第91話 完治の朝

ノーズルンと一緒にバクバクの巣へ向かうアスタロート。


アスタロートの手には、昨日取ってきた花が二つ左右の手に包まれるように運ばれている。


後ろ手に組んだ手は、アスタロートの不安を少し表している。


「ここは、さっきも通りましたよ。」


「あぁ。そうだよね。たしかこの辺りだと思うんだけど。あっちの方に行ってみようか。」


アスタロートは、記憶を頼りに歩いて行くが、森の中で目印になるような物がなく同じような場所を行ったり来たりする2人は、ほぼ迷子になりながらバクバクの家を探していた。


ほぼ迷子というのは、アスタロートは迷子だが、ノーズルンが来た道をしっかり覚えているから迷子になっていないのだ。


「ここらだと思うんだけどなぁ。少し大きな木の根元を巣にしているんだよ。」


アスタロートは、ごまかすように言うが、正直もうどこら辺なのか見当もついていない。


「この辺りは、ナーガさんの巣だと思いますよ。」


そう言うと、ノーズルンが少し呆れたような顔をして言う。


おそらく、今のノーズルンの顔を見て呆れたような顔をしていることに気づくのは極々限られた人のみだろう。


そして、ノーズルンの視線が痛い。


何も言ってこないが、どうして迷うのか不思議に思っているようだ。


「ん!?どうして、そんなこと分かるんだ?」


「だってほら。」


ノーズルンが木の上を見上げると、木の幹の上に寝そべっている魔人がこちらを見ている。


上半身は人間で、下半身は蛇になっており、瞳は猫のように縦長だ。


今まで、周囲ばかり見ていて上を見ていなかったが、木々の間には、ツタが何本も結ばれており、吊り橋のようになっており、何か荷物が置かれていたりする。


ツタはかなり広い範囲まで広がっており、どこまで続いているのか分からない。


「おぉ、本当だ。」


「やっと気づいたのね。隣の脳ぐらいは気づいていたようだけど、アスタロートさんはかなり強いと聞いていたけど、かなり鈍いのね。それとも、強いから警戒心が欠如しているのかしら。しばらく私の巣の下を行ったり来たりしていたわよ。で、こんな朝っぱらから何の用かしら?」


ナーガの魔人は蛇特有の長い舌をチロチロと出し入れしながら、尻尾で幹を掴み体をアスタロートの近くまで寄せてくる。


ノーズルンは、少し距離を取りアスタロートの後ろに身を隠すような位置に立つ。


「あぁ。バクバクの巣を探しているんだ。この辺りだと思うんだけど迷ってしまって。」


「そうなのね。それなら、向こうの方へ真っ直ぐ進んだら少し大きな木が見えるから。」


「ありがとう。助かったよ。」


「えぇ。今度、何か手伝ってくれたらいいわ。」


ナーガの魔人が木の上に戻って行くのを見届けてから、出発する。


しばらく、歩いて行くも、バクバクの巣らしき木は見つけられない。


「アスタロートさん、少し右に曲がって行ってますよ。」


「えっ。そうなの?」


「はい。こっちです。」


ノーズルンが、左斜め方向へ進んでいく。


しばらく、歩いて行くがそれらしき木が見つからない。


少し行き過ぎたかと思い始めた頃、見慣れた白い髪の魔人がいた。


「おぉぉぉ~~~。2人ともどうったの?」


いつものように、おっとりした声で挨拶するバクバク。


視線を下に逸らすと、バクバクの脚には大きな葉っぱが二つ巻かれている。


おそらく、アスタロートを運んだ際の筋肉痛で何か薬草的な物を巻いているのだろう。


「バクバクを探していたんだよ。その脚、まだ痛むの。」


「あぁぁ。これ、かわいいでしょ。気にいったから付けてみたんだぁ~~。でも、すぐ剥がれちゃうんだけどねぇ~。」


「ふーん。いいんじゃない。」


間際らしい、ファッションかよ。


脚が痛むのかと思ったよ。


アスタロートは、心の中で盛大に突っ込む。


正直、大きな葉っぱを脚に巻いて何がいいのか分からない。


「でしょぉ~。それで、どうしたのぉ~?」


バクバクは、その場でくるりと1回転して見せると、回ったことにより葉っぱが一枚剥がれ落ちる。


バクバクは、葉っぱを拾い脚にまき直す。


やっぱり何がいいのか分からない。


「あぁ。この前、助けてもらったからな。そのお礼に花を持ってきたんだよ。助けてくれてありがとうな。」


アスタロートが花を1つ前に渡すと瞬時に、手が温かい何かに包まれる。


バクバクが右手ごとしゃぶりついたのだ。


バクバクの口は大きく、アスタロートの手も一緒に口の中に入っている。


早い、反応出来なかった。


「おい。この花は食用じゃないし、俺の手も花と一緒にしゃぶるな。」


バクバクは、花とアスタロートの手を口の中に含んでから顔をしかめると、逆再生のように、花と手から口を離す。


口から少し粘液まみれになった、しよれた花が出てくる。


この花はもう駄目かもしれない。


ある意味で、予想道理のリアクションで安心するアスタロート。


「んんんん~~~。にがいねぇぇぇ。この花は好きじゃないねぇ~~。」


「ほら、バクバクが宿屋に返す花を探しているって聞いたから、助けてくれたお礼に持ってきたんだよ。」


「おぉ~そうなの!助かるよぉ~~。でも、ごめんね、ごめんねぇ~~。せっかく摘んできてくれたのに、この花はもう駄目だね。」


バクバクが申し訳なさそうに花を見ると、茎が折れてぐったりしている。


見るからにこの花はもう駄目だ。


だが、花が食べられることは想定内だ。


「はいこれ。同じ花だよ。」


「バクバクさんは、花を見るとほとんど何も考えずに食べてしまいますもんね。もう1本同じ花を用意していたんですよ。」


「えぇぇ~。苦い花はいやだよぉぉ~。」


「いや、この花は宿屋さんに返しに行く花だよ。バクバクさん甘い花だと宿屋さんにもって行く前に食べてしまうでしょう。」


「おぉ~。そうだったんだ。これ、宿屋さんにもって行く用の花だったんだねぇ~。ありがとぉ~。最近なんで花を探していたのか、すっかり忘れていたよ~。」


「おい。忘れるなよ。」








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