第32話 vs騎士団

辺りが煙に包まれバクマンの位置が分からなくなる。


このままでは、相手の位置が分からないしが相手も状況は同じはずだ。


アスタロートが、煙幕が晴れるのを待っていると、突如煙の中からバクマンが現れる。


「なっ!」


地面を這うような低い姿勢で、走ってきたバクマンにアスタロートは気づかなかったのだ。

両手には、オレンジ色のオーラを纏っており、爆発前の予兆としてもう明るい閃光を出し始めている。

周囲にあったオレンジ色の靄は俺の背後にいくつかあるはずだ。


背後には、避けられない。


斧を縦に振るい攻撃するも、ひらりと左に避けられてその勢いは止まらない。


アスタロートは、逆側に大きくステップを取り距離をとる。


バクマンの両手は爆発寸前まで、輝きを増しており直撃は避けられたが、距離が近すぎる。


アスタロートは、両手を顔の前でクロスにして爆風に備える。


ド、ドン。


破裂音が2回響いた。


爆風は、どこまで強くなかったが、バクマンの両手からまたモクモクと黒い煙を出している。


バクマンとの距離が開き、また見えなくなる。


そのまま大きく距離を取り離れる。


一旦、この煙幕から出るべく移動すると頬が濡れた。


水だ。


すぐに背後を確認すると、アスタロートに剣を振り下ろすポメラニスがいた。

ポメラニスの体には、ほとんどオーラが残っていない。

オーラを練らずに、回り込んで隙を伺っていたのだ。


クッ。こいつ、魔力練ってたんじゃないのかよ。

予想外の出来事に悪態をつくアスタロート。


振り下ろされる攻撃が、魔王との戦闘で最後に戦った時の動きと重なる。


とっさに、振り下ろされる剣に翼をクロスし、翼に力をいれ目一杯魔力を込める。

魔王と戦った時と同じ動きをしてしまったのだ。


実際に、ポメラニスと魔王の火力には大きな差がありポメラニスの攻撃に対して過剰な防御だ。


翼に力を入れた場所からどんどん氷に覆われてきて攻撃が届く前に防御態勢が整う。


「海流断罪剣。」


カキン。


剣を翼で受け止めたのち、剣が纏っていた海流の衝撃が来る。

滝に打たれるような衝撃が翼越しに伝わってくるが、身構えていた以上の衝撃は来なかった。

魔王と同じ火力の攻撃を想定したアスタロートが纏っていたオーラすべてを注ぎ込んだ全力の防御だ。

魔王には、簡単に突き破られてしまったが、そう簡単に突破される防御ではない。

それが、ビビンチョ町最高戦力の攻撃であってもだ。


「くっ。硬い。」


ポメラニスの海流断罪剣は、そもそもの剣の切れ味が強化されており、量産された安物の剣であれば簡単に両断できる技だ。

もし、剣の攻撃を受け止められても、剣の衝撃のすぐ後に被弾する滝のような水流に打たれ体勢を崩したところを、次の刃でとどめを刺すポメラニスの必勝法の技だ。


この技で、ビビンチョ町のトップまで上りつめたのだ。

この技をまともに正面から受けられたことはない。


もちろん、ポメラニスより強い騎士は大勢おり、バクマンもその一人だ。

騎士の手合わせで、ポメラニスが負けることはよくある。

だが、そのすべては海流断罪剣を避けられての敗北で、受け止めたものはいない。


ポメラニスは、背後を取ってからの奇襲で完全に勝てると算段をつけたから、オーラを纏わずに攻撃に転じたのだ。

その最後の攻撃を真正面から受けられたオーラの残っていないポメラニスにできることはないが、とっさに精一杯のオーラで防御したアスタロートも魔法は使えない。

魔法が使えない同士では、純粋な身体能力がものをいう。

そして、単純な身体能力では、亜人に軍配が上がる。


傷一つついていない翼の奥から覗くアスタロートの瞳と目が合い、戦慄するポメラニス。

殺される。


ポメラニスは、すぐに死を覚悟するが、すぐに攻撃がこなかった。

アスタロートの身体能力を持ってすれば、瞬時にポメラニスを亡き者に出来る身体能力が備わっているが、それを実行するだけの精神力が無かったのだ。


その一瞬の隙が、ポメラニスを生かすことになる。


「下がれ、ポメラニス!奥義 流星ボム。」


バクマンの声を聞き何とか、何とか離脱する。


流星ボム、バクマン様の切り札だ。

空気中に漂っている爆発するオレンジ色のオーラが、一斉に相手の元へ飛来する極悪非道な技。

あまりの火力と必中から手合わせでは禁止されることが往々としてある。


四方八方から飛来するオレンジ色のオーラ。

咄嗟に、翼で体を覆うアスタロート。

オーラの尽きたアスタロートは瞬時に魔法を打てないが、先ほど防御に使用した氷の翼がある。

練りに練ったオーラをすべてつぎ込んだだけあってその硬度は計り知れないが、その強度についてアスタロートは理解していない。


飛来する爆発をすべて翼で受け止める。


バクマンとポメラニスには成すすべなく立ち尽くし流星のごとく降り注ぐいくつもの爆発が直撃したように見える。

モクモクと爆発の煙が立ち込めアスタロートがどうなっているか確認できない二人は、数秒状況を確認し煙の中で動きがないことを確認してアスタロート撃破を確信する。


「直撃ですね。流石です。バクマン様。」


「ハァ、ハァ。動く気配はなし、奴の冷気も感じない。とりあえず撃破だな。俺としたことが、勝負を急いでしまった。」


アスタロートの纏うオーラは氷属性でそのオーラは周囲に冷気をまき散らす。

その冷気を感じないバクマンは、アスタロートの撃破を確信する。


「いえ。勇者を倒しただけあってかなりの強敵でしたね。今日、視察でバクマン様が来られていなかったと思うと冷やりとします。」


「いや、ポメラニスお前にも助けられたよ。オーラを練り直すと見せかけ決死の奇襲。あの隙が無ければこうはならなかった。緊急のタイアップだったが上手く連携が取れた。ありがとう。」


「お褒めいただきありがとうございます。町の入口に大きな穴を作っていただきありがとうございます。流石は穴掘りの貴公子と呼ばれることはありますね。」


「あー。疲れた。それ褒めてないよね。なんてこというのさ。」


「人の名前で遊ぶ人に言われたくありません。」


バクマンは、その場にしゃがみ込み休憩する。

二人ともまとったオーラをすべて使い切っているがもう一度魔力を練ればまたすぐに戦えるが、バクマンの疲労はポメラニスを大きく上回っている。

バクマンの魔法は空気中にオーラを分散させ漂わせる。

オーラを体から切り離しそれをコントロールするのは高度な技であるものを、バクマンはいくつものオーラの塊を空気中に漂わせコントロールし、それをアスタロートへと移動させる流星ボムは非常に高度な技であり、西国内でもバクマンただ一人が使用できる技である。

当然、過大な集中力と大量のオーラを必要とし疲労からしばらく動きたくなくなる。


「にしても、なかなかの強敵だったな。身体能力もオーラ量も格上だった。勝てたのは奇跡だな。」


「はい、もう一度戦いたくはありませんね。もう勝てる気がしないです。では、煙が晴れたら私がアスタロートを捕縛するので、穴掘りの貴公子は穴埋めの準備を。」


「おいおい。ポメラニスは少々人使いが荒いようだな。」


ポメラニスは、アスタロート捕縛のために爆発でえぐられた大地へと近づいていくが、穴の縁で立ち止まり剣を構える。


「バクマン様、戦闘準備を・・・。」


ポメラニスが、魔力を練りオーラを体に纏いだす。


「まさか。直撃したんだぞ。」


バクマンが立ち上がり、穴の中を確認すると、立ち上がるアスタロートの姿が見えた。



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