第31話 vs騎士団

頭を抱えて悩むバクマンに、眼鏡の騎士が耳打ちする。

頭を抱えていたバクマンの手が、頭から離れこちらを見てくる。

その顔に迷いの目はなくなっていた。


「そうだな。すまないが、隣町まで同行してもらおう。ちょうど次の視察は勇者が療養している隣町だ。もし君がアスタロートではないのなら手間をかけてさせてしまって悪いが、君にとって悪い話ではないはずだ。このまま、放置しておくと、次の町でも同じ問題起こるだろう。」


いや、会えるわけがない。勇者になんかあったら、瞬時に本人だとばれてしまう。

勇者に会いに行くと詰んでしまう。


「いや。それは、ちょっと・・・ダメかなぁ。」


バクマンの目が鋭く光る。


「ほう。この誘いを断るということは、何を意味するのか分かっているのかい?」


もちろん分かっている。

ここで、行かないと言えば、アスタロートであることを黙認したことになる。

だが、行くなんて答えられるはずもない。


「・・・。」


なんて答えたらいいのか分からず黙り込んでしまう。


「無言は、肯定と受け取るよ。」


再び、戦闘態勢に入るバクマンと女騎士のポメラニス。


もし、勇者の町に行けば、この二人に加え勇者や町の騎士も相手にしなければならない可能性が高い。

そうなるのであれば、いまここでこの二人から逃げる方がいい。


会話の途中少し魔法を解きかけたのか、空気中に漂っているバクマンのオーラが薄くなっていたが、オーラの色がまた濃くなっていく。


「そうか。では、君がアスタロートで、人を捕食する亜人なんだね。」


「いや、ちょっとまて。もう、アスタロートだと認めるけど、人は食べないし、これには事情というものがあってですね。」


「たわけ、懸賞魔人のいうことなど信じるものか。俺はこの目で見たんだからな。」


いや、ついさっき俺が介抱していたっていったら、結構信じてたじゃん。


眼鏡の女騎士も戦闘態勢に戻っている。

剣には水が纏っている。


俺の斧も氷を纏ったままになっている。


オレンジ色のオーラが背後から近づいてくる。

斧を振るって切り裂いてみるも、水蒸気を切っているようで、オーラが消えることはなく、急いでその場から離れる。


ドォン。


強い発光と共に爆発するオーラ。


爆発すると分かっていれば避けるのは簡単だが、周囲のオレンジ色のオーラを避けながら戦うのは厄介だ。


爆発音を皮切りに女騎士が攻撃してくる。


剣に水を纏って走ってくる女騎士の背後には、水しぶきが立っている。

波のように迫り来る彼女の姿は芸術的でもある。

対する俺は、斧での受けの姿勢。

下手に動くと爆発に巻き込まれるから動かないで剣を受ける。


「流水裁断剣。」


斧を盾にして攻撃を防ぐが、剣の勢いを殺しきる前に剣をいなされ、水の流れのようにその場で回転し、2撃、3撃と攻撃してくる。


「くっ。」思い通りに戦えていないのか、女騎士の顔はどんどん険しくなっていく。


剣士の腕は悪くないのだろ。

だが、魔王との戦闘と天と地ほどの差がある。


魔王が身にまとうオーラはもっと濃かった、この二人は、二人合わせて私と同じくらいのオーラ量だ。

この世界にきて3度目の戦闘だが、分かったことがある。

戦闘の勝敗は、身体能力とオーラを纏える量である程分かる。


身体能力が秀でている方が、相手を力任せに負かせたり速さで相手を翻弄させることもできる。

実際に、アスタロートの種族は身体能力が高く、騎士の二人は身体強化をしてやっと、その身体能力についてきている。


また、瞬時に施行できる魔法は身に纏っているオーラ量に比例する。

身にまとったオーラで数回魔法を放つか、一度に大きな魔法を使うかは状況に応じて分かれるが、魔法に使用したオーラ量が多ければ多い程技の火力が上がる。

アスタロートとの戦闘で魔王が身にまとったオーラはアスタロートの4倍ほどであった。

この二人は合わせてアスタロートと同じくらいのオーラ量だ。


オーラを使い果たしたらまた、オーラを練ればよいがそこにスキが生まれる。


女騎士のオーラは攻撃のたびに見る見るうちにオーラが減ってゆく。

それに対して、アスタロートのオーラはあまり減っていない。

女騎士が焦っているのは、自分のオーラのほうが先に切れることを理解しているからだ。


斧から発せられる冷気がかなり寒いのか、女騎士の吐息が白くなり、飛び散っていた水しぶきは、瞬時に氷、雹となってあたりに散らばる。


このままいけば、女騎士のオーラが先に消えオーラを練る隙が生まれる。

戦闘においてその瞬間は大きな隙になる。

アスタロートにその気はないが、女騎士のオーラが途切れた瞬間に範囲攻撃を行うと、相手は魔法抜きの身体能力と自身の身に着けている防具のみで防がなければならない。


連撃を、その場で受け止める。

相手のオーラが尽きるのを待つが、バクマンがそれを黙って見ているはずもない。


「ジポラニス、下がれ。」


指示を聞きすぐに下がる女騎士。


「ポメラニスです。ついに、犬の名前でもなくなりましたね。」


アスタロートの周囲にオレンジ色の靄が複数ある。

爆弾だ。


ポメラニスが離れたところを起爆するのだろうが、そうはさせない。


この場で、一番安全な場所はポメラニスの近くだ。

仲間を犠牲にして攻撃はしてこないだろう。


ポメラニスに追従するようにあとを追い攻撃を避ける。


ポメラニスを追いかけることで、安全に爆破地帯から抜け出す。

自身がアスタロートであることがバレてから、すべきことは決まっている。

無力化してからの逃亡だ。

ポメラニスに手を伸ばし捕まえようとする。


「チッ、爆塵風。一旦引け。俺が出る。」


バクマンがポメラニスとアスタロートを包み込むような煙幕を張る。

視界が極端に悪くなる。



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