第143話 封印の祠へ

ライザーが風を槍先に纏いながら突進していく。


ゴゴゴゴ。


ライザーのありったけのオーラをつぎ込んだ魔法は、矛先に小さな竜巻を起こし、周囲に強風が吹き荒れる。


凄い、風圧だ。


洞窟いっぱいに広がった風により髪が乱れる。


ホムラに迫っていたスケルトンスライムもライザーの接近に気付き、ホムラへの攻撃を止めライザーに攻撃を仕掛ける。


まだ、スケルトンスライムと距離があるライザーはスライムの触手の攻撃を受けるか避けるしかないが、ライザーはスライムの触手が飛んできているのにもかかわらずお構いなしに突っ込んでいく。


スライムの触手が複数飛んで来るが、風圧に耐えきれず飛散していく。


「すごい。行けるんじゃない。」


すぐ隣でシキが呟く。


実際にライザーが引き起こす風は、シープートさんがトレントの樹皮を打ち砕いた技を思い出す程だ。


洞窟という閉鎖空間のため引き起こされる風はシープートさん程ではないだろうが、それでもスケルトンスライムを一撃で倒せるのではと思えるほどの威力があることが見て取れる。


姿勢を低く槍を構えて疾走するライザーはスケルトンの斧の攻撃を、地面を這うように更に姿勢を低くすることで躱す。


スライムもいくつもの触手を伸ばすしていくが、すべて飛散していく。


そこだ。


スケルトンの攻撃を躱した今、スケルトンスライムは完全に無防備だ。


「セイヤァ。」


屈んでいた姿勢からバネのように体を起こすと共に、槍を下ら上に突き上げる攻撃は、スケルトンスライムを完全に捉える。


よし。


ライザーの攻撃が直撃したことを確認して心の中で歓喜する。


吹き荒れる暴風を直撃したスケルトンスライムからスライムの体が細切れに飛散していく。


スケルトンスライムを一撃で屠ることはかなわなかったが、に貫かれ壁に押しつけられており完全に動きを封じている。


スライムの体もほとんど吹き飛ばしており、部分的にスケルトンの骨が露出している。


そして、その隙を逃すホムラじゃない。


「俺の出番が無いかと思ったぜ。」


ホムラの剣が黄色に輝き、遅れて吹き荒れる暴風から熱が送られてくる。


オーラを剣に膨大なオーラを込めたホムラの剣の中心は黄色く輝いており、跳躍してライザーの頭上から攻撃する。


ホムラの持つ剣のあまりの熱さから周囲が陽炎のようにゆらめく。


「赤熱蛇剣(セキネツジャケン)」


蜃気楼のように歪んだ世界に一閃の光が走り、スケルトンが右肩から左脇腹に向けて赤い筋が入り、ずれ落ちる。


崩れ落ちたスケルトンの裏の洞窟にも赤い線が走っており、ホムラの攻撃の高温さが分かる。


あまりの温度の高さに岩が融点に達したのだ。


「ふぅ。無事に討伐だな。」


「流石ホムラ。一刀で両方倒すとはな。」


「いや、ライザーにあそこまでお膳立てされたらな。外すわけにはいかないさ。」


「ふたりとも怪我はない?アッツ。」


ふたりを心配して駆け寄るシキは、ホムラの剣に近づき熱気に当てられる。


「あぁ。悪いな。」


ホムラはオーラを揮散させる。


「怪我は無い。大丈夫だ。」


「あんた達熱くないの?」


「俺は、熱さに耐性があるからな。」


「あぁ。確かに熱いが問題無い。」


「うぇぇ。本当に・・・。まぁ。それにしても、ふたりとも凄い強くなったわね。あたしとガイモンに感謝しなさいよ。」


「ハハハ。そうだな。正直想像以上で驚いたよ。」


ホムラの額を大きな汗が流れる。


オーラを揮散させたホムラの剣は依然として赤く光っており高温であることが分かる。


「その剣大丈夫なの?」


「あぁ。あんまり無理をさせるとぶっ壊れちまうかもな。まぁ、でもこれを期に新しい武器を新調しようと思う。」


「えぇ。その剣結構高かったんじゃ無かったの?捨てちゃうの?」


「あぁ。だが、この先の戦いはもっと苛烈になるだろう。武器を変えて少しでも強くなるならそうすべきだろう。」


「ふーん。ホムラもライザーと同じこと言うのね。」


「何言ってんだよ。シキとガイモンも負けたことが悔しくて修行を頑張ったんだろ。俺たち全員同じ気持ちなんだよ。」


「はぁ!私は別にそんなつもりじゃ無いわよ。ただ、アスタロートの顔面をぶん殴るために・・・。」


シキはそこで、自分がみんなと同じ理由で強くなろうとしていたことに気付き黙り込む。


「ぶん殴るために何だ?」


「あ~。もうこの話はおしまい。あたしはあたしのために強くなるんだから、あんた達と一緒じゃ無いわ。それにしても、おかしいわね。洞窟なのに洞窟固有の魔物がいないわね。」


シキが、倒したスケルトンの頭蓋骨を蹴飛ばす。


「そういえば見かけないな。封印の祠の影響か?」


シキに指摘されるまで気付かなかったが、確かにその通りだ。


洞窟元来の魔物がいないことは不自然だ。


洞窟で物音を立てると聴覚に優れた魔物が襲ってくるが、今まで襲ってきた魔物はスライム系の魔物ばかりだ。


「さぁ。でも、この洞窟が普通じゃ無いことは確かね。」


洞窟固有の魔物を見かけないのはパーティーがすでにベーゼルブブの管理下に足を踏み込んだからである。


そんなことは知らない勇者達はさらに奥へと進み、洞窟は徐々にスポンジ状の穴が空いた地形へと変わっていく。


スポンジ状の穴が空いた岩盤は封印の祠の特徴で、その特徴が見られたということはすぐ近くだと言うことだ。


「見ろ。側壁にいくつかスポンジ状の大きな空隙がちらほら見えてきた。おそらくもう少しで封印の祠だ。」







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