第154話 力将の側近 マグマガールのマートル

なんの冗談だよ。


やっとだぞ、やっとの思いで。


死線をくぐり抜けて、やっとの思いでバンバンを追い詰めたっていうのに、こんな簡単にひっくり返えされるのかよ。


「殺し合いの邪魔をして悪いね。バンバン。でも、あんたに死なれると俺が困るんだ。」


バンバンのすぐ横に立つように現れた魔人は、溶岩の体を持つマグマ族のマグマガール。


赤黒い岩の体は硬く岩の亀裂から赤黄色の溶岩が見える、髪は赤褐色で瞳は金色、手配書の特徴と一致する。


懸賞魔人の危険度はバンバンと同じ9。


力将の側近だ。


無理だ。


1人相手でも精一杯なのに勝てない。


即刻逃げるべきだ。


「全員、逃げるぞ。」


「俺が逃がす分けねぇだろ。マグマケージ。」


ホムラの判断は速かったが、マートルはそれを上回る速さで行く手を阻む。


マグマケージ、対象物をマグマで包まれた球体に閉じ込める魔法だ。


なんて密度の魔法だ。


魔法を打ち破るには、同等以上のオーラが消費した魔法を放つ必要がある。


マグマの壁を前にしたホムラ達は、本能で理解する。


今の実力ではこの魔法を突破することは出来ない。


4人の力を合わせて全力で攻撃すれば突破できるだろうが、それを許してくれる相手ではない。


「助けた?助けられたのか?俺が、マートルに?余計なことを。礼など言わないぞ。言わないからな。」


「勘違いするんじゃない。俺は、あんたを助けたんじゃない。バール様の使命を果たすためにお前が必要だっただけだ。」


「使命?なんの使命だ?」


「勇者パーティーの強さを調べる使命だ。バール様曰く。お前についていけば分かるようだ。」


「アヒャハハハハハ。なんだ。目的は一緒か。」


「なに?」


「俺は、勇者の強さを調べるために、勇者をぶっ殺すんだ。お前もそうするんだろ?」


「それで、強さが分かるのか?」


「なんだ?強さの調べ方を知らないのか?お前、バカだな。バカだろ。戦って強い奴が生き。弱い奴が死ぬ。つまり、生き残った奴が強い。」


「なるほど、そういうことか。つまり、勇者は爆裂魔人より強く、俺より弱いってことか。」


「おい。俺はまだ負けていねぇ。生きているだろうが。死んでねぇ。」


「フン。悪いが。ここからは俺も混ぜてもらうぞ。」


「黙れ。帰れ。手助けされるくらいなら戦って死ぬ。」


「手助けするつもりはない。お前と勇者の戦いの決着が付いてから俺が戦っても良いんだが、貸しは作らねぇ。勝手に戦わせてもらうぜ。邪魔なら、俺を殺すんだな。」


「クッ。好きにしろ。」






「おい。ホムラどうする。逃げ道を防がれた。洒落にならねぇぞ。」


杖を握る力が強くなる。


シキの魔法でほとんど全回復して、ホムラの勇者の紋章で強化されていても、バンバンだけで精一杯だ。


正面から戦って勝てる見込みがない。


「―――2対2で。」


「いや、俺がマグマガールを押える。3人でバンバンを仕留めろ。それまで俺がなんとか耐える。」


「ライザー!無理だ。」


「じゃぁ。2対2に持ち込めば勝てるのか?」


「・・・。」


ライザーの質問に黙り込むホムラ。


理性では理解しているのだ。


ライザーの案が最も生き残れる可能性が高い。


だが、感情がその選択を拒む。


運良く、バンバンを撃破し。


マートルの戦闘で隙を突けば1人くらい逃げ出せる可能性もあるだろう。


だが、確実にライザーは助からないだろう。


「俺が一番マグマガールの攻撃を耐えしのげる。タンクだからな。シキも俺に構わずバンバンへの攻撃に専念しろ。」


「分かった。1人でマートルの相手を・・・。だが、足止めは俺がする。」


「いや。ホムラ。俺が相手にする。耐えきれないし、バンバン討伐にはお前の力は必須だ。」


「ホムラ。悪いが、今回はライザーの意見に賛同だ。それが、最も生き残りる可能性が高い」


「ガイモン・・・。」


「そんな。みんなであのマグマの壁を攻撃して突破すればいいじゃない。1人じゃ無理でも4人でなら何とかなるわ。」


「それを、あいつらが見逃してくれると思うのか?」


「そっそれは・・・。」


「耐えてみせる。だから、早くバンバンにとどめを刺してくれ。それからシキ、俺に回復魔法は不要だ。全力でバンバンに攻撃しろ。」


「・・・。」


「安心しろ俺は、殺されるつもりはねぇ。それに、俺はいま最高に調子がいい。」


ライザーを纏うオーラが変質する。


「おっお前、それは。」


透明な鎧がライザーを覆う。


不完全だがオーラ武装だ。


「決まりだな。俺が、相手をする。」


「死ぬなよ。ライザー。」


「あぁ。」






「へぇ~。あんた1人で、俺の相手をしようってのか?」


ライザーがマートルの前に1人で立つ。


「あぁ。」


「俺はバンバンほど甘くはないぞ。1人だろうが2人だろうが、強かろうが弱かろうが、俺は最初から全力で行く。」


マートルの体を溶岩が覆う。


オーラ武装だ。


周囲の気温がより一層高まる。


汗なのか冷や汗なのか分からない汗が滴る。


分かりきってはいたが、できればオーラ武装は使えないでいて欲しかった。


対面してすぐに分かった。


マートルのオーラ武装には、高熱の追加効果がある。


直接攻撃を防いでも、高熱で体がむしばまれていく。


「ハハハ。」


最高だ。これは、耐えがいがあるな。


チラリと横を見ると、バンバンとホムラ達の戦いが始まっている。


「先に爆裂バッタを倒すつもりなんだろうけど甘いぜ、あんた俺の攻撃に耐えきれると思っているのか?」


「命乞いすれば見逃してくれるのか?」


「それもそうだな。精々あがいてみせな。」


「耐えて見せるさ。」


「面白ぇ。俺は、相手が雑魚だろうと全力で叩き潰す。それが俺の流儀だ。その頼りないオーラ武装で俺の攻撃を何度耐えられるかな。」


「エアクッション。エアシールド。ソニックムーブ。」


可能な限りの防御魔法と回避魔法を掛ける。


「マグマ腕」


マグマガールの腕がマグマに包まれて肥大化する。


少しにらみ合った後に、マートルがすっと腰を下ろす。


来る。


ドン。


クソ。こいつバンバンより強ぇ。


巨大な落石に直撃したかのような衝撃が体中に響く。


それに、熱い。


「アグゥゥ。」


マートルの攻撃をなんとか防ぐ。


「何、パンチを防いだぐらいで、いい気になってるんだよ。」


盾越しにマートルの声が聞こえる。


そうだ。


パンチ一つで攻撃が終わるはずがない。


側面から強烈な蹴りが見舞われる。


「エアシールド。グワァァァ。」






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