラストを描き上げるかのような自由度だ。確かに、これは隼翔が『革命』と息を荒げるのも頷ける。



「まぁ、見た目はいつも使ってるアバターでいいよね。ちなみに配信で使ってるいつものアバターも、今みたいにフルスクラッチで作っています。意外と手間かかってるんよ」



 しかしまぁ、アバター作成一つとってもとんでもないクオリティね、これ。


 『カローナ』のアバターを作るときは専用のソフトを使って作ったものだけど……そのソフトと同等かそれ以上のクオリティで細かくアバター作成ができてしまう。ただのゲームだと言うにはオーバースペック過ぎるといってもいいだろう。



「あれ? 種族は固定なのね。最近のゲームの割には意外というかなんというか……」



 これだけVR技術が発展した今の時代、ラノベとかでよくある『獣人』とか『エルフ』とか……人間ですらないアバターでプレイできるゲームなどいくらでもある。


 私も伊達に『配信者』を名乗ってないから、そういったゲームもそれなりに分かっているつもりだ。


 昔ちょっとかじったとあるゲームなんて、『吸血鬼』の性能が高すぎてアクティブプレイヤーの九割が『吸血鬼』になった結果、それを是正できずにサ終にまで追い込まれたVRMMOなんてのもある。


 その点で言えば、『人間だけ』というのは少し物足りないけど……まぁ初期設定から差が出るよりはマシかな。



「次は職業ジョブね……うーわ、初期ジョブだけでめっちゃたくさんあるじゃん。『剣士』、『アーチャー』、『修行僧モンク』……へぇ、『曲芸師』なんてのもあるんだ」



 ジョブごとにメインで使える武器は異なると言うから、できる限り扱いやすい武器を使えるジョブにしたいけど……



「薙刀はリアルでも得意だから、それを使える職業が良いんだけど……薙刀って分類的には槍になる? うーん、あとは弓か刀なら何とか……お?」



 百は優に越えてるのではないかと言う職業ジョブリストをスクロールしていくと、とある職業ジョブに目が止まった。



「『棒術士』? こんなのもあるんだ……」



 棒だったら薙刀と扱いは変わらないし、何より他の人と被らなさそう。剣や魔法が使えるのに棒を選ぶ人は少ないでしょ。


 ちなみに、『棒術士』はただ棒を使った打撃で戦うのではなく、魔法によって強化バフを持って殴る職業ジョブのようだ。



「よし、じゃあこれにしてみよう! で、副業サブジョブは……」



 その後、小一時間ほど初期ステータスを弄り続け、納得のいくものができたところでようやく確定。



『ふふ……未来を担うプレイヤー・・・・・の行く先に、幸が多からんことを———』



 神ゲーと呼ばれる『アネックス・ファンタジア』へ、新たな冒険者が足を踏み入れた。


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