第35話 vs騎士団

「水流針矢。」


痛みを感じた方向を見るとポメラニスが口に手を当て針状の水弾を飛ばしてきている。


バクマンの攻撃に気を取られていたアスタロートは、直撃する直前まで気づかなかった。


直撃してもかすり傷程度だから無視をすれば良かったのだが、一瞬気を取られてしまった。


その一瞬で、バクマンに少し追いつかれる。


急いで距離を取らなければ追いつかれる。


脚に力を込めて、地面を蹴ろうとしても蹴れない。

地面を舐めるように脚が滑り、体が傾いていく。


地面を見ると、水たまりが出来ている。

ポメラニスの攻撃により辺りが、水浸しになっているのだ。


「追いついたぞ。アスタロート!」


バクマンが、飛びかかってくる。

斧を取っていない手で体を支え、とっさに斧を振るう。


とっさに振るった斧は、バクマンの手のひらにある小さな光源を切り裂いた。


ドォォォン。


一瞬の閃光とその後に続く爆風で吹き飛ばされるアスタロート。


爆発の中心はモクモクと煙だっており、バクマンの姿は見えない。


「外した。ポメラニスつなげ。」


爆発の熱風で熱い。


双剣を構えたポメラニスが、真っ直ぐに突っ込んでくる。


あーー。イライラする。


すこぶる体が軽く相手の二人に遅れなど取らないはずなのに、コンディションが悪い。

この爆発でほぐれた大地にポメラニスの水が加わり動きを阻害している。


もう後手に回るのはやめよう。


攻撃の火力さえ間違わなければ、殺してしまうこともないだろうし、うかうかしているとやられかねない。


今もポメラニスが追い打ちを掛けるために、迫ってきている。


足下が滑りやすいことが分かってしまえば注意して動けばいい。


だが、アスタロートは、全力で動き回ることを望んでいる。

滑れないように注意しながら動くなどもってのほかだ。


「まずは、足下をなんとかしないと。そのためには・・・。」


ポメラニスの攻撃を避けていては先ほどの繰り返しだ。


魔力を込め魔法を施行する。


近づいてくるポメラニスに目もくれず、斧を地面に突き立てる。


「ハッ!」


アスタロートが込めた魔法は冷気を纏った衝撃波として周囲に広がっていく。


至近距離まで近づいていたポメラニスは、衝撃波を両手に持った剣をクロスにして、衝撃を受け止め、バックステップで距離を取る。


冷気を纏った衝撃波により爆発で上がった気温が急激に冷める。


「ポメラニス大丈夫か?」


「えぇ。大丈夫です。少し。」


ポメラニスは、体に霜が付いているが問題なく動いている。


二人はアスタロートから距離をとり体勢を整えており、またオーラを集めている。


冷気の衝撃波で随分と気温が下がったようだ。

二人の吐息は白くなっている。

アスタロートにはちょうど良い気温なのだが、氷属性に対する耐性があるからそう感じるだけだ。


蹄で土の軟らかさを確認すると、霜が降りた後のようシャリシャリと音が鳴る。


なるほど、これはちょうど良いかも知れませんね。


凍った地面を見てアスタロートはイメージを形に変えるために魔法を施行する。


バクマン達は離れたところでオーラを練っている。


二人を警戒しながら地面に手を当てる。


「アイス・グラウンド」


初めてSF物語の役をもらったとき技の名前を叫ぶのが小恥ずかしかったのを覚えている。


魔法の技はCG加工されるため、実際の撮影現場はただの魔法の呪文を全力で叫んでいる人だった。


仕事とはいえ、大勢のスタッフに囲まれて技を叫ぶのは恥ずかしかったのが懐かしい。


まぁ、撮影終盤になるとのりのりで詠唱していて、少しスタッフに引かれていたが。


辺りが更に涼しくなる。


ちょうど気持ちい気温だ。


地面が完全に凍り付き、ポメラニスがまき散らした水は凍っている。


地面を軽く踏んで見るもパキパキと音を立てる。


脚で地面を蹴って見るも、滑らなさそうだ。


これで、存分に動ける。


「ポメラニス、もう一度するぞ。」


「はい。」


二人は、まだまだやる気みたいだ。


二人の吐息は、白くはっきりと見える。


アスタロートにとってはちょうど良い気温だが、普通の人間に取っては寒い。


ウォーターケージで覆われた限られた範囲で、アスタロートが衝撃波で空気を冷やし、大地を凍らせたことで気温がぐんと下がっているのだ。


バクマンはオーラを纏いきっているが、ポメラニスはまだ纏いきれていない。


それもそうか、先ほどから攻撃を防いでばかりで上手く戦えていると思われているのだろう。


でも、それももう終わりです。


これから、存分に体を動かせると思うと気分が乗ってくる。


格の違いを見せつけて、謎キャラっぽい雰囲気を出して遊んでから帰ろう。


「あなたたちは、随分とお強いようですね。でも、私の相手にはまだ少し早いようですね。」


空を覆っていた水の膜は、未だに健在だ。


水の膜に覆われていて未だに外へ逃げ出せない状況だが、漠然となんとかなる気がしている。


「ふん。防戦一方だった奴が何をいう。」


バクマンがオーラを再度纏って立ち上がる。


纏っているオーラは先ほどと同じくらいだ。


「それは、私から攻撃を仕掛けなかっただけです。ただ、中途半端に強いと力加減が難しいので・・・。あなたたちは、勇者よりお強い。」


「ふん。勇者一行の成長速度を知らないようだな。勇者は際限なく強くなり続けることが出来るから勇者なのだ。次に勇者パーティーと出会う頃にはお前では勝てない。まぁ、もう勇者パーティーと会うこともないがな。」


「ほう。次に会う日が楽しみです。それに、心配しなくても、私はもう勇者と戦う気はありませんよ。と言っても、あなたたちは信じないのでしょうけれど。」


「フン。分かっているではないか。懸賞魔人の言う戯言など信じるはずもないだろう。」


「あなたに、人の話を聞く器の大きさがあれば怪我をせずに済んだのに・・・。」


「ポメラニス、もう一度いけるか?」


「はい。お任せください。次は押さえ込んでみせます。」


遅れてオーラを纏いきったポメラニスが再び前に出てくる。


もう、ポメラニスの服に付いていた霜は解けている。


ポメラニスが、真っ直ぐ突っ込んでくる。


バクマンは、また隙を突いてくるのだろう、少し離れたところで援護の態勢だ。


一カ所の留まっていては、先ほどのように死角を突いて攻撃してくるだろう。


動き回って死角を減らしてバクマンの動きに注意しながら立ち回るべきだ。


アスタロートもポメラニスの方へ向かって走りだす。


「クッ、流水舞々剣」


アスタロートが動き出したことにポメラニスも反応し攻撃してくる。


「その攻撃は先ほどもう見ましたよ。」


地面をしっかりと蹴れるアスタロートに動きを阻害する物は無い。


今日のトップスピードだ。



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