第153話 アタシの回復魔法
「シ-!お-。―――。たの-。」
深い湖の底で寝ているような心地いい眠りについていた。
外の音がほとんど聞こえない。
室内で寝ているのだろうか?
だとすれば、この安心感は実家だろうか。
いつの間に帰ってきたのだろうか?
父と2人でトレジャーハンターの道を歩み始めてから今までずっと家に帰ったことはない。
そもそも、まだ家がちゃんとあったことが驚きだ。
「シキ!-のむ。―を―――てくれ。」
家の外で、誰かがあたしを呼んでいるのだろうか。
遠くで呼んでいる声が聞こえる。
この声をあたしは知っている。
誰だっけ。
そう。
魔法使いの人だ。
すべての属性に適性がある。
天才魔術師だ。
あたしの嫌いな才能も身分もある奴だ。
ただ、その才能に傲らず努力をする人でもある。
なぜ、あたしが呼ばれているのだろう。
何か約束でもしたのだろうか。
確か、昨日はシープートさんと別れて・・・。
いや違う、昨日は封印の祠に入ったんだ!
そして、技将の側近であるバンバンと戦闘になって・・・。
記憶がはっきりしてくる。
ここは、実家なんかじゃない。
鈍く働いていた脳が覚醒した。
遠くで、聞こえていた声もすぐ近くで感じる。
「シキ!頼む。目を覚ましてくれ、お前がいれば勝てるんだ。」
目が覚める。
自分の置かれている状況を完全に思い出して。
洞窟でのバンバンとの戦闘。
あたしの一撃でバンバンの左腕を打ち飛ばしたこと。
そして、本気になったバンバンに殺され掛けたところを、ライザーによって助けられたこと。
その際に、右腕を負傷したこと。
そして、最後にバンバンの大技を受けたこと。
不思議と体に痛みはないが、右腕は思うように動かない。
頭を上げ状況を確認する。
その瞬間に、自分のやるべきことを理解する。
アタシが気絶してから何分立ったのだろう。
少なくとも短い時間ではないことは明らかだ。
バンバンの攻撃をホムラとライザーが受け止めガイモンが隙を攻撃している。
皆、動けているのが不思議な程の怪我を負っている。
ホムラとライザーほどではないが、バンバンも相当な手傷を負っている。
残っている右腕も力なく垂れ下がり、左足の外骨格もひび割れている。
体の至る所に痣を作っている。
だが、このまま戦い続ければ、バンバンが勝つのは確実だろう。
だが、アタシが回復魔法を放てば、話は別だ。
「シキ!目を覚ましたか!よく目覚めた!シキ。頼む、回復だ。回復だけ頼む。そうすれば、バンバンを削りきれる。」
「やべぇな。やべぇよな。運がいいな。運がいいよな。目を覚ましたか。だが、俺が回復させる訳ねぇだろ。そうだろ。なぁ。」
「エアシールド。ウィンドスラスト。」
バンバンが、シキを狙ってくるが、ライザーがバンバンの行く手を阻む。
「チッツ。お前達本当に人間か?人間だよな。ゾンビじゃないよな。いい加減くたばれよ。」
「2度も、お前を抜かす分けがないだろ。」
「しつこいぞ、しつこいな。お前達いつまで動けるんだよ。動けるんだ?」
「炎猿哮波(エンエンコウハ)!」
「オータムブリーズ!」
動きを止めたバンバンの背後からホムラとガイモンが魔法を放つ。
ホムラが放つ炎の斬撃は、ガイモンの放つ風魔法に乗り威力と速度を増してバンバンに直撃する。
「ウグ。痛ぇなぁ。おい。流石にいてぇなぁ。」
「いける。いけるぞ。俺たちの粘り勝ちだ。」
「冗談だよな。俺に勝てるだって・・・。俺に勝てる分けねぇだろうが!吹き飛べ爆煙風・爆魔人連脚。」
バンバンバンバン。
バンバンの暴風に乗った連続の蹴りをライザーがさばききれずに食らうが、その場に踏みとどまり、バンバンを抜かせない。
「グハッ。」
「チッツ。なぜ倒れねぇ。もう倒れてもいいだろうに・・・。」
「タンクとしての意地だよ。」
目を覚ました一瞬ので、この密度の戦闘。
一体どれだけ耐え忍んだのか。
一目見ただけで分かる。
今までの経験からアタシの回復魔法では完治できない。
そう。
今までのアタシでは、無理だ。
だが、不思議と今はできる気しかしない。
右手に力は入らないが、右手に光る勇者の紋章から不思議な力を感じる。
勇者の紋章の力かどうか分からないが、オーラは万全に練られている。
凄い。
今までどれだけ集中してもこれだけの密度のオーラは纏えなかった。
それを意識せずに自然体でできている。
不思議な感覚だ。
今ならどんな魔法だって打てる。
魔法はイメージの世界。
今のこのオーラの質と量ならできる。
左手を高く掲げ、そして振り下ろす。
「レインヒールアロー!」
緑色の弓矢が大地に降り注ぐ。
1本1本の矢は、それほどたいした回復をしないが、積み重なることで大きな怪我も癒やしていく。
急激にオーラを消費していくのを感じると同時に右腕の怪我が治療されていくことを感じる。
「キタキタキタキタァーー。爆炎龍。」
回復されてホムラの動きが加速する。
その動きにバンバンが初めて相手の攻撃から逃れるために後退する。
「くそ。回復された。回復されたぞ。それに、退かされた。退いたのか。あいつらに?間違いだよな。俺が押されている。押されているのか?」
「押されているんだよ。シューティングスター。」
火・風・土・水・雷の様々な属性を組み合わせた星屑サイズの無数の流星を放つ。
これで、勝てる。
そう思った時、バンバンの声でない女の声が聞こえてくる。
「マグマウォール。」
ガイモンの魔法からバンバンの身を守るようにマグマの壁が立ち上がる。
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