第36話 vs騎士団


脚が軽い、風を切る頬の感触も後ろに流れていく景色の速さもいつもと違う。


学生の頃、陸上部に入部する人たちの気持ちが分からなかった。

冬の授業でする持久走なんて最悪で寒い、だるい、しんどいの三重苦だった。

ただ、今走ることが好きだった人の気持ちが分かった気がした。

頬が風を切る感触が気持ちいい。

ずっと、こうして走ってみたいものだ。


もちろんずっと走ることは出来ず、すぐにポメラニスの間合いに入り、双剣で攻撃を仕掛けてくる。


対するアスタロートは、ポメラニスの連撃をすべて斧で払い落としていく。


足下の環境1つ変わるだけでここまで動き回れる用になるのか。


ポメラニスは、器用にアスタロートの力任せな攻撃をいなしながら攻撃を繰り出す手を緩めない。


アスタロートとポメラニスはお互いの立ち位置を変えながら壮絶な打ち合いを続ける。


魔王と攻撃をし合った時を思い出す。


あの時は、魔王は徐々に力が増してきて対処出来なくなっていった。


あの時と立場は逆だ。


脚を動かしめまぐるしく立ち位置を変えながらポメラニスと攻撃を打ち合う。


攻撃し始めたポメラニスは力任せの攻撃に驚愕していた。


くそ。先ほどまでの受けに回っていたのは戯言ではなかったのか。


速い。


ポメラニスはもっと速い人と戦闘訓練をしたことがあるりその際身につけた技術でなんとか対応できている。


速さもそうだが、何だこの力は・・・。


戦闘経験の差かアスタロートの攻撃は単調で攻撃を読まれているが、迎撃を簡単にさせない速さと力があった。


アスタロートの攻撃を上手くいなさないと剣がへし折られそうだ。


剣の攻撃を防ぐことに集中していたポメラニスは、剣以外の攻撃に反応が遅れた。


何回目かの斧の攻撃をいなした後に、視界の端から黒い影が迫ってくる。


アスタロートの脚だ。


とっさに剣を十字に構えて衝撃に備える。


ポメラニスの2つの剣はアスタロートの脚を防ぐが、想像の数倍をいく攻撃に耐えることは出来なかった。


「キャ。」短い悲鳴と共にボールのように吹き飛ばされるポメラニス。


あっ、やべ。

強く蹴りすぎた。


アスタロートとしては力まずに体の赴くままに脚を振り抜いたのだが、リラックスした状態から繰り出される蹴りは鞭のようにしなやかでアスタロート全力の蹴りと遜色ない威力を生み出していた。


「ポメラニス!!」


バクマンが、ポメラニスと入れ違うように割り込んでくる。


追撃はするつもりはなかったが、向こうも追撃をさせないつもりらしい。


「双爆裂拳!」


強引に割り込んできたバクマンと対峙する。


「次は、あなたですね。隙を突いて一撃で沈めるんじゃなかったのですか?」


「チッ、作戦変更だよ。」


あからさまな舌打ちをして苛立ちを隠さないバクマン。


両手にオレンジ色のオーラを集めて突っ込んでくる。


バクマンの魔法はもう理解している。


オレンジ色の靄に触れるかバクマンの手に捕まらなければいい。


ポメラニスとバクマンの戦闘スタイルは扱う魔法属性が違うため当然違う。


両手でアスタロートに触れようとしてくるバクマンに対して、アスタロートは斧を振り回し近づかれないように立ち回る。


バクマンはアスタロートの直線的な攻撃を掻い潜りながら近づいていくが、同じだけアスタロートも後方へ下がるためバクマンとの距離は縮まらない。


「くそ。」


思わず悪態をついてしまうバクマン。


チラリと視界の端でポメラニスの状況を確認するが、立ち上がろうとしているが負傷からか立ち上がれずにいる。


だが、この悪態はやられてしまったポメラニスに向けられていたものではなく、作戦を支持したバクマン自身に向けたものだ。


作戦失敗だ。ポメラニスに前線を任せるべきではなかった。


バクマン一人では、アスタロートを倒すのは難しいことを理解している。


ポメラニス一人で隙を作るのは難しいことも理解していた。


ポメラニスが戦線に復帰出来る見込みがない以上バクマン一人で戦うしかない。


戦況はより悪い方に運んでいる。


アスタロートのアーラ武装は強固だが、この世に突破出来ないオーラ武装もない。


攻撃を当てて少しずつオーラ武装を削っていくことは出来るが、戦闘中に上手くオーラを練りながら戦うことは困難を極める。


勝機は少ないが勝ち筋がないわけではない。


こうなることが分かっていれば、はじめから二人で長期戦をしたのに・・・。


バクマンは、勝ち急いでしまったのだ。


だが、ここで諦めてしまうような騎士ではない。


最後の瞬間まで自身の勝利を信じられない者に勝利はないことをバクマンは知っている。


1対1での戦闘で致命的な隙になるのは、オーラを練っているときだ。


この隙を極力なくすために魔法は最低限のしように押しとどめていたバクマンだが、攻撃が出来ないのであれば意味がない。


爆発するオレンジ色のオーラの靄を1つまた1つと、戦いながら設置していく。


バクマンは先ほどと同様にアスタロートの行動を制限するようにして優位に立てるように立ち回る。


「その技を見るのは、2度目ですよ。」


周囲に何個目かの靄が出来たとき、アスタロートはバクマンにそう囁き霞から距離を取る。


アスタロートが、距離を取ってすぐにバクマンはオーラを練り消費したオーラの回復に努める。


バクマンは待ちの姿勢で、オーラの靄から離れた場所から戦うつもりはないようだ。


霞は、アスタロートの体に当たると爆発する。


ならば、遠距離から攻撃して爆発させてしまえばいい。


アスタロートは氷柱を生成して、オレンジ色の霞に投げつける。


野球経験などはないが、アスタロートの放った氷柱は狙い道理にオレンジ色の靄めがけて飛んでいく。


「無駄ですよ。」


氷柱が霞に当たろうかというときにバクマンがそう告げる。


投げた氷柱は、オレンジ色の霞が爆発することなく通り抜ける。


「この霧はまだオーラでしてね。魔法ではないから干渉できないんですよ。もちろん、私の意思でと爆発する魔法となりますがね。」


この世界に住んでいる人々は自然環境にあふれている魔力を体内に吸収し体に纏ったものをオーラと呼び、オーラを消費して魔法を放つ。


オーラそのものには何の力にはならないが、オーラを纏った人の意思で魔法に変えることが出来る。


オーラは一般的に体や武器に纏うが、バクマンはオーラ事態を体から切り離し周囲にとどめさせることが出来る希有な人材なのだ。


「どうした?攻めてこないのか?」


バクマンがオーラを回復して、1つまた1つとオーラの靄を増やしていく。


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