第139話 封印の祠へ

「ここが封印の祠へ繋がる洞窟なのか。案外普通だな。」


「普通じゃないわよ。もっと明るくならないわけ?」


「洞窟は暗いのが普通だ、明るくないと変みたいに言うな。洞窟なんてこんなもんだろ。そら。」


ガイモンがスタッフを振って光源を複数に増やし、光源を進行方向の前後に飛ばす。


光源の動きに合わせて、複雑な影が洞窟壁面に映し出される。


「だって。ひぃぃ。」


光源が移動することで出来る影に驚くシキ。


「シキ。影に驚くなよ。こっちも驚くだろ。頼むからこの先はうるさくするなよ。洞窟の魔物は目が悪いが聴覚は優れている。悲鳴なんか上げるとすぐに囲まれるぞ。」


「分かってるわよ。そんなこと、洞窟で騒がないことは、トレジャーハンターの基本よ。静かにするから私を安心させてよね。ほら、ライザーは私の一歩後ろをホムラとガイモンは私の前を並んで歩きなさい。」


シキはささやき声で指示を出す。


「はいはい。これでいいか?にしても、封印の祠ってこの道からしか行けないんだろ?見たところ普通の洞窟だが、封印の祠は洞窟なのか?ドワーフたちの手によって伝説の武具が封印されているって聞いたから古代遺跡でもあるのかと思っていたんだが、そんな雰囲気じゃないな。」


「なんだ、ホムラは封印の祠を知らずにいこうとしていたのか?」


「いや。まぁ。ガイモンなら知っていると思ってな。」


封印の祠に向かうことはホムラとライザーが決めたことだが、ホムラとライザーは封印の祠に強い武器が封印されていることだけしか知らずその他のことはガイモンの知識を頼っていたのだ。


「あぁ。信頼しているぞ。ガイモン。町からこの洞窟まで真っ直ぐ歩いて来た。知っているんだろ?」


少し、申し訳なさそうにするホムラと完全に人任せにしているライザー。


「はぁ。信頼と他人任せは違うぞ。俺にも知らないことはあるだから、盲目的に俺のことを信用されたら困る。あんまり、俺を頼りにするなよ。」


「すまんすまん。」

「あぁ。悪いな。」


ホムラとライザーは簡単に謝るが、悪びれた様子はなく、改善の見込みはない。


これと似たようなことがすでに何度かあったが、困ったものだ。


シキは無知のまま突き進もうとするが、この2人は俺なら知っているだろうという前提で行動する節がある。


本当に知らなかったらどうするつもりだったんだか・・・。


「俺も実際には見たことがないんだが、封印の祠は古代遺跡でも洞窟でもなく、スポンジケーキのような大地の場所を指すらしい。」


「「「スポンジケーキのような大地?」」」


ガイモンは、自分の読んだことのある封印の祠の特徴を話すが、伝わらなかったらしい。


三者三様に頭を捻る。


「あぁ。封印の祠は、スポンジケーキのような多孔質の大地なんだ。ほら、スポンジケーキって、多数の空気の穴があるだろ?その穴の中を歩いていくイメージだろう。書物にもよるが岩のジャングルとも書かれているのを見たことがある。おそらく大きな多孔質の岩なのだとおもう。」


「へぇ。流石、ガイモンね。で、古代遺跡でもない場所になんでわざわざ、ドワーフが伝説の武具が封印しに来るのかしら?」


「実際には封印ではなくて、廃棄だな。ドワーフは、中古の武具が新たな所有者の手に渡ることを極端に嫌う者がおおい。他人の手に渡らないように封印の祠に廃棄しているんだ。ドワーフの町で管理するより、封印の祠に廃棄した方がよほど、彼らの目的が達成されるのだろう。」


「あーー。確かにドワーフが作る武具はすべてオーダーメイドだったよな。依頼者の実力を最大限発揮できる特注の武具を制作してくれるんだろ。たしか、同時に所有者の実力を最大限発揮できない、量産型の武具や中古の武具を嫌っているんだろ。」


「あぁ。そうだ。中古の武器が他人の手に渡らないように、中古の武器を買いあさっては封印の祠に捨てていると聞いている。」


「そう簡単に捨てられるのか?天然の要塞なんだろ。ドワーフたちはどうやって武器を捨てに来ているんだ?」


「それにはからくりがあってだな。武具を捨てるときは洞窟に潜らなくていい。封印の祠の頂上から、多孔質の穴から武具を投げ捨てるだけでいいんだ。そうすれば、多孔質の岩の頂上から地下深くまで落ちていくんだよ。」


「なるほど、それで封印完了って分けね。」


「あぁ。それに武具を捨てるのはドワーフだけじゃない。人を嫌う魔人や亜人も、倒した人の武器をここに捨てに来ると言われている。人を嫌う者達は西国産の物や文化を嫌うからな。」


「へぇ。どうしてみんな封印の祠に武器や防具を集めに行かないんだ?この洞窟にドワーフたちの最高傑作も放置されているって聞いたぞ。」


「ハハハハ。身を守るための防具を取りに行くのに、命を賭ける奴は少ないよ。冒険者になるような人達は訳ありだし、騎士団は専属の鍛冶屋がいるからね。」


「いるじゃない。ここに。あたし達、自分で言うのはなんだけど、そこそこお金あるわよね。どうして作ってもらわないの?」


「それが、この間の治療でスッカラカンなんだよ。」


「マッ?」


シキが信じられないといった表情で聞き返す。


「あぁ。マジだ。」


「信じられない。あんた達何にお金使ってるのよ。だから、準備の時に、安いモコモッコ羊の干し肉しか買ってなかったのね。」


「面目ない。」


勇者メンバーは、完全に報酬金を山分けして管理している。


報酬は活躍によらず均等に分けているからシキの貯金からするとかなり、使い込んでいることが分かる。


シキは、アホだが、以外と倹約家で貯金上手なのだ。


「まぁ。ここでたくさん武器を拾って売れば、少しは財布も暖まるんじゃない?」


「まぁ、無理な話じゃないが、ドワーフにバレると俺たち武具の素材にされるぞ。」


「なにそれ、こわいんですけど。ガイモンも冗談を言うのね。」


「冗談じゃないぞ。ドワーフは、その人にあった武具を作るプロで、そのことに並々ならぬこだわりを持っている。自分が作った武器が100%の性能を引き出せない人が使っていることは耐えがたい屈辱なんだよ。お金ほしさに乱獲して売るなら好きにしたらいいが、俺はごめんだ。ドワーフの怒りは買いたくない。冗談だと思うなら試してみるといい。その時は、俺は、君たちの遺品の武具で魔王を倒しにいくさ。」







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