第71話 帰ってきた町 リザリン
肩の部分に巻かれていた包帯を丁寧に外して、上半身に巻かれていた包帯を緩めていくと肩の傷の具合が少しずつ見えてきた。
傷は深いようで、皮膚が渓谷のように割けている。
深い傷は左肩から始まり、肩甲骨・左翼の付け根を通り腰のあたりまで続いている。
記憶では広範囲にやけどのような跡があったが、それは完治しているようだ。
割けているところは血が固まっており、溶岩のようになっている。
自分の傷をまじまじと確認していたところにがさがさと木が揺れて突如誰かがやってきた。
「よぉ。アスタロート、目を覚ましたんだってな。体調はどうだ?」
リザリンが、急にフルーレティーが止まっていた木の枝に飛び乗ってきた。
しまった。
今のアスタロートの格好は見えてはいけないところは隠れているが身に着けているのは緩めた包帯だけで、かなり煽情的な恰好だ。
流石に不用心すぎたアスタロートが悪い。
が、困ったことに、どう反応するべきか分からなくなる。
アスタロートはもともと男だから感覚がおかしいのだろうが、リザリンに見られて嫌というわけでもないし、それにリザリンはリザードンの魔人でアスタロートは亜人だ。
前世基準で考えると、人間がサルやチンパンジーといった人間に近しい動物の裸を見たような状況だ。
アスタロートの本能が問題ないと告げるが、前世の知識が女性は恥ずかしがるものという固定概念が働く。
アスタロートの思考が巡り固まっていると、リザリンが平然と話し始めた。
「なんだ?怪我の様子を確かめていたのか?」
リザリンが、アスタロートの様子を確認していつも通り平然と対応する。
それを見たアスタロートは、本能的な感覚が合っていたと確信する。
やはり、人がチンパンジーの裸を見ても何も感じないのと同じようだ。
「あぁ。まだ体は痛むけど、気分はいいよ。」
他種族の裸を見てもそれほど過剰に反応しないことは理解したが、このままの格好でいるのも変なので、アスタロートは丁寧に包帯を巻きなおしていく。
実際はそうではなく、アスタロートの体をみたリザリンはアスタロートにぶん殴られると思い、それまであえて平然とした対応をしただけなのだ。
そして、怒られなかったリザリンは、心の中でセーーーフと思いつつも、どっひょぉぉぉぉ!ラッキースケベ、最高だぜーーーと喜んでいた。
アスタロートは、鏡がなく自分の顔を正確に把握していないこともあり、容姿に無頓着だが、リザリンにとって、アスタロートのプロモーションは絶妙なバランスを保っておりかなり魅力的に映っている。
アスタロートは、勘違いしているが、この世界の亜人は魔人と人間種の混血種だ。
この世界は、魔人と人間種の混血化が進んでおり、純粋な魔人や人間種は人口の半数程度であり、魔人の中でも、人間の血が少し混ざっているものが多い。
魔人、亜人、人間の見分け方は、パットした見た目で判断されることがおおく、明確な判断基準があるわけではない。
そんなことはつゆ知らずアスタロートは淡々と包帯を巻きなおしており、リザリンはアスタロートの姿を目に焼き付けようとしたが、あまりにもアスタロートがリザリンに見られているのにも関わらず平然としているので、自分が異性として見られていないと感じうれしい反面少し残念にも思っていた。
当然、俺に見られてもなんとも思わないのかなんて言えるわけもなく、先ほどの流れのまま、いつも通り気にしないように会話を続けていくことしかできなかった。
「あぁ。そうか。すまなかったな。すぐに戦線離脱してしまって・・・。お前のケガをみたら、想像を絶する戦いだったってことが分かるぜ。あと、ありがとうな。特記戦力を無力化してくれて、みんな無事に帰れたぜ。」
リザリンは、ちらちらとアスタロートの方を見ながら当初予定していた気持ちよりも上乗せして、いろんな意味を込めて礼を言う。
そんなリザリンの様子を、アスタロートは礼を言うのを照れくさがっているようにとらえたが、本当は、ただただ見えそうで見えないものを直視したい本能と理性が拮抗した悲しき獣の姿であった。
礼を言われたことに、アスタロートの顔がほころぶ。
アスタロートの原動力はファンからの応援や感謝の気持ちであることが多い。
リザリンの言葉一つだけでも、アスタロートにとってまた戦う理由になりえるのだ。
「気にするな。リザリンも無事でよかったよ。」
アスタロートは左肩で包帯を結ぶのに苦戦していたが、一度中断して振り返り笑顔でそう返す。
リザリンは、アスタロートの笑顔をみて雷に打たれたかのような衝撃が走る。
「うつくしぃ。」
リザリンは、今までフルーレティー一筋で、自分を押しのけて側近に就いたアスタロートのことを当初あまり好ましくは思っていなかったが、今の笑顔をみてアスタロートに乗り換えようかなと思うほどの破壊力で、ぽつりと思った言葉が出てきた。
「ん?なんて言った?」
再び、包帯を結ぶことに集中していたアスタロートにはリザリンの言葉が聞き取れなかった。
「へへへ。リザードンは体が丈夫なのが売りだからな。数日経てばいつも通りさ。そうだ、寝起きで腹が減っているだろう。ほら、果実をとってきたんだぜ。三日も何も食べてないんだ遠慮せずに食え。」
リザリンが身振り手振りで大丈夫なことを教えてくれるが、アスタロートは、もっと別のところで気にかかる。
「えっ。三日も立っているのか?」
リザリンの口から衝撃の言葉が飛び出る。
「ブルァーッハッハッハッハ。なんだ。知らなかったのか。まぁ、無理もねぇ。お前は寝てただけだもんな。寝て起きて、分かることは、今が昼か夜かくらいなもんだ。ほら、上を向いて口を開けろ。」
果実を受け取るのに、上を向いて口を開ける意味が分からない。
もしかして、もっと他の可能性があるのだろうか、あるとしても想像ができないし、過去のことを振り返ってみても怪しい予感しかない。
リザリンが突如意味の分からないことを要求してくるから、不審な目で見つめる。
「・・・。」
「何を怪しそうな眼で見つめているんだよ。フルーレティーが、最初は飲み物がいいからこれを飲ませてやれって、言われたんだよ。上を向いて口を開けたら絞ってやるから口を開けろよ。」
「いいわ。自分でしゃぶりつくわ。上で絞ったら果汁が飛び散って巣の中がべとべとにんるじゃないか。」
本当に、油断も隙もあったものじゃない。
いうことを聞いて口を開けていたら、今頃、あちこち果汁まみれだ。
いままで、経験してきたオオナメクジの出汁やソレクレンチョウの生き血に比べるとだいぶつつましかったからいいけど・・・。
はぁ、この世界の食事や生き物関係は要注意だな。
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