第152話 道しるべ

あー。痛ぇ。


頭が割れるようだ。


油断したつもりは無かった。


ただ、シキの危機に焦ったんだ。


そして、ライザーの機転で最悪の事態を避けたと思って、油断してしまった。


オーラを消費した分、それ相応の魔法が来る。


戦闘の基本中の基本だ。


完全に俺の失態だ。


立ち上がろうとするが立ち上がれない。


視界も暗く周囲が見えない。


みんな大丈夫だろうか。


生きているといいのだが、・・・。


完全に判断を見誤ってしまった。


すまない、みんな。


すみません。センリ様。


俺は、俺たちはここまでかも知れません。






「新しい勇者様、少しお時間よろしいですか?」


「セッセンリ様、俺みたいな身分の低い奴相手に敬語など使わないでください。昨日のように呼び捨てにしてもらって結構です。」


「フフフ。私は、あなたの決意に敬意を示しているのです。誰でもその決意を出来るわけではありません。それは、私だって・・・。だからこそ、勇者なのでしょうね。」


「いえ。買い被りすぎです。俺は、そんな立派な人間ではありません。今だって、怖くて逃げ出したいくらいです。俺はきっと勝てない相手と出くわしたら使命なんて忘れて逃げ出すと思います。だから、―――。」


「いいえ、逃げ出さないです。あなたは、決して逃げない。私の方があなたのことを理解しているかも知れませんね。」


「ありがとうございます。センリ様にそう言って頂けると、なんだか頑張れそうな気がしてきました。それで、何のご用ですか?」


「勇者の紋章についてお話しておこうと思いまして、」


「勇者の紋章って、俺の仲間になれるかどうか分かる魔法のことだろ。それが、どうしたんです?」


「勿論それもありますが、勇者の紋章はそれだけではありません。」


「何か追加の効果でもあるのですか?」


「えぇ。私達は身体強化系の効果がありました。その他には、迷子になった時に行き先を照らしてくれたりもしました。不思議な魔法です。精霊達が扱う魔法に近いものがあるのかも知れませんね。」


「へぇ、オーラを強く込めたら光るだけでは無いんですね。それで、どうやって使うんです?」


「それは、分かりません。勇者の紋章を扱えたのは、勇者様だけですから・・・。」


「そうか。それは、残念だな。」


「ですが、覚えておいてください。勇者の紋章は必ずあなた達の旅の道しるべとなります。もし、紋章に反応があればオーラを注いで見てください。きっとあなた達の助けとなるはずです。」






俺が勇者となってすぐのことだ。


懐かしい思い出だ。


あの頃はまだライザイーしかいなかった。


のちに、ガイモンとシキが仲間に加わる。


まだそれほど一緒に過ごしていないが、随分と長い間旅を続けた気がする。


まだ、俺は生きている。


最後までできることをしよう。


覚悟を決めると、右手の甲が生暖かいことに気付く。


目を開くと視界がぼんやりと戻ってきている。


まだだ、まだ戦える。


ぼやけた視界の中で右手の甲が夜空の月のように輝いていることに気付く。


フフフ。


これが、センリ様が言っていた勇者の紋章に隠されている効果なのだろうか?


確証は無い、勇者の紋章はオーラを集め意識すると簡単に光る。


今の俺に出来ることなど限られている。


今はこの魔法を信じよう。


残りのオーラをすべて紋章に注いでいく。


そして、紋章が輝きだした。


今まで何度も紋章の力を借りようとしたのに、遅いよ。






紋章が輝き始め、すぐに異変に気付いた。


もの考えるのも億劫なほどの頭痛が消える。


反射的に頭を押さえるが、手にべっとり血が付いてくる。


傷が治ったわけでは無い、痛みを感じなくなったのだ。


ほとんどそこを尽きていたオーラは、全開になっている。


痛みを感じなくなったことで立ち上がれる。


それに、力があふれてくる。


「ホムラ、これは一体・・・。」


すぐ隣に同じく重症のライザーがシキを背負って立っている。


ライザーも体の異変に気付いたようだ。


ライザーの右手も輝いている。


ライザーだけでは無い。


背負っているシキの右手も奥で倒れているガイモンの手も輝いている。


「道しるべだよ。」


「道しるべ?」


「あぁ。勝利へのな。シキは?」


「安心しろ。気を失っているだけだ。」


シキを下ろし地面に横たえる。


ガイモンも気絶しているのだろう。立ち上がる気配が無い。


「そうか、痛覚が無い。それに、体が軽い。」


「痛覚遮断に強化魔法か。これってまさか。」


「あぁ。勇者の紋章だ。」


これで、まだ戦える。


まだあがける。


痛覚が無くなっただけで、治癒効果がある分けではない。


現に、勇者の紋章が発動する前に気絶していたシキとガイモンは気絶したままだ。


「シキとガイモンが復帰するまで、持ちこたえるぞ。」


「あぁ。任せろ。」


感覚で分かる。


体が強化された今ならなんとか2人でもバンバンと渡り合えるだろう。


だが、倒しきるにはガイモンとシキの復帰は不可欠だ。


痛みは感じないが、致命傷を負えば動けなくなるだろうし、ダメージが蓄積しても同じだろう。


バンバンに勝ちきるためには、シキの回復魔法とガイモンの攻撃支援が不可欠だ。


ガイモンは起きるだろうが、シキが不安だ。


間違いなく一番負傷しているのはシキだ。


チラリとシキを見るも、右腕からの出血がひどい。


それ以上の外傷があまりないのは、ガイモンがシキを守ったからだろう。


随分と吹き飛ばされたものだ。


周囲は、封印の祠内で、多孔質の大地が上下左右に広がっている。


ほとんど、足場がない。


今だって木の幹の上に立っている感覚に近い。


「足下に気をつけろよ。」


「分かってる。」




洞窟の奥からバンバンが歩いてくる。


「アヒャハハハハハ。驚いた。驚いたぞ。まだ生きているとは思っていたが、まだ立っているとは思わなかった。」


「ふん。お前の体力にも驚きだ。本当に左腕を失ったのか疑いたくなるほど動くじゃ無いか。そろそろ、俺たちみたいに動きが鈍くなってきてもいいんじゃないか?」


「ヒャハハハハ。痛い。痛いぜ。それに動きにくい。常に体が右に引っ張られている気がする。引っ張られていないのにな。不思議だな。不思議だよな。」


左腕が無いため少し右に体を傾けながら歩いてくるバンバン。


すでに、左腕からの出血は止まっており、あまり疲労がたまっているようにも見えない。


「フン。化け物め。」


「ライザー、息を合わせろよ。」


「あぁ。」


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