第63話 特記戦力 ピィカ戦

フルーレティーがアスタロートに手を向けて自慢げにふざけた別れを告げた。


「ふざけてなんていないわよ。」


「じゃぁ。バイバイバインって何だよ。ふざけた別れの挨拶じゃないか。」


「はぁ。助けに来てやったのに怒るわよ。ちゃんとした呪文よ。」


「えっ。魔法なの?」


怒鳴りつけるフルーレティーは、羽根で羽ばたかせ空を飛びながら説明をする。


「あんた、自分の体をよく確認してみなさい。」


フルーレティーに言われて、先ほどまでふらついて立てなかったのがすんなり立てるようになっていることに気づく。


体の調子を確認しながら立ち上がったアスタロートはあることに気づき思わず綻んでしまう。


フルーレティーが知将であることを知ったとき、勇者に押されていたフルーレティーは単純に頭の良さを買われて知将の座を頂いたのかと思っていたが、どうやら勘違いだったようだ。


「ふふふ。その顔は気づいたようね。私はね。戦闘では、リザリンにも負ける自信があるけれど、戦闘サポートに関していえば世界屈指の実力を持っているのよ。」


フルーレティーの言葉に嘘はないだろう。


凄い力だ。


体の痛みが消えた。


体が軽く力が漲ってくる。


それに、オーラもまだまだ纏えそうだ。


「すごい。力が漲ってくる。」


素直にそう思えた。


敗北必至だったが、これなら時間を稼ぐどころか互角にやり合えそうだ。


「キャハハハハ。そりゃそうよ。誰の強化魔法だと思っているの?私の強化魔法は、対象の潜在能力を最大限引き出す魔法よ。強化された動体視力であいつの動きは把握できるはずよ。負けたら承知しないんだからね。じゃぁ、私はリザリンを回収して帰るわ。後で会いましょう。」


そう言うと、フルーレティーは、空高く飛び上がって、リザリンが飛ばされた方へと飛んでいった。


「おい。結局すぐ帰るのかよ。」


「当たり前でしょ。私があんな化け物相手に戦えるはずないでしょ。」


アスタロートとしては一緒に戦ってほしいものだったが、フルーレティーにはそんな気はないらしい。


ピィカは、再度オーラを纏い始める。


「フン。強化魔法ごときで埋まるような力の差ではないだろう。」


強化魔法で受けたアスタロートは大幅なパワーアップを肌で感じているが、目に見えないピィカは侮っている。


フルーレティーの強化魔法が常識から逸脱しているため、ピィカが侮るのも仕方ない。


「それは、やってみないと分からないだろう。」


アスタロートがオーラを纏い初めて少しして、ピィカの表情が変わっていく。


アスタロートが纏っているオーラがどんどん膨れ上がっていく。


凄い、倍くらい強化されている。


オーラ量はピィカを完全に上回っている。


力を込めオーラ武装を作り直す。


オーラ武装の色合いは若干青みが深くなっている。


周りの温度も極端に低くなってきている。


「どうやら、強化魔法に関して世界屈指というのは嘘ではないようだな。流石知将というべきなのか、素晴らしい強化魔法のようだな。」


「強化されたのは纏えるオーラ量の強化だけじゃないぜ。」


「ふん。それがどうした。纏えるオーラ量が増えようとも、強い身体能力を得ようとも、私を捕らえることが出来なければ私には勝てない。」


ピィカが剣を構えてオーラを纏い始める。


バチバチバチ。


ピィカの体から雷が放電し始める。


強いオーラを纏うと希に周囲へと影響を与えることがあり、ピィカは雷属性への適性が高く強くオーラを纏うと雷を放電する状態になる。


アスタロートも同じで、周囲の気温が下がるのはこれが原因だ。


フルーレティーによって強化されたアスタロートがオーラを纏うことで、周囲の温度は更に下がり、アスタロートの近くでは、空気中の水分が結晶化した雪がチラついている。


初夏くらいの季節感だったが、肌の感覚的に気温は氷点下になっているだろう。


寒くはない、むしろ心地よい。


氷属性に特化したアスタロートは、冷気への耐性があり凍えることはない。


ピィカとアスタロートが数秒見つめ合う。


ピィカのまなざしは鋭く、油断はしていない。


先ほどと同様に剣を構えるピィカ。


アスタロートも瞬時に理解する。


先ほど同様の技が来る。


目をこらしてよく見ていると、地面を蹴り急速に接近してくるピィカが見えた。


その速度は、強化魔法を掛けられたアスタロートでも視認することで精一杯の速さだ。


「ハッ!」


ピィカの動きに気づいて息をのむともうピィカが眼前に迫っている。


先ほどは偶然防げたが、今回はしっかり視認できている。


ピィカの剣の動きに合わせて力一杯斧を振るう。


「うぉらぁぁぁ。」


振りかざされた剣と斧は交わることなく、通り過ぎていく。


アスタロートは、すぐに振り返りピィカの方へ振り返る。


アスタロートが見据えた先には、ピィカも止まり振り返っている。


ピィカがブレーキを掛けた地面は焦げており、ピィカの速さを物語っている。


「おい。どうして避けたんだ?」


アスタロートがピィカに煽るように質問する。


剣と斧が交わらなかったのは、ピィカが瞬時に剣を引き、斧を掻い潜りそのまま通り過ぎたからだ。


「少し侮りすぎていたようだから引いたまでさ。」


大剣と斧が交わる瞬間に力負けすると判断したピィカが引いたのだ。


「勝てないと思ったなら逃げてもいいんだぜ。」


「ふん。調子に乗るなよ。今さっきの攻撃だって受けられなかった訳ではない。ただ、君の力量を測りにいっただけだ。」


「ふーん。で、どうだったんだ?」


「私が、全身全霊をもって相手する存在であることが分かったよ。」


バチン。


そう言い終わると、ピィカの雷の質が変わった。


黄色がかっていた雷は、武装オーラの雷は青くなり放電している雷は紫色に変色した。


先ほどまでは、剣を交えるたびに、電気が流れたような感覚が伝わってきたが、今は近くにいるだけでビリビリと痺れるような感覚が伝わってくる。


おいおい。こいつまだ本気出してなかったのかよ。





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