第146話 勝利の算段

「ニゲルナァァァ。タタカエェェェ。」


バンバンの速度は速く、すぐに追いつかれライザーと交戦が始まる。


バンバンは焦っていた。


参謀のアラクルネと技将ベーゼル様の話を合わせると、勇者の実力を測るために勇者パーティーを殺すことだ。


逃げている背中を討っても相手の強さは分からない。


正面から戦ってもらわなければならない。


そのために、逃げることを諦めてもらわなければならない。


が、どうすれば良いのか分からない。


追いつくことは簡単だが、正面から戦ってもらう方法をバンバンは知らない。


バンバンの足は長く、インパクト時に爆発する。


バンバン。


戦闘音が聞こえチラリと後ろを確認するシキとホムラ。


横目で見たガイモンは走ることで精一杯で振り返る余裕はないようだ。


バンバンの攻撃に対してライザーは防御の構えで、上手く間合いを取っていなしているが、完全にバンバンに足止めを喰らっている。


バンバンの攻撃をいなしながらの逃亡は無理なようだ。


あのまま、ライザーを1人にするわけにはいかない。


シキもライザーの状況を把握したのか声を掛けてくる。


「ホムラ!」


「あぁ、分かってる。ここでやるぞ。」


周囲は少しでこぼこしているが、まだ戦いやすいだろう。


シキは、ホムラから飛び降りて瞬時に弓を引く。


「クイックショット」


以前見た時よりその精度も威力も格段に上がっている連射にホムラは舌を巻く。


俺とライザーがあれだけ成長していたのだ。


シキとガイモンが成長していないわけがない。


ホムラから飛び降り着地と同時に放たれた弓の連撃は、精確でかつ精度が高くライザーが引くには十分な援護であった。


「へへ。助かったぜ。」


ライザーがバンバンと距離を取り3人の前で盾を構える。


だが、バンバンは不思議と瞬時に距離を詰めるでもなく、こちらの様子を伺いながらゆっくりと歩いてくる。


「いいのよ。今のあたし達でも勝てない相手じゃ無いわ。試してみましょう。」


「あぁ。そうだな。逃げてばかりはもうやめだ。ここで、技将ベーゼルの側近バンバンを討つ!」


よく知らない場所での戦闘は危険だと感じて洞窟内まで逃げることを選択したが、もしかしたらその必要は無かったかもしれない。


技将ベーゼルの側近バンバンは、皆が知る名の知れた魔人で、強い。


一目見た瞬間に死を覚悟する程の相手だと分かったが、それは以前の感覚に基づく判断だ。


今日、戦闘をして分かったが、俺とライザーは格段に強くなっている。


そしてそれは、シキとガイモンもだ。


今のこのメンバーなら勝てる。


快勝とまではいかないだろうが、死人を出さずに勝てる。


「ライザー、俺と前衛だ。シキは遠距離から支援を、ガイモンは最高火力で隙を見て仕留めろ。」


「ホムラ、最後のとどめは私に任せてくれないかしら、とっておきの魔法があるの。ガイモンいいでしょ?ここの地形なら外さないと思うの?」


「ガイモンは?」


「あぁ。いいと思う。支援は俺がするよ。その代わり確実に決めろよ。」


「分かってるわよ。前回はシープートさんにもって行かれちゃったけど、あれから進化したあたしの技を見せてあげるわ。」


「軽い女だな。本当に大丈夫なのか?支援職だろ?」


「ライザー、成長したのは俺とシキの修行と実践の成果だ。2人とも驚くと思うぜ。」


ガイモンは一緒に修行をしたから何か知っているようだが、ライザーは不安があるようだ。


だが、その疑問はもっともだ。


本来シキは、支援職で戦闘職ではない。


戦闘に少しでも参加したいと弓を始めたのは一緒に旅を始めてからで、努力をしているのも知っているが、戦闘の実力は4人の中では最下位だ。


支援職として、優れた才能を持っているからそれで良かったのだが、彼女はそれでよしとしなかった。


努力をしていないようでいつも飄々としているが、実は努力を人に見せるのが嫌で努力家なやつだということは知っている。


最近は、しっかりと支援職の仕事をこなしながら戦闘に混じるようになってきた。


先ほどのクイックショットだって、本職の弓術師と遜色ないレベルで上達している。


俺の仲間は凄い奴だ。


ガイモンやライザーだってそうだ。


努力家で強くなることに貪欲な奴らだ。


だからこそ、ここまで来られた。


だが、相手は技将の側近だ。


普通の弓術師のレベルではダメなのだ。


相手は、理不尽のような魔法を放つ化け物の側近だ。


勝てると算段を付けたが、何か奥の手を隠しているかも知れない。


いや、この懸念は誰がとどめを刺す役割でも変わらない。


最後のとどめを任せられるか疑問は残るが、シキと修行したガイモンが大丈夫というなら信じよう。


「分かった。なら支援はガイモンがシキは回復魔法の余力を残しておくことだ。」


「分かってるわ。任せてよね。」


「おい。とどめは戦闘職にさせてくれよ。」


「シキを信じよう。うち漏らしても、他の誰かが対処する。いつもそうしてきただろ?」


ライザーは少し不満があるようだが、納得してくれるだろう。


自分たちの実力と同等かそれより少し強い相手とはこれまでも何回も戦ってきた。


そのたびに、とどめの役を指定するが、その通りになったことは少なく、皆が皆を助け合って倒してきた。


何も今回が特別な訳ではない。


初めて、シキを指定しただけだ。


「ふん。だな。」


「痛いところを突くな。」


ガイモンは当然だとばかりに頷き、ライザーはうち漏らした経験を思い出したのか引き下がる。


「みんな失敗しているんだ。だが、それが負けに直結するわけじゃない。」


「分かった。どうすればいい?」


ライザーが覚悟を決めたのか、シキに指示を仰ぐ。


「あたしが合図したら側壁にしがみついて伏せてよね。ガイモンは支援よろしくね。一度見たんだから分かるでしょ。」


シキが、バンバンに聞こえないように小声で答える。


「分かった。」


「目んかっぴらいて、よく見ていなさい。もう守られるだけの支援職じゃ無いんだから。」


「頼んだぞ。」


「逃げるのは諦めて、戦う気になったのか?作戦会議か?作戦会議だな。うん。いいぞ。いいぞ。正面から戦って、そして潰してこそ殺しがいがあるというものだ。」


ベーゼル様から指示を受けた後に参謀のアラクルネから聞いたが、勇者の実力を知るために勇者と戦うそうだ。


参謀のアラクルネの話だけではどうすればいいか分からないところだった。


アラクルネの悪いところだ。


知恵が回る者の指示はわかりにくくてかなわない。


アラクルネの話ではどうすればいいか分からなかったが、ベーゼル様は偉大だ。


勇者を殺せという分かりやすい指示を出してくださった。


逃げている相手の背後を討っても強さが分からない。


分かるためには正面からの殺し合いのみ。


そのために、ベーゼル様は勇者パーティーを殺せと指示をだした。


そして、今勇者達はなぜか正面から戦おうとしている。


俺の任務は達成間近だ。







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