第82話 完治までの日々 花探し

「ノーズルン、どこまで行くんだ?」


友人になったから一緒にどこかへ行こうと誘われて、一緒にバクバクに贈る花を探しに行くとことになった2人は草をかき分けながら茂みの奥の方へと向かう。


「もう少しです。この茂みの奥の一帯ならバクバクさんへの贈り物にぴったりな花が見つかるはずですよ。」


ノーズルンは、草を押し倒しながら進んでいくが、進む先の茂みも少し倒れている。


おそらく、普段から誰かがこの通路を通って花を見に行っているのだろう。


前を歩くノーズルンは草をかき分けながら進んでいくが、後ろを続くアスタロートは比較的簡単に歩け、体への負担は少ない。


ジャンプをしたり、飛び降りたしすると体に痛みが走るが、普通に歩く分には痛みはほとんど感じなくなってきている。


薬が効いていることもあるが、アスタロートの亜人としての種族として治りが早いことがおおきい。


前を歩くノーズルンは、細い腕をしており、脚も細い。


脚は成人男性の腕くらいの太さで、腕は細いところで指3本分くらいの太さだ。


町に居る魔人達はもう少し人間の要素を多く持っているようだが、前を歩くノーズルンは人間の共通点がほとんど無い。


王都であった技将ベーゼルも蝿のような見た目をしており、人間とはかけ離れていた。


「人間の特徴に近い魔人の方が多いように見えるけど、ノーズルンみたいな魔人って少ないの?」


アスタロートは、少し気になったことを聞いてみた。


「えぇ。そうですね。知将の町では少ないですが、技将の町ではそれなりに多いようですよ。」


「へぇ。そうなんだ。どうして、知将の町にはそういった魔人が少ないんだ?」


このまま、黙ってノーズルンの後ろを着いていくのも嫌なので、話題を広げていくついでにこの世界の情報を集めていくアスタロート。


「それはですね。知将の町が比較的最近出来た町で、技将の町は昔から魔人が集う集落だったからと言われています。」


「ん?どうして最近の町だと人間種に近い種族が多いんだ?」


「大昔は、純血種の魔人と純血の人間種しか居なかったと言われているのは知っていますか?純血種の魔人は東国の王都や技将の町に集落を築き生活していたんですよ。そのうち、外に旅していく人が増えたんですよ。そして、出会ったのが純血の人間で、混血していったんですよ。混血して生まれた新しい種族、純血の人間と魔人から生まれた人を亜人と呼んでいたんですが、時が流れるにつれて人間と亜人、亜人と魔人の境界は少しずつあやふやになってきていたんですよ。」


「おぉ、そうなんだ。詳しいんだな。」


適当に、聞いたアスタロートだったが、思いのほかしっかりした回答が返ってきた。


どうやら、ノーズルンはかなり物知りらしい。


「はい。種族柄、知識は得やすいのです。」


そういえば初対面の時に、生き物の脳みそを食べたら食べた生き物について詳しくなると言っていた。


やたらと物知りなのは、もしかしていろんな人間を食べて知識を得たとか?


いや、まさかな。ノーズルンは、話していて分かるが、知的で穏やかな性格だ。そんな、人間の脳を食べるようなことはしないだろう。


「そういえば、脳みそを食べた個体の情報を得れられ―。」


「知ってますか?フルーレティー様は西国出身みたいですよ。」


アスタロートが口にしようとすると、ノーズルンが話を被せてきた。


「へぇ~。そうなんだ、すっかり東国出身の魔人だと思っていたよ。」


「はい。アスタロートさんもだまされていますね。フルーレティー様の容姿を良く思い出してください。あの容姿からだと本人が亜人と言ってもおかしくないんですよ。私の見立てては、かなり人間の血が濃いバードマンとの混血亜人ですね。」


確かにそうだ、あまり気にしていなかったが、フルーレティーやバクバクはあまりにも人間的な特徴が多い。


「ということは、フルーレティーやバクバクは亜人なのか?」


「そうなのかも知れませんが、本人が魔人と言えば魔人でいいんじゃないでしょうか?」


「えっ。人種ってそんな適当でいいの?」


「シュシュシュシュシュ。」


前を歩くノーズルンから笑い声が聞こえる。


あまりにも人間とかけ離れた、空気がこすれるような笑い声にアスタロートは一瞬何の音か分からなく、ノーズルンの肩が上下に動いているのを見て笑っていることが分かった。


「何がおかしいんだよ。」


この世界の常識から考えると変なことを言ってしまったのかと思い、気が気でないアスタロート。


今までの会話を思い返しても特段笑われるようなことはなかったはずだ。


「シュシュシュシュシュ。怒らないでくださいね。」


「あぁ。どうしたんだよ。」


「アスタロートさんは、その、少し人間くさいところがありますね。」


アスタロートからの返事を聞いて少し安心するアスタロート。


魔人や魔人寄りの考えを持った亜人に、人間くさいですねなって言ったら機嫌を損ねられるが、アスタロートに取っては気にするようなことではない。


むしろ、人間だったのだからそう感じたのであればある意味で正しい。


「ん?そうか?」


元々人間だったアスタロートだから人間みたいと言われても変ではないが、今の会話のどの辺りが人間っぽかったのか理解できない。


「えぇ。自然のものを何かの型にはめようとするのが人間くさいですね。各個人のありのままを受け止めればいいんですよ。本人が亜人と言えば亜人、魔人と言えば魔人でいいではないですか。」


「そんなものでいいのか?」


「東国では、そういうものですよ。」


東国ではそういうものだと言うことは、西国ではそうではないと言うことだ。


「それにしても、アスタロートは西国出身なのに良く東国の知将になれたな。」


「えぇ。私も良くは分かっていないのだけれど、噂によると前回の勇者襲撃事件時に無名から一気に知将まで登り詰めたみたいなんですよね。まぁ、無名から一気に出世したのは魔王様も同じなんですけどね。どうやら、3将の中で知将のフルーレティー様が一番今の魔王様に気に入られているみたいですよ。私はフルーレティー様がその頭脳を活かして今の魔王様を勇者から守ったのだと考えているんです。」


ノーズルンが後ろを振り返り喰い気味に答えてくれる。


「おっ。おう。そうなんだ。顔が近いぞ。」


アスタロートは、近づいてくる人外の顔に一瞬固まるも、平然と指摘する。


ノーズルンが近づいてきても取り乱さずに対応できる位には、ノーズルンの顔を見慣れてきた。


近づかれるとまだ少し恐怖を感じるが、慌てふためくほどではない。


「すっすいません。つい熱くなっちゃって・・・。でも、フルーレティー様や魔王様に謎が多いのは事実なんです。」


少し、冷静になったのか少し声のトーンが落ちて前を向き歩き始める。


「それにしても、ノーズルンは物知りなんだな。」


「アスタロートさんは馬鹿にしないんですね。」


「ん?どうして馬鹿にする必要がある。色々知っているんだ、褒めこそすれ馬鹿にすることは無いよ。」


「シュシュシュシュシュ。やっぱりアスタロートさんは人間くさいですね。同じパーティーメンバーには、人間くさいと言われて邪険に扱われるのですが、アスタロートさんとは仲良く出来そうで良かったです。」


「そうか、それは良かった。」


俺は、ノーズルンと仲良くなれるか不安だけどな・・・。


見た目だけならそうだが、少し話した感じ今まで出会った人の中で一二を争うほど会話が弾んでいることに、アスタロートは気づいていない。









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