第64話 特記戦力 ピィカ戦

アスタロートの額に嫌な汗が流れる。


先ほどの攻撃が最速の攻撃といっていたはずだ。


「この武装オーラを纏うのは久しぶりだな。この武装を纏って勝てなかった相手はばぁ様を除いて一人しかいない。」


「さっきの攻撃が最速の攻撃じゃなかったのかよ。」


「クハハハハ。誇るといい。正真正銘あれが私の最速の攻撃だ。君は私の最速の攻撃を確かに捕らえたのだ。だが、戦いは速さだけじゃない。君が言ったように、速ければ小回りがきかないのだよ。次は、小回りのきく速さで力強く戦う。」


「ふん。そんなこと言っていいのかよ。」


「問題ないから言っているのさ。スピード特化で戦うってことは、リスクがつきものでね。鈍重な敵やスピード自慢の敵には良い攻め手なんだが、オールラウンダーで私の攻撃を見極められてパワーのある相手には戦い方を変えているのさ。」


言い終わると、ピィカが突っ込んでくる。


ピィカの速さは相変わらず速いがこの速度なら十分対応できる。


バリン。


ピィカの雷を纏った剣とアスタロートの氷の斧が交わる。


「ぐっ。」


歯を食いしばったのは、アスタロートの方だった。


剣を受けた斧からの衝撃が強い。


まるで、巨岩を相手に斧を振るっているような感覚だ。


斧を交わった剣は、滑るようにピィカのステップと共に橫へずれていき、2撃、3撃と打ち込まれる。


アスタロートは、たったの数撃で防御へと追い込まれていく。


剣から伝わる力は互角くらいで、速さも十分ついて行ける。


技量や経験の違いもあるが、アスタロートを追い込んでいくのは、剣から伝わってくる、電流による痺れだ。


強いオーラを纏うと、周囲へ影響を及ぼすことがあるが、それが戦闘へ大きく影響する属性はさらに希だ。


アスタロートの冷気は近づくと寒いくらいで、フルーレティーに強化された今濡れたタオルを振り回すと凍るくらいの冷気ではあるが、所詮寒い程度だ。


ピィカはの雷属性は、一撃一撃に電流が流れるように痺れるような体の硬直が生まれる。


アスタロートのような体の丈夫な亜人や魔族は攻撃を普通に受けても問題ないが、並の人間が攻撃を受けると痺れで動けずに負けてしまう。


そんなピィカの攻撃を何度も受け止めるアスタロートは間違いなくタフだが、痺れによる体の硬直で少しずつピィカに押されていく。


アスタロートも徐々に押されてきていることは分かっている。


「クハハハ。この程度か。身体を強化してもらって、私の速さに着いてこれるようになっても、それを扱う技量が足りなければ勝てないぞ。」


「クッ。」


このまま接近戦を続けていたら押し切られてしまう。


自分の振りを感じ取り、距離を取ろうと脚を動かすが、ピッタリと着いてくる。


強化された体は、間違いなく今まで経験したこのないアクロバティックな動きを可能にしているが、難なくそれに着いてくるピィカ。


追いつかれたピィカの攻撃を斧で受けずに身を翻し避けるが、避けきれずに少し切られるがそれでいい。


斧で受けなかったため、ピィカに隙が出来る。


ここだ。


「おらぁ。」


普段なら相手を死なせてしまうような攻撃はためらうが、今の全く余裕のない戦いにそんなことを考えることは出来ない。


冷気を込めた範囲攻撃をピィカの死角から振り抜く。


勝ちを確信した攻撃にアスタロートは信じられなかった。


うそだ。


死角からの攻撃を見えているかのように躱していくピィカ。


空振りに終わったピィカはすぐさま体を折りたたみアスタロートの攻撃を予想して回避したのだ。


当たると思っていた攻撃が避けられたアスタロートは、その衝撃にカウンターの隙を作ってしまう。


回避したピィカはそのまま体を小さくし、地面に手をついて雷を纏った片足で回し蹴りを見舞われる。


「ウッ。」


反応できなかった。


アスタロートの横腹に食い込んだ脚はそのまま振り抜かれ、吹き飛ばされる。


森の方へ吹き飛ばされたアスタロートは木の枝を何本かへし折りながら吹き飛ばされたが、すぐに立ち上がる。


脇腹は鈍く痛むが戦えないことはない。


辺りは、木々に囲まれていて、うっそうとしている。


ノーズルン達もこの森を抜けたのだろう、複数の足跡が森の奥の方へと続いている。


最初に攻撃をもらったときよりもかなり威力が高かったが、フルーレティーの強化魔法のおかげで耐えることが出来た。


蹴られた場所をさすりながら立ち上がると、奥の方にピィカが見える。


「亜人はタフな奴が多くて困る。」


「人間は強くなると背中に目が生えてくるのか?」


そんな物生えてくるわけがないことは理解しているが、決まったと思った攻撃が見えているかのように避けられたことに皮肉を飛ばす。


「フン。あの体勢から考えられる攻撃を予想して避けただけだ。分かるか?これが技術の差だよ。いくら、魔法で強化されようとも戦闘センスの差は埋まらないようだな。」


「チッ、言ってろ。」


どうやら、本当に運だけではなく実戦経験を元に確実に避けたようだ。


ピィカに接近されることを嫌ったアスタロートは、接近される前に攻撃を始めた。


斧をバトンのように振り回し、威力が少しでも高まるように体全体を使いながら冷気の斬撃をピィカに向かって飛ばす。


中距離攻撃だ。


斬撃は飛距離に応じて徐々に分散していき、威力も低下していくが、その分攻撃範囲は広い。

離れていた場所に立っているピィカにとっては、オーラ武装ではじける威力の攻撃だったが、先ほどの死角からの攻撃から距離を取って大きく避けることを選択する。


アスタロートは気づいていないが、空振りに終わった冷気を強く纏った攻撃は、ピィカの体温を奪いピィカに少なからず影響を与えていた。


近くで冷気の攻撃を受けては危険だと察知したピィカも、中遠距離攻撃にシフトしていく。




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