第85話 完治までの日々 花探し

「ノーズルン、あの花はどうだ?」


「あの花でもないですね。」


あれから、しばらく二人で花を探しているが、目当ての花が見つからない。


「少し、手分けして探そうか。赤い花を見つけたら採取しておくよ。」


「はい。分かりました。では、私はあちらの方を探してきます。」


あたりを探していると、少し甘い匂いが漂ってきた。


なんの匂いかと思い、匂いを辿っていると今まで見たことのない赤い花を見つけた。


「お、いい花があるじゃん。」


おそらく甘い匂いから目当ての花ではなさそうだが、匂いから食べるとおいしいかもしれない。


バクバクに渡すと喜んで食べるかもしれないと思い、茎をしっかり掴むアスタロート。


茎を握った瞬間に、地面から花の根っこがうねうねと出てくる。


「ぎゃぁ。」


驚いて、尻もちを突くアスタロート。


花を放して振りほどこうとするも、花は意識があるかのように蠢きアスタロートの腕に絡んでくる。


一瞬びっくりしたが、根っこも短くアスタロートの肘までしか絡んでこない。


これは面白いものを見つけたと思い、ノーズルンへ見せようと思ったところ、ノーズルンが悲鳴を聞きアスタロートの様子を見にやってきた。


「ノーズルーン。面白い花見つけたよ。」


尻もちを突いた姿のまま、ノーズルンに左腕に絡みついている花を見せると、ノーズルンが大きな口を開け驚いている。


なんとなく、ノーズルンの感情が読み取れるようになったアスタロートだが、驚いた真意までは読み取れずのんきに、花を見せびらかしている。


「フシャァァァァー。アスタロートさんすぐに放してください、それ花じゃなくて魔獣ですよ。」


「えぇ!?こいつ腕に絡みついてくるだけで、何もしてこないぜ。」


そんなことを言っていると、ノーズルンが根を引っぺがし地面に投げ捨てて攻撃する。


「クアトロウィンドスラッシュ」


ノーズルンの4本の腕から続けさまに風の斬撃が繰り出されるが、地面に投げ出された花の魔物は危険を察知したのか根っこを動かし森の奥の方へとすっ飛ぶように走って逃げて行った。


「ちっ、逃がしてしまいましたか。」


ノーズルンに強引に引きはがされたため少し腕に根が張り付いたままになっているが、それを指で掴んで捨てる。


いまだに、状況を理解しきれていないアスタロートが質問する。


今さっきの魔物は、せいぜい腕に張り付くだけで何もしてこない、ノーズルンが慌てるほどの魔物にはとても見えない。


「あれは、何だったんだ?」


「あれは、マンドラゴラの一種で、魔獣や人の血や魔力を吸って生きる魔物です。」


腕に残っている根っこを取り払うと複数の虫にかまれたような赤い点々が見える。


「へぇ~。あいつ、血を吸ってたんだ。」


「へぇ~。血を吸っていたんだ。じゃないですよ。栄養を十分に確保したマンドラコラはさなぎとなり、より強力な魔獣へと変体するんですよ。アスタロートさんの体調はどうですか。」


「え。大丈夫だけど・・・。」


そう言われると少し気だるくなったような気がするが、気のせいだろう、体調はもともと良いとは言い切れない。


「なら、いいのですが・・・。一応ギルドに報告しておきましょう。マンドラゴラが変体して強力な魔物になるなる可能性もありますし、まぁ、さなぎの状態で見つけることが出来たら誰でも捕まえれますし大丈夫なんですがね。それに、さなぎのマンドラゴラ、おいしいんですよ。」


「へぇ。そうなんだ。」


でた、この世界の人は何でも食べるのだろうか。


この世界で出会った生き物で食べられない生き物に出会ったことの方が少ない気がする。


「おや、あまり興味がないんですか。人間たちの間でも、焼いて食べたりしているようですよ。」


「いや、遠慮しておくよ。」


さなぎになって変体するということは、マンドラゴラは間違いなく昆虫の仲間だ。


日本でも蜂の子やイナゴなんか食べてはいるが、得体のしれない昆虫を食べるのは嫌だ、というか俺は、蜂の子もイナゴも食べたことなんてないし食べたいとも思わない。


そんな俺が、火を通そうが昆虫を食べるはずがないだろう。


「えぇ、アスタロートさんは食にうるさいんですね。」


「いや、うるさいとわけでは―――。」


前世では、普通の食卓に並ぶ食材では特に好き嫌いなく何でも食べていたが、この世界の基準では食べず嫌いの偏食家なのかもしれないと思ったアスタロートは途中で訂正する。


「―――いや、偏食家かもしれないな。」


「シュシュシュシュシュ。自覚しているようで安心しました。まぁ、私も偏食家なんですけどね。シュシュシュシュシュ。」


「アハハハハ。」


ノーズルンの笑いに合わせて愛想笑いするアスタロート。


ノーズルンは脳みそしか食べないと思うと少しも笑えない。


実際は、脳みそ以外も食べはするが、それは、脳みそを確保できなかった時だけだ。


「あっ。アスタロートさん。ゴクゴックツリーですよ。すこし休憩しませんか?」


ノーズルンが、一本の木を指さして休憩を打診してくる。


ゴクゴックツリーがなんの木なのか知りはしないが、見たところ大きな果実が実っている。


「いいけど、この果実は食べられるのか?」


「シュシュシュシュシュ。この木も知らないんですね。」


大きな木にココナッツの数倍はあるサイズの木の実が複数実っており、木の実にはツタが絡まっており、木の根元で幹につながっている。


よく見ると、木の実はツタにしかつながっておらず、木の枝には引っかかっているだけだ。


ツタは木の根元で幹に繋がっているから、おそらくこれで一つの植物なのだろう。


「あぁ。こんな木も知らないよ。」


「この木は、枝にぶら下がっている大きな木の実に水を蓄えるたまに見る珍しい木なんですよ。雨が降らなくなると蓄えている木の実から伸びているツタをつたって水を補給するんですよ。旅人はこの木を見つけたら、こうしてツタを切って、ツタから水を飲むんですよ。」


そういうと、ノーズルンは手に届く場所のツタを切りツタを管状の舌の中に入れ、ごっくんごっくんと飲みだす。


水を口の中一杯にため込んでから、一気に飲み込む方法は、以前脳みそをすすっていた時と似ており、口の中にため込んだ水塊を飲み込むとそれに合わせて口や首が膨れ上がったりへこんだりしている。


最初ソレクレンチョウの脳みそをすすっているところを見たときは、衝撃が強すぎて気絶してしまったが、何度も見ていると馴れてくるというものだ。


飲み始めこそ驚いたものの、すぐにどのようにして水を飲んでいるかの興味の方が大きくなる。


水を飲むたびに膨れ上がる喉や舌を見るに、話しに聞いていたように魔人ではなく魔獣なのだろう。


ノーズルンを見つめすぎていたのだろう、少し気まずそうにノーズルンが飲みますかと

ツタを管状の舌から抜き出し差し出してくるが、さすがにそのツタをしゃぶる気にはなれない。


「いや、自分でやってみるよ。」


アスタロートは、手ごろなツタを氷のナイフで切ってみると、水が顔にかかってきた。


ブシュ。






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