第29話 この町の騎士団

「だから、黙れって言ってるだろ。」


私がしゃべろうとするとリーダーらしき男が会話の邪魔ばかりする重騎士に叫ぶようにしかる。


「で、ですがバクマン様。噂に聞きますと、アスタロートは魔力系統ではない変な叫び声のような呪文を使って、相手を呪殺するって噂が・・・。」

「やっぱりそうだ。見ろよあの角、今まで食べられてきたモコモッコ羊の憎悪から生まれてきた亜人だって聞いたぞ。恐ろしいい。もう、人間はモコモッコ羊の亜人に家畜して飼われるんだぁ。」

「俺は、素手でレジェンド級盾を破壊したって聞いたぞ。こんな、量産型の大盾なんて持ってたって意味がねぇ。わぁぁぁぁ。」


恐る恐ると声をかける重騎士に目線を向けると叫び始めた。


重騎士たちの噂話に少しだけ心当たりがある。

勇者との戦闘で変な声の悲鳴を上げたが、勇者たちは魔法と勘違いしていたし、盾持ちのランスの盾は拳で破壊まではしていないがへこませた。


「そんなものが有るはずないだろう。できたとしても、膨大な魔力を練る必要があるからオーラが見えるはずだ。奴からは、オーラが見えないから戦闘態勢ではない。」


中央の2人が頭を抱える。


「バクマン様、ここの町出身の騎士はこのような根も葉もない噂話を信じるビビりばかりです。」


「君も苦労しているのだな。この町がビビンチョ町と呼ばれているわけが分かったよ。町民もおおよそそんな人ばかりなのだろう。だが、守るべき民であることには変わりない。」


このままじゃ、戦闘になりそうだ。

バクマンとかいう騎士と眼鏡の女騎士を相手に戦うのは大変かもしれない。


言葉を発さずに、俺が手配書の俺と違うとこと示すにはこれしかない。


バサッと、翼を広げるアスタロート。


どうだ。手配書の俺はこんな翼など持っていないぞ。


「ひぇぇぇぇ。見ろ。カラスの羽だ。カラスは神の使者だぞ。やつは、モコモッコ信者が奉るモコモッコ邪神の使いなんだ。もう終わりだー。」


「つまり、こいつは邪神の使いなのか!俺たちが勝てるはずがない。」


なんだよ。そのモコモッコ羊が入信しそうな宗教。


俺が、カラスの翼をもっていることを認識するとまた騒ぎはじめる。


「俺は逃げる。騎士団は町民を守護する存在だが、邪神の使いを相手にするのは管轄外だ。」


1人が逃げ出すと続いて続々と逃げ出していった。


「はぁ。もうよい。全員行け。どのみちこいつ相手はお前らには務まらない。」


その声を聴くや否や全員が身を軽くするために盾や剣をその場に捨てて走っていった。


ものの数秒でこの門前の広場から重騎士がいなくなる。

広場に残るのは、俺と二人の騎士のみだ。


「さぁ。これで、邪魔者もいなくなったな。」

「バクマン様。本音が出ております。」

「ふん。ここで本音ではない事実さ。さぁ、存分にやろうか。」


二人の周りにオレンジ色のオーラと水色のオーラが見えてくる。

魔力を練っているのだろう。

特にバクマンとかいうオレンジのオーラをまとっている方は魔王や力将よりもオーラは薄いが、勇者たちよりも随分と濃いオーラをまとっている。

周辺地域最強も伊達ではないようだ。

だが、俺には戦う理由がない。


「ちょっと、待ってもらおうか。人違いなんだ。」


「そのオーラで人違いだとは言わせないぞ。手配書の姿とも共通点がかなり多い。翼がないことが唯一の違う点か。手配書の修正を依頼せねばならないな。」


そうやら、相手が魔力を練ったことで自分も魔力を練っていたようだ。


「聞いてくれ、俺はお前たちと戦う理由はないんだ。」


「お前になくてもこっちにはあるんだよ。ポメラニアン2人でやるぞ。」


「ポメラニスです。バクマン様。」


どうやら、二人はやる気満々のようだ。

バクマンは両手にナックルがついている手袋をはめて、眼鏡の騎士は細い剣を構える。


「私は、爆発の貴公子。バクマン様だ。以後はないがよろしくお願いします。」


「バクマン様、嘘はつかないでください。あなたの二つ名は、穴掘りの貴公子です。この前の騎士団カードバトルでそう書かれていると姪っ子が教えてくれました。」


「その話はするなぁ。」


バクマンは、両手にオーラを集めると突っ込んでくる。


構えからして、モンクなのだろう。


眼鏡の騎士も細い剣に水をまといながらバクマンの後ろを走るようについてくる。


女騎士は、水属性の魔法だが、バクマンのほうがなんの魔法なのかわからない。

魔法属性の特徴は魔法を練った際のオーレの色に現れる。

女騎士のほうは、青色のオーラで水を剣に纏っているから水属性かそれに近い特性だろう。

バクマンは、両手にオレンジ色のオーラを待っとっているだけだ。

その属性が何を表すのか予想がつかない。


しばらくは防戦して、頃合いを見計らって撤退しよう。


女騎士が人差し指と中指を立てる。


「ウォーターケージ」


女騎士が唱えると、辺り一帯を包み込むように水の膜のドームが完成する。


「でかした、ポメラニス。後で餌をやろう。」


「あなたの飼い犬ではありません。」


すぐ近くまで来たバクマンが、大きくジャンプをし拳を後ろに引くと、オレンジ色のオーラの拳が強く輝きだす。


これは、時限爆弾が爆発する瞬間に似ている輝きを見たアスタロートはとっさに距離をとって、バクマンとアスタロートの間に氷の壁を作る。


その瞬間に、炸裂音が聞こえた。



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