第62話 特記戦力 ピィカ戦

目の前から消えたピィカは、リザリンの振り被った拳の下に潜り込み蹴りを見舞っていた。


「グハッ。」


リザリンは拳を振り下ろすことも出来ずに、弾丸のように森の中へ吹き飛んでいく。


力一杯リザリンを蹴り飛ばしたピィカはアスタロートに背中を向けており、隙があるがアスタロートは動けなかった。


速い。


速すぎる。


今一瞬目で追うことが出来なかった。


今まで見たピィカの動きの中で最速だった。


あの速度には、ついて行けない。


すぐに、空へ逃げることも考えたが、戦い始めてからそれほど時間持ったっていないためアスタロートがここでリザリンを連れて逃げることが出来てもみんなには追いつかれるだろう。


アスタロートは、自分のことを信頼してくれている仲間を裏切ることにはかなりの理由がないと出来ない。


つまり、彼らのためにピィカを留めさせなければならない。


「どうした?攻撃してこないのか?」


ピィカもカウンターを狙っていたのかも知れないが、攻撃してこなかったアスタロートに声を掛ける。


真正面から戦っては行けない。


オーラを消費するが仕方ない。


アスタロートは、オーラから魔法を発動させるために集中する。


辺りの気温が下がっていく。


まともにやり合って勝てそうにないのであれば自分が有利に戦える状況に変えるしかない。


「アイスワールド!!」


アスタロートを中心に氷の大地が波紋状に広がっていく。


ピィカは、大地と共に氷着かないために氷の波を飛び越える。


「フハハハハ。これで俺のスピードを封じたつもりか?」


「スピードを封じるだって?俺は小回りを封じたのさ。」


氷の大地は摩擦力があまり働かず方向転回しにくい。


バクマン戦では、霜を下ろす程度だったが、今はアイススケートのような氷のリングを作った。


当然アスタロートも動きにくくなるが、アスタロートの駆動力は脚だけじゃない。


アスタロートは、翼を広げ羽ばたかせる。


オーラ武装が重く、軽く羽ばたかせる程度ではそれは飛べないが、脚で支える体重が極端に減り、氷上での移動を容易にする。


ピィカは簡単には曲がれないが、アスタロートはいつもと変わらずに動ける。


アスタロートが狙うのは、真っ直ぐ突っ込んできたピィカの攻撃を避けた後のカウンターだ。


アスタロートは、羽根を羽ばたかせながらその場に留まり、斧を構える。


「ほう。亜人のくせに何か策を講じたようだな。だが、いかなる策を講じようとも圧倒的な力の差があれば無意味だ。一撃だ。神の速度と呼ばれた私の最速攻撃でお前を沈めよう。」


ピィカが大剣を構えた瞬間、雷鳴が轟いた。


バチバチバチバチ。


アスタロートが、大地を凍らせたことで乾燥していた空気が、ピィカの雷が加わり空気がヒリつく。


雷を極限まで身に纏ったのか、大気へと放電を続けており、ピィカの髪の毛が電気により逆立っている。


ピィカの全力を見たアスタロートは、自分に言い聞かせる。


落ち着け、大丈夫だ。


魔王の一撃は避けきれなかったが、それほどではないはずだ。


ピィカを注視しろ。


リザリンを攻撃した際、目で追えなかったあの速度が最速だろう。


ピィカは、大剣を水平にして矛先を右後方へ向け構えている。


「えっ」


困惑の声を漏らしたのはアスタロートだった。


確かに注視していたはずだった。


油断などしていなかったし、目線も放していなかった。


離れた位置で構えていたピィカが眼前で大剣を振り上げている。


そこからの出来事は、コマ送りのように把握することが出来た。


人が危機的状況に陥った際に希に起こる現象で、状況を覆すために脳の働きが活性化されることで周りの動きが遅く見える。


ピィカの剣の軌道上にアスタロート斧があったため、力を込めるだけで防げる。


そう認識した瞬間、コマ送りの世界が動き出す。


バチィン。


大剣が斧に接した瞬間、アスタロートが吹き飛ばされる。


アスタロートは訳も分からないまま、地面に転がり木にぶつかり止まる。


ピィカ最速の技は、アスタロートの予想を遙かに大きな力を生み出していた。


受け身を取れずに地面を転がったアスタロートは、頭を強く打ちすぐに立ち上がれない。


翼が痛むが、体に大きな怪我はない。


武器も放さずに持っている。


ピィカを見ると、アスタロートが生成した氷上から離れた場所にいる。


尻餅をついたままのアスタロートは、立ち上がろうとするも上手く立てない。


今の状態で、追撃をされたらまずい。


ピィカは、勝敗が決したと判断したのか、放電状態を解きゆっくりと近づいてきていたが、しずかに脚を止め上空に視線を動かした。


上空に誰かいる。


「だらしないわね。あんた私の側近なのよ。これくらいの相手に簡単に負けるようじゃ許さないからね。」


頭上から突如声を掛けられ、そちらを振り向くと、そこにはフルーレティーがいた。


そうだ。


当初、人狩りにはフルーレティーも現地で落ち合う話だった。


「すまんが、こいつは洒落にならない強さだ。」


「知将のフルーレティーにも会えるなんて、今日はいい日だな。戦闘能力の劣る知将がわざわざこんなところに来るなんて、何を考えているんだ?」


フルーレティーがアスタロートのすぐ隣に降り立つ。


助けに入ってくれたフルーレティーには悪いが、確かにピィカの言うとおり、勇者パーティーに押されていたフルーレティーがピィカに勝てるとは思えない。


「最近の子は知らないのね。いいことを教えてあげるわ。戦闘力が劣る、私が知将を任された実力を見せてあげるわ。」


フルーレティーのオーラが膨れ上がっていき、アスタロートに手をかざし呪文を唱える。


「バイバイ~バイ~~~ン!!」


「・・・あのぉ。ふざけてるんですか?」







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