第3話 お祭りかしら
(だまされた……ということはないか。元々分かってたことだ。僕は捨て駒だったんだ。この荷台には依頼主の合法的とは呼べない代物があり、この人達に盗られたんだ。ヤクザなら自分の手駒を使うだろうが、僕に依頼したことを考えるに、恐らく堅気の人なんだろう。大手の名前を出されて気を引かれた僕も悪かったか。これじゃ仮に仕事をしたとしても、報酬を出してくれるか分からなくなってきたぞ。)
荷台まで足音が迫ってきている。
(飛び道具があるのにここまで近づくなんて、素人だな。冷静じゃないんだ)
僕はピストルの業者に思い切って声をかけた。
「業者さん!僕は騙されてここに来ただけなんだ!トラックの護衛と聞いて来ただけなんだ……。
傷つける意志はないし、仕事を邪魔する気もない。僕は狐だ、同じ世界で生きるものとして、無用な争いはしたくないよ!」
「……嘘だ、騙そうとしているな、狐め」
「本心だよ。信じておくれ……」
このトラックは車体が高い。下を覗いて相手の正確な位置を確かめてみようと思った。想定通り大人が潜って進めるだけの幅があり、正確な位置がつかめた。業者は今、コンテナのすぐ後ろにいた。あろうことか、相手もまた僕と同じ行動をとっていた。
銃口が僕に向けられており、横に転がることでしか回避できない。ローリングは可動域が短い。それでも銃弾が致命傷にならなかったのは奇跡に違いない。頭上にずらしていたお面の先端が砕け、背中が焼けるように熱くなった。
僕は飛び上がり、フロント部分にへばりついた。トラックにはボンネットの部分がなく、絶壁になっていた。
(滑るーー!!)
地面に足をつけるわけにはいかない。狙撃される。足を打たれたら確実に嬲り殺される。サイドミラーの根元に手を伸ばし、掴むと同時に鉄棒のさかのぼりの要領で宙へ舞った。そのまま助手席の上へ乗りあげた。はたから見たら猿のような身のこなしであっただろう。
乗り上げた直後、サイドミラーが弾けた。業者が音のなる方へ構わず撃ったのだ。飛散したカラス片が頬をかすめ、赤い筋が顎まで伝う。
(僕も運がいいほうだけど、この人も大概だよな。一発目なんて下手したら軽油タンクに当たってもおかしくないもの)
頬の血をぬぐいながらそんなことを考えると、僕はなんだかおかしくなって笑い始めた。
車体に刺さりっぱなしの手斧に手をかけて蹴り飛ばすと、案外すんなりと抜けた。その物音から業者も僕が獲物を構えているのに気づいたらしい。相手の呼吸が僕の鼓膜を揺らしている。
(やってやる!)
僕は口元に笑みを浮かべていた。荷台のコンテナに乗り上げて言い放った。
「お兄さんは運がいい!僕は優しいから、殺さないでおいてあげるよ!」
やれる気がする。ただそれだけの理由で僕は気が大きくなっていた。普段おとなしい人がお酒を飲んだ途端に騒ぐ人がいる。情けない人だと思っていたが、しかしこれはこれで悪い気分じゃない。
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