第95話 勇者捜し

また騒ぎになるかと思っていたが、すんなりと入れた。


これで、勇者を探すことが出来る、探してどうするかは決めていないが、それは、見つけてから考えよう。


なんとかなるだろうし、まず見つけなければ何も始まらない。


この町は平地だが、町の中心地には城があり、その周囲の建物もレンガ造りで大きな建物が多い。


そこから離れて行くにつれて背の低い建物になっている。


間違いなく城がある方向が町の中心地だろう。


もう10日ほど前の情報になるが、勇者たちは療養中と聞いているから、もしこの町にいるのであれば、病院のような施設にいるに違いない。


まずは、病院を探してそこに勇者がいるか探していこう。


正直なところ、勇者たちと出会ったときは、人攫いのモブだと思っていたから顔をあまり覚えていない。


確実に言えることは、赤髪や金髪、ピンク髪と髪の色がカラフルだったことくらいだ。


まぁ、実際に出くわしたら思い出すだろう。


入域管理をしていた騎士の話では、草食系の亜人は路地裏を歩かない方がいいと言っていた。


襲われるようなことを言っていた。


正直襲われても負ける気はしないが、騒ぎを起こしたくないから路地裏には近づかないでおこう。


町の入り口からお城まで少し曲がりながら道が続いている。


道にはレンガが敷き詰められており、フルーレティーの領でも見た光る石埋め込まれている。


この辺りの店は飲食店や野菜などを売っている店が多いようだ。


すれ違う人達は人間種や人間種に近い亜人種が多くその中でも、主婦層が多いような気がする。


「おい見ろよ。見かけないモコモッコ羊の亜人だぜ。ちょうどいい。俺たちでやっちまおうぜ。」

「そうだな、害獣を駆除したら俺たちドブさらいから卒業出来るんじゃね。」

「あぁ、それに、モコモッコ羊の亜人なら誰も文句を言うまい。」


アスタロートの後ろから不穏な会話が聞こえる。


気づかれないように、チラリと後ろを見ると、中学生くらいの少年が3人いる。


亜人や魔人は、人間種より身体能力が高く、ひそひそと話しているようだが、会話が丸聞こえである。


隠す気が無いようにも思えるが、これは経験の差だろう。


他の人のコソコソ話は、アスタロートですら聞き取れないように耳打ちをするようにしている。


騒ぎは起こしたくないので、大通りを通ることにしていたが、このままでは騒ぎを起こされそうだ。


大通りで騒ぎを起こしたくないアスタロートは、何かを仕掛けられる前に大通りから離れようと脇道に逸れようとしたとき、頭に何かが当たった。


「イテ。」


反射的に振り返ると、2人の子供が石ころをさらに投げ付けてきて、1人は鉄パイプを片手に飛びかかってきていた。


「死ねやごらぁぁぁ。」


反撃しては騒ぎを大きくするだけに思えるから、飛んで来る石ころを腕でガードし、鉄パイプは当たらないように後方に避ける。


鉄パイプは空振りに終わり、レンガ造りの地面から乾いた音が響く。


「おぉ、いいぞ、ガキども。ぶっ殺せ。」


「ひぃ。なんで?」


アスタロートの疑問はもっともである。


悪ガキ達から襲われることは、門番から言われていたから分かるが、通行人が犯罪者側を応援することは理解できない。


普通止めに入らないの?


あらかじめ予想は付いていたが少年たちの動きからアスタロートの相手にはならない。


もう騒ぎが起こってしまったから早急に鎮めようかと思ったが、周りの大人たちが少年たちの行動を異常に鼓舞しているのを聞き、鎮めた後も騒ぎが続きそうだから脇道へ逃げようとするが、脇道から見るからにガラの悪い連中が脇道を塞ぎながら出てくる。


気づくとアスタロートは完全に囲まれている。


なんだろう。このアウェー感。怖いんですけど。


脇道はガラの悪い連中が、大通りは通行人たちに。


アスタロートの周囲は異様な熱気に包まれており、周囲の人達から命を狙われている雰囲気を感じ取ったアスタロートは自然と両手を挙げる。


おいおい。この町チョーやべーじゃん。


俺何もしていないんですけど。


「あの。私、状況が読み込めないんですけど・・・。私、何かしましたかね。」


「うるせぇ。知るか。俺たちは、今、モコモッコ羊を見るともう止まれねぇんだよ。今日、この日にこの町に来たことと、自分がモコモッコ羊の亜人であることをあの世で呪うんだな。」


裏路地から出てきたガラの悪い男が震える腕で鉈を構えながら話しかけてくる。


「えっ!?どういうことですか?」


通路から出てきたガラの悪い連中がアスタロートを囲う。


「悪いな、ガキども。ここは俺たちにやらせてくれ。腹の虫がおさまらねぇんだ。」


周囲の男たちはそれほど強くなさそうだが、怖い。


特に理由がないのに殺意を飛ばされていることが怖い。


これなら、アスタロートとバレて襲われた方がまだましだ。


「あなたたち、そこまでよ。白昼堂々、こんな大通りで何してるよの。どきなさい。」


男たちに囲まれて震え上がっていると人垣の外から声をかけられる。


助かったのか。


実際、この人たちに襲われても何とでも対応できが理由のない殺意から解放してくれそうな声の主に心から感謝するアスタロート。


「チッツ。これからだってのに、おい、ずらかるぞ。」

「へっ、運のいい奴め。」

「夜道には気をつけることだな。」


アスタロートを囲っていた男たちはそのまま歩いて去って行く。


すれ違い様に何人かに声をかけられたが、完全に目がいっちゃっていた。


町の野次馬達や最初に石を投げてきた少年達は残念そうにしながら日常生活に戻って行った。


「はぁ。またなのね。今日でもう2回目よ。」


「あぁ。この流れはまずいな。根本的な原因が俺たちというのが、なんとも言えんな。」


アスタロートを囲っていた人達が去ったことで、やっと救世主の顔を拝むことが出来るようになった。


黒髪の魔法使い風の男と弓を抱えたピンク髪の女だ。


2人を見て、消えかかっていた記憶が蘇ってくる。


間違いない、勇者の仲間の魔法使いとヒーラーの弓使いだ。


相手の反応から、こちらの正体は気づいていないようだが、まさか、助けられるとは思っていなかった。


「あの、助けていただいて、ありがとうございます。」


「いや、いいんだ。もとをたどれば俺たちも悪いんだ。」


「それよりも、怪我はなぁい?私、ヒーラーだから癒やせるよ。」


黒髪の魔法使いが声をかけてくるが、なぜ向けられているのか分からない殺意の理由を知っているようだ。


「いえ、怪我はないので大丈夫です。それよりも、なぜ襲われたのかの理由が分からないのですが、お二人はご存じのようなので教えて欲しいのですが・・・。」


「私達はこれでも、勇者の仲間でな。」


「えへへへ。そうなんだよ。驚いた?」


ピンク髪のヒーラーが親しげに話しかけてくる。


戦闘時は性格までは分からなかったが、かなり明るい性格みたいだ。


声色は、かなり特徴的でかなり高い。


「シキ、少し静かにしていてくれ。話が出来ん。」


それに対して、魔法使いは少しクールなタイプのようだ。


「えぇ~。まだ、そんなに邪魔してないじゃん。」


「じゃまな、自覚があるなら少し静かにしていてくれ。それで、今この町では、・・・。」


おい、確かに勇者達も原因ではあるが、それって俺のせいじゃん。






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