第96話 襲われた理由
魔法使い風の男の話によれば、アスタロートが勇者パーティーとバクマン、ポメラニスを撃破したことがきっかけみたいだ。
モコモッコ羊の角を持ちカラスの翼を持つアスタロートの姿や行動は、西国ではまた違った捉えられかたをしたみたいだ。
モコモッコ羊は、人間の間では温厚で大人しい性格から家畜として飼育がしやすく、食べてよし毛を取ってよし、乳を取ってもうまし、糞尿は肥料として優秀で家畜として非常に優秀な生き物のようだ。
モコモッコ羊の糞尿は肥料として良く、雑草などの発育が良くなる、そしてその育った草を自分たちで食べる。つまり、餌代がほとんど掛からないのだ。
そして、モコモッコ羊から取れる毛や乳も安価で提供することができ庶民の味方、繁殖が終わると最後は食べてよし。
悪いことがない、コスパ最強スーパー家畜なのだ。
そんな、従順で飼育しやすい家畜になるために生まれてきたモコモッコ羊は、中には極悪な環境下で飼育されていることもある。
それを問題視し改善に動き出したのが、モコモッコ羊教だ。
モコモッコ羊の教えは、モコモッコ羊に感謝と今まで家畜として飼育していたことを懺悔しモコモッコ羊神をあがめ奉るというものだ。
入信者は、モコモッコ羊が使用されている食べ物や衣服を普段使用してはならないとされているが、人々の生活に深く関わっているモコモッコ羊を切り離すことなどできず、信者はほとんどいない宗教だった。
そんな、弱小宗教も活動には資金が必要で、直ちに悔い改めて入信してモコモッコ羊をあがめ奉らなければ、いずれモコモッコ羊の化身に襲われるそれが嫌ならお布施を払えと脅迫じみた勧誘や資金調達を行っているはっきり言って迷惑集団なのだ。
しかし、ただの迷惑集団だったのが、アスタロートの出現により信者が増えたのだ。
モコモッコ羊の化身に襲われるというお金を脅し取る口実がアスタロートの出現で本当になってしまったのだ。
カラスは、神の使徒として表現されることがおおく、アスタロートの姿は、モコモッコ羊への非道な扱いに怒りをあらわにした神の使徒に捉えられたためである。
神の怒りに触れたと思い込んだ人達はこぞってモコモッコ羊教へ入信するために、モコモッコ羊総本山がある町へと移住したのだ。
信者が目に見えて増え始めたのは、バクマンとポメラニスがアスタロートに破れてからであり、雷光のピィカですらアスタロートを仕留めることが出来なかったことにより爆発的に信者が増えていった。
中には過激な者も現れ、モコモッコ羊を飼育している牧場が襲撃されモコモッコ羊解放運動もおこっていたりする。
そういった過激な活動が盛んであるのは、モコモッコ羊事業を盛んに行っている町やモコモッコ羊教総本山がある町であり、今回アスタロートが訪れたイメジッコ町では、モコモッコ羊教の活動はほとんどない。
しかし、その反動で、西国のあちこちでモコモッコ羊が不足しており、西国では前代未聞のモコモッコ羊ショックが起こっているのだ。
町の住民はモコモッコ羊教に怒りを覚えているが、怒りを向ける矛先であるモコモッコ羊教の信者はいない、そこでストレスのはけ口として矛先が向いたのは、草食系の亜人であるのだ。
町の入域管理をしていた騎士が言っていたのはアスタロートがそういった、迫害の対象にならないために裏路地への立ち入りを注意していたのだ。
「なるほど、事情は分かりました。助けていただきありがとうございます。」
「えへへへへ。気にしないで。もとはと言えば、私達があの亜人に負けちゃったのがいけないのよ。」
「その、亜人はどんな人だったんですか?」
アスタロートは、自分がどのように思われているのか気になり聞いてみる。
「うーん。背が高くて大柄だったわよ。ちょうど、背格好はおねぇさんと同じくらいかなぁ。ただ、噂通り、モコモッコ羊の角にカラスの翼が生えていたわ。こーんな。つり目で憎たらしい奴よ。」
ピンク髪の弓使いが、人差し指で目をつり上げて見せる。
私はそんな目をしていない。
「ハハハ。最後のつり目は置いておいて、非常に凶暴な奴だったよ。あの雷光のピィカでもやられたと聞いたときは、驚いたよ。まさか、そこまでの腕の持ち主だったとは思わなかった。」
「何言ってるよの。ピィカ様は、私達の時と違って、あのフルーレティーとアスタロートの二人を相手にしていたのよ。それに、アスタロートにもかなりの深手を負わせたって言っていたじゃない。きっと、今頃どこかでくたばってるわよ。」
「俺たちが戦ったときもフルーレティーはいたぞ。それに、ピィカさんが復帰した後にアスタロートと戦った場所に行ってもいなかったそうではないか。奴は生きているさ。」
はい、その通りです。今あなたたちの目の前にいます。
「まっ、生きていたら次は、ぎったんぎったんにしてあげるんだから。私達を生かしたことを後悔するがいいわ。」
ピンク髪の弓使いは鼻息を荒くして握った拳をもう片方の手のひらに打ち付けている。
「そのためには、今日も修行だな。」
「まぁ、そうね。ホムラとライザーが復帰するまでに少しでも強くならないとね。待ってなさいよアスタロート、私の弓で射貫いてあげるんだから、命乞いしても助けてなんてあげないんだからね。」
そう息巻くと、弓使いは、町の入り口の方へと歩いて行った。
アハハハハ。助けない宣言をされたけど、実はもう助けられたんだよな。
「では、私達はこれで失礼するよ。君もすぐにこの町を出た方がいい。他の町では、こんな亜人迫害が起こっているなど聞いていたい。それに、君ならモコモッコ羊教総本山のシンシン町に行けば手厚い保護を受けられるだろう。まぁ、ここからではかなり距離があるがな。少なくても、必要がなければ町の外で過ごした方がいい。この町の亜人達は、町の外の森で生活するか、部屋に閉じこもっているかの二択だ。」
「はい、ありがとうございます。用がないときは、町を出ることにします。」
「そうか、そうするといい。では、私もこれで失礼するよ。」
「あの、これからどちらまで?」
「あぁ、町の外で修行するんだ。強くならないといけないからな。」
「そうなんですね。頑張ってください。」
アスタロートは、魔法使い風の男を見送る。
まさか、この町に来てすぐに目標を達成することが出来るとは、思っていなかった。
当初の目的の勇者パーティーを見つけ出すことも出来たし、それに接触することも出来た。
勇者にもアスタロートの正体がばれていないことから、この変装は正解のようだ。
ツチノッコンのアイディアというのが少し癪だが・・・。
接触できたのは、遠距離攻撃を仕掛けてきた二人で、盾持ちのランサーと赤髪のおそらく勇者であろうやつはまだ、戦線復帰していないようだ。
そこまで、強く倒した覚えはなかったが、今になって思う。
死んでなくて良かった。
今更ながら嫌な汗が、背中を伝う。
勇者が立ち去ってから、後ろでコソコソ隠れていた先ほどの少年達が3人同時に飛びかかってくる。
「「「死ねやこらぁぁぁ。」」」
襲われる理由が分かったからにはもう、変に遠慮する必要はなくなった。
ゴンゴンゴン。
振り返りげんこつを3つ少年達に落として、アスタロートも立ち去る。
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