第140話 封印の祠へ

「炎飛燕(ホムラヒエン)」


「シャープスラスト」


スライムソルジャーを難なく討伐するホムラとライザー。


スライムソルジャーは、成人男性ほど大きく成長したスライムが周囲に落ちている物を体に纏った個体のことを指す総称である。


サイズが大きくなるにつれて総称が変わっていき、さやに大きな個体になるとキングスライムやドラゴンスライムなどと呼ばれている。


洞窟のどこかから拾ってきたのであろう使い古された剣と盾を身に付けたスライムが2体襲ってくるがそれを難なく一撃で倒すホムラとライザー。


彼らの攻撃の鋭さは病み上がりとは思えないどころか、アスタロートと戦う前よりも数段強くなっている。


「へぇ。結構やるな。これも勇者の紋章のお陰か。」


「なんかずるいわね。あたしとガイモンが必死に訓練したのに、その努力が盗まれたみたい。」


2人の急激な成長は、勇者の紋章により4人が繋がっていることに起因しており、シキとガイモンが成長した分だけホムラとライザーも成長したのだ。


「おい、勇者の紋章の恩恵を受けているのはシキとガイモンもだぜ。」


「そうなんだけど、でも、あなた達寝てただけじゃない。」


「まぁ。そう言うなよ。お前達が成長した分。俺たちもこれから成長するからさ。」


シキは口では文句を言っているが、内心2人が無事復帰してきて嬉しく表情は柔らかい。


倒したスライムが所有していた武具を物色しているたまに優れた武器を。


スライムが武器を所有していたとはいえ、正しい武具の使い方までは理解していなかったのだろう。


盾で攻撃してきたり、剣の柄で殴りかかってきたりと武器の扱い方は全くなっていなかった。


そんなスライムだが、スライムの上位種で、なめてかかると痛い目を見る。


あらゆる物理攻撃や魔法を無効化するスライムの体はやっかい極まりなく、確実に仕留めるためにはスライムのカクを壊す必要がある。


そのコアを攻撃するのは体のサイズが大きくなるにつれて攻撃がコアに到達しにくくなるため、指数関数的に難しくなると言われている。


しかもスライムの上位種であるスライムソルジャーはヤドカリのように兜に半分以上身を隠したスライムのカクを的確に攻撃することは非常に難しい。


通常種のスライムであれば、一目でコアがどこにあるか分かるが、何かを身に纏っているスライムは一目でコアを見つけにくく更に、纏っている物が邪魔でコアを攻撃しにくいのだ。


スライムソルジャーが振り回す武具も危険だが、一番怖いのは通常のスライム種の時から変わらず不規則に蠢くスライムの触手の攻撃だ。


不定形のスライムの動きは読みづらく、突然伸びてくる触手を避けることは難しく、一度スライムに拘束されると自力での脱出は不可能だ。


通常スライムを討伐する際は、4人1組で息を合わせて攻撃することが定石だ。


誰か1人が拘束されても1人が触手を切り離し1人が陽動、1人が拘束された仲間を助けるためだ。


スライムの体は簡単に切り落とすことはでき、4人で交互に攻撃し徐々にスライムの体をそぎ落とし小さくすることは可能だ。


しかし、切り離したスライムの破片は地面に水たまりを作り、その静たまりにスライムが触れるとで、また体の一部に戻り瞬く間にもとのサイズに戻るのだ。


つまり、スライムを倒すには確実にコアを壊すしかないのだ。


熟練した騎士や冒険者からすれば、スライムはコアを破壊すれば一撃で倒せる相手だが、経験の浅いパーティーが相手をすると何度攻撃してもコアを壊すことが出来ず、いくら切り刻もうと復活するおぞましい相手なのだ。


そんなソルジャースライムをホムラとライザーは各々1体を一撃で仕留めたのだ。


ホムラは瞬時にスライムソルジャーに近づき攻撃の隙を与えずに炎を纏った剣で一刀両断し、ライザーは持ち前の反射神経で触手の攻撃を瞬時に避けながらランスで一突きにする。


以前の2人からすると信じられない成長だ。


この成長をもたらしたのが、シキとガイモンの修行の成果が勇者の紋章で共有されたことであるのは明確であり、シキが小言を言うのも仕方ないところもある。


カクをから切り離されたスライムの体は、水分のように地面にたまり、使い古された兜や剣、盾が転がっている。


「しっかり、成長して、私のためにも強くなってよね。にしても、見るからにボロボロの剣ね。」


「あぁ。任せろよ。今まで休んでいた分しっかり成長するからな。もう、仲間を失うかも知れない恐怖を味わうのはこりごりだ。盾も鎧も使いものにならねぇな。まぁ。ここは封印の祠への道中に過ぎないからこの先に期待しようか。」


シキとホムラが手に持っていた武器を捨てるが、ライザーがボロボロの小盾を拾い、左腕に装備して感触を確かめている。


小盾は小さくボロボロだが、厚みがありそれなりに使えそうではあるが、見た目が悪いし何より小さい。


小盾で隠せるのはせいぜい顔くらいだろう。


「おい。嘘だろライザーそれ使うのか?」


「あぁ。前の盾はアスタロートに壊されてしまったからな。こんなのでも無いよりはましだし、左腕に何か付けてないと何だが不安なんだよ。」


「何それ、赤ちゃんのおしゃぶりみたいね。」


「うるさいな。盾が無いと違和感を感じるんだよ。」


「赤ちゃんだな。」


「あぁ。同じだな。」


「勝手に言ってろ。ほら、早く行くぞ。」







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