第65話 特記戦力 ピィカ戦

冷気の斬撃を周りの木々を蹴りながら避けていくピィカ。


範囲攻撃で行く手を阻んだ後、氷の槍を生成し投擲するが、簡単に剣ではじかれる。


ピィカに近づかれたくないアスタロートは、森の奥へと移動しながら冷気の斬撃や氷の槍を投擲しながら距離をたもつように移動するが、ピィカも接近戦に持ち込むと冷気のダメージを受けるため不必要に近づかずに中遠距離で戦うことを考えている。


ピィカの攻撃も相手を痺れさせることが出来るため、接近戦かつ耐久戦に持ち込むことも可能だが耐久力の高い亜人相手に分が悪いと思い接近戦から中距離戦へと移行した。


奇しくも戦い方が被った二人は東国の方へと少しずつ移動しながら戦う。


ピィカは、アスタロートよりも纏えているオーラ量が少ないため、魔法は連発出来ないが、遠距離攻撃で隙を作って、近距離攻撃で一気に方をつける算段だ。


アスタロートと平行するように森の奥へと走りながら攻撃を躱していたピィカは、木の幹を駆け上がりアスタロートの攻撃を躱しきり、そのまま空中へ飛び上がり身を翻しながら攻撃を放つ。


「電流双龍波。」


一際大きく輝いた剣は、2体の青紫色の龍をかたどった雷の攻撃を解き放つ。


「アイスウォール」


突如出現した雷の龍を見たアスタロートは瞬時に氷の壁を作り対応する。


アスタロートの対策に思わずピィカの顔がほころぶ。


雷の龍が出現仕切った瞬間、周囲の木々をなぎ倒し焦がしながら襲ってくる。


オーラをうんと込めた氷の壁は雷龍を難なく受け止めるが、着弾点から雷が破門状に伝わってくる。


波紋は、氷の壁を伝い反対側のアスタロートがいる場所へ瞬時に伝わってくる。


氷の壁を生成して防いで終わりだと思い込んでいたアスタートには反応できない。


「しまっ、ぎゃぁぁ。」


気づいたときには遅く、アスタロートは感電する。


今までピィカの近距離攻撃を受けた時の比ではない痛みが体を襲い、電気が流れたことで体の自由が奪われる。


「雷襲斬!」


ピシピシピシピシ、パリン。


ピィカの攻撃により氷の擁壁が粉々に砕け散り、奥からピィカが急速に近づいてくる。


体の自由が奪われたのはほんの一瞬だが、ピィカが接近するには十分な隙だ。


未だに地面に横たわっているアスタロートにピィカが襲いかかる。


ガキン。


氷の斧でなんとか受け止める。


電撃による痺れに体が順応し始めたのか、痺れからすぐに回復しピィカの攻撃を受け止めることが出来た。


「うぉらぁぁ。」


火事場のバカ力がそうさせたのか、ピィカを押し返し、体を立て直す。


予想外のパワーと冷気で押し返させられたピィカは、アスタロートのパワーに身を任せて距離を取る。


「ハァ。タフな奴め。オーラ武装持ちの亜人はタフだな。普通の亜人ならしばらくは動けてないぞ。」


「いや。十分、動けなかったさ。」


今の攻撃はまずかった。


間一髪動けて攻撃を受けられたが、もう少し遅れていたと思うとゾッとする。


あの攻撃は、物陰に隠れるだけでは駄目だ。


自分も魔法をぶつけて相殺させるか、大きく避けるしかない。


物を伝わるように電撃が走ったため、空を飛んで回避するのが確実だ。


あんな技、出来れば二度とくらいたくはない。


凄い痛かった。


ピィカが纏っているオーラは半分くらい消費しているが、アスタロートも半分ほど消費している。


フルーレティーに強化された今、オーラ総量はアスタロートの方が多いが、消費率が同じだ。


アスタロートは戦闘経験が未熟で、オーラを無駄に消費しているが、ピィカは無駄にオーラを使用せずに最小限の消費で押さえている。


流石、特記戦力と呼ばれているだけのことはあるようだ。


まだ体の先端が痺れる。


近距離も遠距離も両方とも抜け目がない。


ソレクレンチョウにペンダントを奪われた際に今の遠距離攻撃をしなかったのは、自身のペンダントを壊したくなかったからなのだろう。


今すぐにでも逃げ出したいアスタロートだが、ノーズルンや他の亜人達、抽選に受かった人のことを考えるとどうにも逃げだそうとは思えない。


それなりに時間は経っているから、彼らも距離は稼げているだろうし、森の中の移動だから発見は困難かも知れないが、ピィカの速さがあれば見つかる可能性が高いだろう。


もう少しだけ粘って十分逃げ切れそうな時間を稼げたら逃げよう。


いや、駄目だ。


そんな逃げ腰では甘い。


あいつを倒すくらいの気概がないとやられてしまう。


戦闘に強い役には、決まって戦闘中での後ろ向きな台詞がない。


常に自分が出せる最大限の成果を求めて冷静に行動している。


時間を稼いで逃げることを目標に掲げては駄目だ。


あいつを倒して、帰るんだ。


それくらいの気持ちで戦わないと負ける。


未だに痺れる指で斧を強く握る。


覚悟を決めたアスタロートは、再度接近戦を選ぶ。


斧を振るい冷気の斬撃をピィカの行く手を阻むように飛ばし翼をはばたかせて接近していく。


「ハハハ。バカの一つ覚えか。その技はもう何度も見っ!!!」


ピィカは冷気を簡単に避けるが、アスタロートはその瞬間にピィカに追いつく。


アスタロートの接近に気づいたピィカは、アスタロートの斧に込められたオーラ量に驚愕する。


「はぁぁぁぁ。」


まだ戦闘経験の浅いアスタロートは、単純にオーラを武器に注ぎ込み強化した斧で攻撃するといった攻撃を繰り出すが、フルーレティーによって強化されたアスタロートの攻撃は異常なほどの冷気を纏っておりピィカに取って十分脅威であった。


バリバリバリバリ。


ピィカの剣とアスタロートの斧が接触した瞬間冷気がはじけ飛ぶ、周囲の気温は瞬時に氷点下へと変わり、斧と接している箇所から大剣が凍り付いていく。


ピィカは、氷が自身を覆う前に大剣を咄嗟に手放すが、凍る剣に気を取られてしまっていたためアスタロートの蹴りへの反応が遅れる。


「グハ。」


アスタロートの蹴りが直撃したピィカは、体をくの字に曲げて吹き飛ぶ。


ビリビリビリ。


ピィカを直接蹴り飛ばした脚が痺れる。


だが、ピィカにもダメージは入ったはずだ。


吹き飛ばされたピィカは受け身を取って瞬時に立ち上がるが、蹴られた場所を手で押さえており、武器の大剣は手に握られていない。


アスタロートは、地面に転がっているピィカの大剣を拾い地面に突き立てる。


剣の柄の部分を触るが静電気のようなビリビリしか感触が伝わってこない、青紫色の雷で覆われていた剣は今、薄い氷で覆われており光の反射で青白い剣へと様変わりしている。


「武器は奪った。大人しく引き返すなら、武器は返し私は立ち去る。」


ピィカを人さらいのメンバーから遠ざけたいだけのアスタロートは、自身の優勢を感じ停戦を呼びかける。


「クハハハハ。武器を奪って、たった一撃を私に入れただけでもう、勝者気取りか。私は特記戦力ナンバー2の雷光のピィカ。その驕りがお前の敗因だ。」


ピィカは蹴られた場所を押さえていた手を前にかざす。


「通電。」


「ギャァァァァ。」


突如、大剣が黄色の雷光が輝き出し、大剣を触っていたアスタロートは感電し体が硬直する。





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