第6話 宗明詩乃流看病
「おーい
「いいなぁお兄ちゃん。私にも欲しい」
「
「はーい。お兄ちゃんおめでとう!」
僕は両手いっぱいの花束をもらった。タンポポだったけど嬉しかった。
「お父ちゃんお母ちゃんありがとう」
「ねぇ紅恋わぁ」
「紅恋もありがとうね、お兄ちゃんすっごく嬉しいよ」
僕の愛した家族。裏稼業へ斡旋した両親だけどこの人達の笑顔を見ると胸が熱くなる。でもおかしいな、最近誕生日を祝われたような
「今回の仕事はどうだ、やれそうか?」
「うん、大丈夫だよ。配送車を守るだけだから」
「あらそうなの?憐は車と一緒に走れるようになったのね」
「違うよお母ちゃん、きっと助手席か荷台に乗って、一緒に移動して荷物を下ろすだけだよ」
僕は苦笑い交じりに説明した。そうだ、護送人の仕事だ。
「お兄ちゃんなら大丈夫だよ!海外マフィアをやっつけたんだから」
「不意打ちもいいところだったけどね」
「ちゃんと帰ってきてよね!紅恋を一ヶ月待たせちゃいやだからね」
「大丈夫、分かってる。手斧だろうがピストルだろうが、ナイフを刺されても戻ってくるから」
(そうだ、帰るんだ、刺されたとしても)
僕は家族が笑っているのを最後に意識が遠のいていった。
目の前がプラックアウトし、顔に何かが当たっている感触がした。
(なんか、いい匂いがする)
薄っすらと瞼を開けると視界がぼやけて見えた。おでこに熱いものが当たっている。もやがかかって前が見えない。今までに感じたことのない体調不良が僕を襲っていた。
なぜか右腕に力が入らない。左手でもやを払おうと手を挙げた。その手は驚くほど弱々しく、自分の身体なのかも不透明であった。もやまで手が届いたが、それは物体としてそこにあった。
(柔らかい……なんだこれ)
僕の手に重なるように何かが手の甲を包んでくれた。
「お目覚めになられたのですね」
声が聞こえる、ささやき声だ。とても近くから聞こえる。どこだ?
「ゆっくりお休みになられて大丈夫ですよ。ここは私のお家です。あなたを傷つけるものは誰もいません。私とあなたの二人っきり」
そのかわいらしい声は小鳥のさえずりのように軽やかに響く。そうだ、今は春だ。小鳥がいるんだ。僕は野宿をしたのか。僕は小鳥と会話をすることにした。
「ありがとう、優しい小鳥さん。君は柔らかくて気持ちいいよ」
「あらあら、嬉しい。今度一緒にお散歩しましょう。今はまだ駄目ですよ。あなたの身体、こんなに熱いもの」
(小鳥にしてはよく話す。できた鳥だ)
そんなことを思ったが、僕はふと冷静になった。
(いやおかしくないか、小鳥がしゃべるなんて。女の人の声だし……あれ?)
僕は何度もまばたきをした。次第にもやが消えていく。澄んだ視点の先に女の子の瞳を見た。僕を見ているその子の瞳は、星空を思わせるほどに深く澄んでいた。まるで無限の宇宙がその瞳に宿っているかのようで、見つめる者を魅了し引き込む力があった。
女の子はゆっくりと体を起こした。僕の頭の上に彼女の手があり、さっきまでおでこを合わせていたらしい。片腕と両膝で僕を見下ろす彼女。その右頬には僕の左手が伸びており、彼女はそれを自分の手でつないで離そうとしない。
胸あたりまで伸びた女の子の髪が妖艶に揺れているように見えた。
僕は訳が分からなくなり、なによりこの状況が、僕には初めてのことであった。仕事の初めてとは打って変わって、気持ちが落ち着かない。なぜか顔が熱い。
「あ、あの、小鳥じゃなかったんですね。その、小鳥のさえずりみたいにかわいい声だったので」
女の子もまた顔を赤らめながら、それでいて視線は先ほどより強く、僕の瞳の中へ向けられた。
「小鳥さんが好きなのね。私も好き。家族みんな好き。でもね、小鳥さんは声を聞かせる事しかできないけど、私はあなたに色んなことができるわ」
「色んなって、どんなこと?」
「そうですね~、たとえば」
艶のある声で言葉を区切り、女の子は目をつむった。そのまま僕に顔を近づけた。僕は目を見開き、彼女がしようとしていることに身を任せた。彼女のおでこと僕のおでこがくっつくと、あのささやき声で労わるようにつぶやいた。
「こんなこと」
僕の胸から二つの感触が押し寄せてきた。締め付けては弾むような高鳴り、そして柔らかいもので押し付けられた心地よさ。両者が僕を震え上がらせた。
(誰か、このドキドキを止めてください!)
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